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最悪の男

   ◆


 翌日は学園の講義がある日だった。

 広い講義室の教壇ではグレンがスキルやステータスについての講釈をしていた。


「――以上の事例からも分かるように、〈スキル値〉というのは一種の指標に過ぎん。個々の膂力、魔力によって、その技の威力も大きく前後する。次に、このグラフを見てほしい――」


 どうやら生徒たちの反応を見る限り初歩的な内容のようだが、俺にとっては非常にタメになった。


「――このように、〈HP〉とは肉体のダメージを肩代わりする『加護』のようなものだ。HPがゼロになった瞬間から、受けたダメージは直接身体へ降りかかる。もちろん、HPを大幅に超えるようなダメージを受けてしまった場合、待っているのは……死だ」


 なるほど……。俺は今までHPが0になったら死んでしまうと思っていたが、違ったようだ。

 つまり、俺の場合は【HP:2,736】を削りきられた後にダメージを食らうと、死ぬ。

 うーん。なんだか大丈夫そうな気がしてくる。

 リヴィアなんか、HPが六億八千九百万あるしな。


「お前たちの頼りにしている〈レベル〉も、いわゆる強さの数値ではない。経験、徳、成熟度、あるいは刈り取った命の数……様々な要素が複雑に絡み合っていると言われている。レベルが高ければ、HPに代表されるような『肉体の加護』は増していくが、当然、戦う相手のレベルをどれだけ上回っていようと必ず勝てるものではない。逆もまた然り。どれだけレベルが高い相手であろうとも、頭を使い、機転を利かせれば、自ずと勝ちは見えてくるものだ」


 それはなんとなく分かる。

 俺と、このグレン先生で考えても、俺の方がレベルはずいぶん上だ。

 しかし、それでも俺自身が彼と生身で戦って勝てるヴィジョンは全く浮かばない。

 レベルが高いからとゆめゆめ油断するな、ということだなぁ。

 実際、『超高レベル』と言うような実感も全く無いし。


 などとぼんやり考え事をしていると、授業終了の鐘が鳴った。

 グレンが授業を切り上げ、途端に教室がざわつく。

 俺はぞろぞろと動き出す生徒たちとともに、校舎のエントランスに向かった。


「お……?」


 一階エントランスの掲示板に、見慣れない大きな張り紙があった。

 周囲に人だかりができている。


 【国立学園創立記念パーティー 開催のお知らせ】。


 張り紙の見出しには大きくそう書かれていた。


「創立記念パーティーか……」


 特に興味があるわけではないが、もしかしたら例の『本物のヴァンライン家の息子』も参加するかも知れない。


「日時は一週間後……。暇だったら行ってみるか」


 俺が顎に手を当てて思案していると、後ろから肩を叩かれた。


「コージさん! やっと会えた!」


 ふっくらとした優しそうな顔立ちに白い制服……クララだ。

 今日は大きな弓と矢筒を背負っている。


「ご無沙汰。あれから、大丈夫だった?」

「ええ、まぁ……」

「……? まさか、まだ――」


 俺が訪ねようとしたとき、向こうから白い制服の一団が歩いてきた。

 オーレンとその仲間たちだ。

 周囲の生徒たちが蜘蛛の子を散らすように立ち去っていく。


「あんれー? ブタ子ちゃんと、試験のときのカッコマンじゃ~ん!」


 オーレンの横にいたティルが言いながら近寄ってくると、クララの表情が強張ったのがわかった。

 俺が無言でクララをかばうように背中に隠すと、ティルの表情に不快そうな色が差した。


「はぁ? なにその態度。ボク、ブタ子ちゃんに用があるんだけど」

「この子は無いみたいだけど?」

「なに? 調子乗っちゃった系? 勘違いはやめたほうがいいと、ボクは思うなぁ」


 ティルの意地悪く歪んだ視線を真正面から睨み返す。


「怪我したいの?」

「それは、こっちのセリフだな」


 殺気を漂わせ始めたティル。

 俺も、腰のマジックバインダーに手を掛ける。


「……あっはっはっは! ウケる! キモい!」


 ティルは突然腹を抱えて笑いだすと、踵を返した。


「でも、その態度……いつか後悔することになるから気をつけなよ」


 ちらりと振り返って言う瞳は、全く笑っていなかった。


「あ、ティル殿……!」


 取り巻きの数名がその後を追う。

 オーレンとシュピーゲル、数名の取り巻きが残った。


「……お前ら、約束を守ってないのか?」


 俺が問いただすと、オーレンが表情一つ変えずに返答した。


「勘違いすんな。俺はあれ以降、口もきいちゃいねぇよ。ティルは知らねぇがな」

「僕は初めから興味ありませんから。オーレン、先に行きますよ」


 シュピーゲルがつまらなそうに言い残して去っていく。


「おい、お前らも先にいけ。俺はコイツに用がある」

「オーレン殿、ヴァンライン家の息子と私闘はさすがに……!」

「大丈夫だ。いいから行け」


 オーレンが取り巻きに言うと、取り巻きはおどおどと迷いつつもシュピーゲルの後を追っていった。


「……クララ。先に行ってな」


 心配そうな顔のクララの背中を押す。

 クララは振り返り振り返り、廊下を歩いていった。


ブックマークありがとうございます!

じわじわと伸びています。

感謝……!

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