勘違い
校長室は騎士校本棟の一階にあった。
俺は迷いながらも辿り着いて、ドアを静かにノックする。
「はいってよいぞ~」
のんきな声が聞こえてきた。
部屋に入った俺の顔を見ると、フランツ校長はデスクから立ち上がって迎え入れてくれた。
「これはこれは……。わざわざご挨拶に来てくださるとは」
「……?」
なんだか妙な対応だ。
試験で目立ってたとは言え、平民の冒険者だぞ?
とにかく、俺は疑問と要望を伝えることにした。
「あ、あの。なんで俺が〈騎士校〉に? 〈魔術校〉で申請したはずですが……?」
「ひょ? ひじょ~に不思議なことを言うのう。余の眼の前で剛剣を披露しておったではないか」
「あ、あぁ……? ああ!?」
そうか! 俺がランスロットを召喚して戦っていた事が分かっていたのは、俺と俺の関係者だけだ。
他のものには、当然、ただ単純に俺が剣で戦っていただけにしか見えない。
「やっちまったなぁ……。っていうか、それはまだしも、なぜ貴族のクラスに!?」
俺が問うと、フランツはキョトンとした顔をして答えた。
「なぜ、と言われてものう。あの代々の英雄を排出する騎士の名門〈ヴァンライン家〉のご子息を平民クラスに入れようものなら、余の首は宙を舞ってしまうぞよ」
「ゔぁん……なんだって?」
俺が怪訝な顔をすると、フランツはころころと笑った。
「はっは。よいよい。ひじょ~に下手な演技ですぞ、コージ殿。試験の申請用紙にはしっかりと【コージ・ヴァンライン】と書いておったくせに。このこの……!」
肘でつつかれるが、俺は脳内がこんがらがっていてされるがままだった。
試験の申請をしたときのことを思い起こす。
たしか――――
~~~
「――はい。確かに受け取ったわよ。姓の部分は空白で大丈夫?」
受付の女性がそう聞いてくる。
なんだ? 今までフルネームを聞かれたことなんか無かったけど、必要なのか?
「え? じゃあ、一応……。坂内コージです」
「ん? バンダー……?」
この世界の人には聞き取りづらい名字らしい。
「『ばんない』。コージ・バンナイです」
すると、女性はなにかに気がついたように手を打った。
そして、突然態度が丁寧になる。
「これは大変失礼致しました……! コージ様ですね。間違いの無いよう、速やかに登録を進めさせていただきます」
「……? はぁ。お願いします」
女性の態度に疑問を残したまま、俺は申請を終えて――――
~~~
はっきりと数日前のやり取りを思い出して、俺は合点がいった。
恐らく、俺の名字が貴族の名門の名字と似ていて間違えられたんだろう。
ありえるか、そんなこと!?
「南方の〈アルトー〉に逗留中のお父上から、息子を頼むと書簡も届いておりましたからな。『変わり者だから、貴族の身分を隠しておるやもしれぬ』とのことでしたが、余の眼はごまかせませんぞ?」
得意げに言うフランツ。
いや、節穴だよ! お前の目は!
俺はただの元社畜だっての!
『へぇ~。コージって貴族だったの?』
『ほう。やはり、高潔な魂を感じると思いましたからな』
「違うって!」
俺の叫びにフランツがビクッと後ずさる。
「な、なにかお気にでも触りましたかな!?」
「あ、いや別に。とりあえず、俺を〈魔術校〉の〈通常クラス〉に移させて欲しいんですけど……」
俺が言うと、フランツはぶんぶんと首を横に振った。
「ひじょ~に滅相もない! ヴァンライン家のご子息を〈魔術校〉へ、それも〈通常クラス〉など……! 出来るわけがありません!」
「そう言われても……。お願いしますよ」
「無理です! 余は田舎に左遷されたくな~い!」
フランツはそう叫ぶと、校長室の大きなデスクの下に隠れてしまった。
「こりゃアカンわ……」
俺は諦めて校長室を辞した。




