リヴィアとおでかけ
見上げるような白亜の市門をくぐると、整然と美しいテノールの〈学園区〉が広がっている。
人通りは多く、俺と同じく制服姿の者もちらほら見かける。
今日は学園は休日なのだ。
生徒もそれぞれ仕事だったり、休養や自己の修練だったりの時間に充てている。
「そうだ。このまま、街に出てみるか」
「お~。賛成!」
リヴィアが嬉しそうに言う。
寮に戻って無為な時間を過ごすのもアレだ。
冒険者ギルドに行ったり、装備を買いに行ったりしなければならない。
面倒くさくて、ここまで後回しにしてきてしまったが。
ギルドも大きな商店も、〈商業区〉の方だ。
小さな商店やギルドの出張所なら学園区にもあるが、どうせなら商業区まで行ってみよう。
「ミアたちはどうしてるかな……?」
寮に行けば会えるだろうか。
「……無いな」
女子寮の周りをこそこそとうろつく自分を想像して身の毛がよだったので、一人で行動することにした。
リヒャルトを誘おうかとも思ったが、彼と二人での行動は半日で数日分の体力を持っていかれそうなのでやめておいた。
学園区から出るのは初めてだ。
ここから商業区へは市内を巡る巡回馬車に乗っていくのが早いらしい。
〈学園区市門前〉の駅がすぐそこにあったので、俺はリヴィアと二人でベンチに腰掛けて馬車を待った。
天気がいい。
空を見上げると、白い市門に一辺を切り取られた真っ青な空が広がっている。
どこからか聞こえる鳥の声と、学園区の静かなざわめき。
俺は不意に、日本での事を思い出した。
休日出勤を早々に切り上げた土曜の午後。
ぼんやりと座っていた飯田橋駅のホームのベンチ――――
「不思議だなぁ。世界はどこも一緒なんだ」
俺が小さく呟くと、リヴィアが首を傾げた。
「……? なぁに?」
「いや、なんでもない。……というか、俺にもよく意味が分からん」
「ふふ。変なの~」
二人で笑っていると、市壁沿いの通りの奥から二頭引きの箱馬車がゆっくりと走ってきた。
八人乗りだ。婦人が一人と男性が一人、座席に座っている。
俺が二人に軽く会釈をしながら乗り込むと、馬車は再び走り出した。
「馬車なんて久しぶり。何千年ぶりかなぁ……」
「俺は初めてだよ」
リヴィアと小声で会話しながら窓の外を流れる街並みを眺める。
商業区の中心までは小一時間かかるようだ。
箱馬車はタイヤにサスも効いているようで、乗り心地は悪くない。
ぱかぱかという蹄の音を聞きながら、俺はうとうととまどろんでいった。
ふと目を覚ますと、俺はリヴィアの膝の上に頭を乗せて横になっていた。
他の乗客はすでにいないかった。
リヴィアの細い指が俺の頭を梳くように撫でていて、少しくすぐったい。
「あ、起きた? もうすぐ着くみたいだよ」
「ん……」
もう少しこの状態でいたかったが、ややして御者が〈商業区中央広場〉への到着を告げてきたので、俺は渋々身体を起こした。
馬車がゆっくりと停まる。
降りると、眼の前には噴水を囲むような円形広場が広がっていた。
市民、商売人、冒険者……多様な人でごった返している。
建物や石畳が白で統一されているのは学園区と一緒だ。
しかし、ここではその整然と揃った街並みの上から、商店のカラフルな看板、旅商人の広げる極彩色の織物、行き交う人々の多様な衣服、二階の軒先で揺れる色とりどりの洗濯物――まるで白いキャンバスに絵の具をぶち撒けたように、雑多だが活力に溢れる景色が広がっていた。
「あの、すんません。この辺に装備とか冒険者向けの服を買える店ありませんか?」
近くに座って店を広げていた行商人に尋ねる。
「冒険者向けかい? そしたら、東通りだな。一番でかい店構えだから、行きゃ分かるぜ」
行商人はそう言って広場から四方に伸びる大通りの一つを指さした後、何かを受け取るようにその手を俺の方に向けた。
「……?」
俺がキョトンとしていると、行商人が『ほれほれ』と言わんばかりに手で急かす。
「……ああ。なるほどね」
俺は苦笑しつつ、ポーチから硬貨を取り出して一枚行商人の手のひらに乗せる。
行商人は満足げに頷いて、その硬貨を懐にしまった。
「リヴィア、行こうか」
「は~い」
俺たちは人混みを縫うように東大通り方面へと向かった。
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中々、大きく評価はされませんが……(笑)
まだまだコージ達の旅は続きます!




