旅の仲間
テノン学園は全寮制で、寮は〈魔術校〉と〈騎士校〉で別々の敷地になっていた。
一般寮は四人部屋の共同生活らしいが、俺が入れられてしまった〈特級クラス〉――貴族たちのクラスの生徒には完全個室の特別寮が与えられる。
「うーん、この待遇……。申し訳ないやら恐ろしいやら……」
俺はその特別寮の自室でベッドに寝転びながら、大きな窓から差し込む夕陽を眺めていた。
白いカーペットに、高級感のある調度類。清潔でふかふかなベッド。
さらに、二日に一度のペースで掃除が入るらしい。
今までの安宿のカビ臭い部屋とはとんでもない違いだ。
「すごいいい部屋! 勘違いされてラッキーだったね~」
窓から外を眺めているリヴィアが呑気な声で言う。
「いや、バレた時が面倒臭いぞこりゃ」
「何をおっしゃいますか。主ほどの人物であれば、この程度当然の待遇です。むしろこの部屋では質素と言えましょう」
部屋の隅に浮かぶ人魂、ランスロットが言う。
「勝手なこと言うなぁ」
俺はそれを苦笑交じりに笑ってから、今後のことを思案した。
校長は『父上から息子を頼むとの書簡が届いている』と言っていた。
ということは、本当の〈ヴァンライン家のご子息〉がこの学校のどこかにいるということだ。
これは、なんとかしてその〈本人様〉とコンタクトを取らないとややこしいことになる。しかし、どうも本人は素性を隠してるっぽいし、見つかるか不安なところだ。
それと、お金を何とかしないとなぁ。
この学園は国立だが、それなりに学費もかかるようだ。
住環境はこうして手に入ったが、衣、食の方は自分でなんとかせねばなるまい。
他の貴族たちと違って、俺には実家からの仕送りなど無いのだ。
とりあえず、今の所はレッジェーロの冒険者ギルドが〈クラスター〉の一件に際し何やかんやと理由をつけて釣り上げた報酬を予算から出してくれたので、その貯金で何とかなるだろう。
しかし、それでずっと生活していけるものでもない。
「早めに、ここの冒険者ギルドに登録しとかないと」
実際、冒険者をやりながら学園に通っている一般の生徒も沢山いるようだ。
学校の授業が週に数日しか無いのも、そういった事情があるのかもしれない。
うーん。考えることがいっぱいだ。
「……そういえば、ミアたちはどうしてるかな」
俺がふと呟くのと同時に、リヴィアがベッドの俺の隣にダイブしてきた。
「おわっ」
「えへへ~」
横からじゃれるように抱きついてくる。
あ、ふとももで脚を挟まないで。色々と『反応』してしまう。
「ねぇねぇ、後でミアたちのとこに行ってみようよ!」
間近から俺を見上げながらリヴィアが言う。
「そうするか。しかし、携帯もないし連絡が取りづらいったらないなぁ」
俺が言いながら頭を撫でると、リヴィアは目を細めて喉を鳴らした。
その日の夜半。大きな月の光が学園の庭を照らしている。
ミアたちと合流したのち、俺たちはそのまま街の酒場になだれ込んで、なんだかんだで帰りはこの時間である。
「あ~、楽しかったぁ」
隣を歩くリヴィアが伸びをしながら言う。
会って俺の現状を話すと、ミアに大爆笑された。
リヒャルトはランスロットみたいなこと言うし、心配してくれたのはマールだけだ。
ミアはやれ部屋が汚いだの、隣室のアミスターの高笑いがうるさいだの散々に愚痴をたれていたし、リヒャルトはひたすらワインのボトルを開けて歌ったり意味不明なことを叫んでいるしで、散々だった。
それにリヴィアが加わって馬鹿騒ぎするもんだから、場の盛り上がりは想像の通りだ。
しかし、今後への漠然とした不安やもやもやは「ま、なんとかなるか」とさっぱり消えてしまっているので、仲間というのは不思議なものだなぁ。
夜も更けたのでマールが心配だったが、ミアとリヒャルトが一緒だから大丈夫だろう。
俺の方も、召喚術のコントロール力が上がったのか、『非戦闘状態』であればAPの消費をほぼ0に抑えてリヴィアたちを呼び出すことが出来るようになっていた。
もちろん魔法などを使った瞬間に規定のAPをごっそり持って行かれるが、日常で荷物を持ってもらったり同行するだけの分には出しっぱなしでも問題無さそうだ。
「ねぇ、見て見て。今日、満月だね」
リヴィアが空を指差す。
たしかに、ホットケーキみたいにきれいな満月が夜空に浮かんでいた。
「すごいな……。そういえば、こっちの世界に来て初めてちゃんと月を眺めたかも」
立ち止まって空を仰いだ。
しばらく無言で月を眺めていると、不意にリヴィアが俺の腕に抱きついてきた。
肘のあたりが柔らかな感触に挟まれる。
「どうした?」
「ん~? えへへ……べつに!」
リヴィアがそう言って無邪気に笑った。
「変なやつ」
俺もつられて笑う。
俺たちは月明かりの下を、ゆっくりと歩き出した。




