あの男、再び
東大通りは通り沿いに花壇が整備された美しい通りだ。
行商人が言っていたであろう店はすぐに発見できた。
「〈ゲイルズ・ドレスアンドアーマリー〉……。んん……?」
なんとなく既視感のある店名。
大きなガラス張りのドアを開けて入店すると、一人の大柄な男性が俺に気づいて迎え入れてくれた。
「ようこそいらっしゃいまし! あらん、素敵なメ☆ン☆ズ……って、あら? コージくんじゃない」
「げ……ゲイルさん!?」
「あ! あのときの面白い人だ!」
レッジェーロの洋裁店の、あの濃ゆ~い店長だ。
「やだも~! お久しぶりじゃない! レッジェーロでの活躍、見てたわよ。じゅん、としちゃったわ」
そう言って笑うゲイルに思い切り肩を叩かれて、危うく吹き飛びそうになった。
「レッジェーロのお店はいいんですか? 店長だったはずじゃ……」
「ノンノン! アタシはオーナーよ。ここが本店☆ レッジェーロ店は他の人に任せてきたわ」
「な、なるほど……」
「それより、コージくん。その制服……。うふ。やっぱり、アタシの目に狂いは無かったってことね。でもさすがに、高貴な家柄の生まれだとは思わなかったわ」
ゲイルがそう言いながら俺の制服の胸をつつく。
「あ、いや……これはちょっと色々とあってさ」
俺が苦笑交じりに経緯を話すと、ゲイルは愉快そうに笑った。
「やだも~! さすがね。お騒がせなメ☆ン☆ズ! それで? 今回はどんな物がご入用かしら?」
「そうだな――」
俺が要望と大体の予算を告げると、ゲイルはパチンと指を鳴らした。
「とっておきのがあるわ」
言ってから、俺の疑いの視線に気がついてころころと笑った。
「や~ね~! 大丈夫だって!」
そう言って店の奥に引っ込んでいく。
店内は吹き抜けの二階建てで、レッジェーロのあの店の倍くらいはある。
ここを本店に、他にも何箇所も店を構えているのだろうか?
だとしたら、そうとうな豪商なのではなかろうか……?
すると、店のバックヤードからゲイルが戻ってきた。
「今回ご紹介するのは、これよ」
通販番組のような事を言いながら、一点の服を広げた。
肌着のような感じだが、その生地は微細な金属で編み上げられていて綺羅びやかな輝きを放っている。
その輝きは、見る角度によって七色に変化する不思議な色合いだ。
「純霊銀、総編み上げのチュニック。アルトー王国の〈風切谷〉製。エルフの技術による一品よ」
「うわ。すごい軽いな。持ってないみたいだ」
羽根のように軽い。そして、金属とは思えない絹のような手触りだ。
装備品の名前は【霊銀編みのチュニック】。
これなら制服の中に着れそうだし、最高だ。
「本当なら結構値の張る代物なんだけど……街の英雄ですもの。入学祝いも兼ねて、大特価! さっきの予算で売ってあげるわ」
「……! ありがとう……!!」
「さっそく着て見せてちょうだい」
「見たい見たい!」
ゲイルとリヴィアに促されて、試着室で制服の上を脱いで着てみる。
ひんやりとするけど暖かいような、不思議な着心地だ。
「あら、いいじゃない」
「うんうん! コージ、似合ってる!」
褒められて、悪い気はしない。
俺は自分の身体を見渡しながら、ふと気になったことを尋ねた。
「そういえば、エルフの技術って言ってたけど、この大陸にはエルフがいるのか?」
「ええ。グランクレフ四つ国の各所に、それぞれの国とは独立した勢力として隠れ住んでいるの。寿命の極めて長い彼らは、魔帝国時代の技術と伝承を今なお受け継いでいるというわ」
「昔はエルフだけじゃなくて、亜人や獣人の種族も人間と一緒に暮らしてたんだけど……今はバラバラになっちゃってるみたいだね」
リヴィアが少し寂しそうに呟くと、ゲイルは懐かしい話を聞いたように微笑んだ。
「おとぎ話では、そうなってるわね。魔帝国崩壊と時を同じくして、エルフの一部と人間以外の種族は新天地を求めて海を渡った……と」
「へぇ……」
俺がこの異世界の遥か昔の出来事に思いを馳せていると、ゲイルが「さて!」と気を取り直すように手を叩いた。
「その商品はお買い上げでよろしくて?」
「ああ! 色々とありがとう」
「いいのよ。また来てちょうだい」
会計をしたのち、俺たちはゲイルに見送られながら店を後にした。
東大通りに戻った俺は、制服の中に着た強力な防具に安心感のようなものを感じながら大きく伸びをした。
「コージ、これでまた強くなったね!」
リヴィアが自分のことのように嬉しそうに言う。
「強いのは俺じゃなくて、リヴィアたちだろ? といっても、これで俺本体ももうちょっとタフになれたかな」
確認のためステータスを開く。
【坂内コウジ Lv:453
HP:2,736/2,736
マナ:0/4107
AP:400/400
ジョブ:召喚師
スキル:召喚術 400 魔獣語 80 幻獣語 80 神獣語 80 観察 60
装備品:学園の制服 霊銀編みのチュニック】
「おぉ。ちゃんとした防具が加わるだけで、結構それっぽくなるな。……さて」
東大通りの軒並みを改めて眺める。
雑貨屋、食料品店、武器を扱っている大きな商店もある。
「武器か……。ランスロット、なにか武器を持っといたほうがいいかな?」
尋ねると、すぐにランスロットから返事があった。
『いえ、すでにお持ちのショートソードでも今のところ事足りるかと存じますが……』
そういえば、以前買ったものの使いこなせないで放りっぱなしの片手剣が荷物の奥に眠ったままだ。
帰ったら久々に手入れでもしてみるか。
「あとは……そうだ。冒険者ギルドに行かないとな」
「あたしは……ふぁ~。お昼寝でもしようかな」
リヴィアが伸びをしながら言う。
「そうか。何かあったらまた呼ぶよ」
俺がそう言ってカードに戻そうとすると、リヴィアが『とてて』と近づいてきて前から抱きついてきた。
俺の胸にぐりぐりと顔を押し付ける。
「おいおい、なんだ?」
「ん~。ふふ」
俺が海色の髪を撫でると、リヴィアは悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
う~ん。我が召喚獣ながら、たぶんこの世で一番可愛いな。
しかも、こうして甘えてくるくせに、気がつくと最後はいつも俺が甘えさせられてるから怖い。
非常にあざとい。
リヴィアはパっと俺から離れると、
「じゃあ、またね」
そう言って勝手にカードに戻った。
「自由なやつだなぁ」
ふわりとこちらに飛んできたカードを苦笑しながら手に取ってバインダーに戻す。
周囲から不思議そうな視線を投げかけられるが、いちいち気にしていられない。
俺は冒険者ギルドを探すために、今度は一人で通りを歩き出した。




