召喚術の特訓
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それから数日が、学園や授業の説明会などで慌ただしく経った。
そんなある日の朝早く。
俺は一張羅の白い制服姿で、首都テノールから小一時間ほど歩いた渓谷の中にいた。
赤茶けた岩壁が左右から迫るようにそびえている。
「――〈炎尖牙〉!」
俺が叫びながら右手を振り抜くと、前に立つリヴィアがそれをトレースするように炎の槍を投擲した。
〈炎尖牙〉が数十メートル先の岩壁に着弾し大爆発を起こすのと同時に、俺はすでに次の魔法をイメージしていた。
「〈氷刃〉ッ!」
左手に持った〈マジックバインダー〉を軽くリヴィアへ向ける。
リヴィアが無から長大な氷の剣を生み出した。
同時に、俺が幾つもの太刀筋を頭の中でイメージしていくと、リヴィアはそれを順番にトレースして〈氷刃〉を振るう。
「はあぁっ!」
リヴィアの気迫が声に乗る。
〈炎尖牙〉で焼けた大気を、〈氷刃〉の生み出す冷気が凍てつかせた。
「〈濤波〉……!」
俺のイメージをコンマ数秒の誤差で追って、リヴィアは荒れ狂う水の奔流を無から生み出した。
「うおおッ!」
イメージを加速させる。
リヴィアが、岩壁に迫る〈濤波〉の爆発的な水流に超速で〈氷刃〉を振るった。
――ビキビキビキ!
巨獣の突進を思わせるような質量の波が、一瞬で凍りついていく。
――ゴガガガッ!!
凍りつきながら迸る〈濤波〉の氷柱は、岩壁をまるで角砂糖のように破壊しながら突き刺さった。
「はぁ……はぁ……」
岩と氷の巨大なオブジェを眺めながら肩で息をする。
〈マジックバインダー〉を武器のように構える左手に、じんわりと汗が滲んでいた。
「……くはぁ。こんなもんか」
気を抜くと膝の力も抜けたので、俺はそのまま座り込んだ。
『主。確実に腕を上げておりますね』
ランスロットが言う。
リヴィアが小走りに戻ってきて、俺の横に座った。
「あー楽しかった! コージとあたしのシンクロ率も上がってきたね~」
「ああ。早朝から練習したかいがあったよ。ありがとな」
「えへへ~」
くしくしと海色の髪を撫でると、猫のようにじゃれついてきた。
俺はそばに置いたバックパックから水の入ったボトルを取り、一口喉を潤して一息つく。
――なぜ俺がこんなところで環境破壊に励んでいたかと言うと、『召喚術の練習』というものを試みていたのだ。
今までもリヴィアと二人で練習していたことはあったのだが、ここにきてようやく〈召喚師〉の感覚が掴めるようになってきた。
諸所の文献によれば、召喚獣それぞれによって制御方法はことなるらしい。
俺は所持していないが、オーガやリッチなど低レベルな〈魔獣〉はだいたい【フルオート】状態で簡単な命令しか聞かないという。
ランスロットのような特殊な例もある。
そして、リヴィアの場合は【マニュアル】から【フルオート】まで自由にコントロール率を変えられるようだった。
リヴィアとの〈マナのシンクロ率〉が上がるに連れて、俺の脳内にはリヴィアが発揮できる技や魔法のほぼ全てがリストのようにイメージ出来るようになっていた。
そして、【マニュアル】状態でコントロールする時は、もはやリヴィアは自分の分身のように感じながら動かすことが出来る段階にまで達している。
感覚的には、日本にいた頃に結構やりこんでた『格ゲー』の感覚に近いかもしれない。
ただ、肉体的、精神的な疲労は比べ物にならないが……。
そして、恐らくだが〈海神状態〉の場合はリヴァイアサンの力が俺のイメージ力を遥かに超えているため、俺が全てをコントロールすることは不可能だろう。
「おお。もうこんな時間か」
太陽がだいぶ高いところまで登ってきている。
俺は荷物をまとめると、街への帰路へついた。




