クラス決めでミスってる気しかしない
◆
学院の前庭に合否が貼り出されたのは翌日だった。
二枚の大きな掲示板が立てられていて、受験生の人だかりができている。
掲示板は〈魔術校〉と〈騎士校〉に分かれていて、俺たちは〈魔術校〉の合格者一覧から各々の名前を探し始めた。
「お! ミアの名前あったぞ! リヒャルトとマールもばっちりあるじゃないか!」
俺は、三人の名前を発見して歓喜の声を上げた。
「良かった……! 皆さんとバラバラになった時はどうなることかと思いましたけど……」
マールが瞳を潤ませながら言う。
「何言ってるのよ。落ちる心配なんてしてなかったわよ。もちろん、私たちも」
ミアがマールの肩を叩いて笑った。
「……で? コージの名前はどこ?」
「…………」
ミアたちの周辺に俺の名は無い。
俺は無言のまま掲示板の名前を辿っていく。
「…………」
最後まで来てしまった。
もう一周……。やはり無い。
「……コージ……まさか……?」
「えっと……うん……」
ミアの問いかけに、気まずい表情で頷く。
「はっはっは。そんなわけはナッシングさ。マイプレシャス・コージが不合格など。君たち、どきたまえ!」
リヒャルトが他の受験生を押しのけて掲示板を間近から凝視する。
「…………抗議してこよう」
「わぁ! ダメダメ!」
その場から立ち去ろうとするリヒャルトを必死で押し留める。
すると、そこにグレンが通りかかった。
「む。お前たち……。また騒ぎを起こしてるのか?」
訝しげな目線を俺たちに投げかける。
「あ、先生……。あの……昨日はお騒がせして申し訳ありませんでした」
俺が頭を下げると、グレンは苦笑いを浮かべた。
「以後、気をつけるように。だが――」
俺の耳元に顔を近づける。
「少しスッキリしたぞ。……誰にも言うなよ?」
そう囁き、俺の肩を叩いて爽やかに笑った。
あれ? なんだこのイケメン。好きになっちゃいそう。
「それより、ティーチャー。何かの手違いに違いないのだが、コージの名前が無いようなのだよ」
リヒャルトがグイグイと詰め寄る。
「む? お、おい。近いな。やめろ。……彼の名前が無いだと?」
「イエス。見たまえ」
リヒャルトが掲示板を手で示す。
すると、グレンは顔の前で手を振った。
「ああ。そこにあるわけ無いだろ。彼のは、あっち」
そう言ってグレンが指さしたもの――――それは〈騎士校〉の掲示板だった。
「え……?」
俺はキョトンとしたあと、慌てて〈騎士校〉の掲示板の前に走った。
俺が駆け寄ると、武器や鎧で武装した受験生たちの波が俺を避けるように割れた。
ざわつきと視線が俺に集まる。
「あ、すんません……。まさかこっちに、俺の名前が……」
自分の名前を探すと、一瞬で見つかった。
名前一覧の一番上だ。
一際目立つ大文字で記されている。
「マジかよ……。ってーか、なんで騎士校!?」
【コージ 〈特級組〉】
「せ、先生。特級組って……?」
後ろから追ってきたグレンに尋ねると、グレンは少し気の毒そうな顔で答えた。
「あー……。貴族豪商の子息たちの特別クラスだ」
「はああああぁぁぁぁぁ!?!?」
俺の大絶叫が前庭に響く。
ミアたち曰く、その後数分間、俺は完全にフリーズしていたらしい。
◆
一週間後。
俺の眼の前で〈テノン国立学園騎士校入学式典〉が厳かに進行していた。
ミアもリヒャルトもマールもいない。
当然だ。彼女らは〈魔術校〉の式典に出ているからね。
「しかも、何だよこの席……」
俺の周囲は、いかにも高級感の漂う礼服に身を包んだ貴族の子息令嬢たちが取り囲んでいた。
離れた場所の一般生とは、座っている椅子の高級感から違うものだ。
一般生たちは支給されたグレーの学園制服を身に纏って座席に座っている。
俺も昨日支給された制服を着て参加しているが、その色は目に痛いくらいの純白だ。
どうやら、貴族クラスと平民クラスで制服から違うらしい。
っていうか、そもそも周りの偉そうな人たち制服すら着てないんだけど。
ちらちらと刺さってくる視線が痛い。
あ、でもなんか俺以外にもチラホラと制服を着て参列してる貴族もいるぞ。
俺と同じく、肩身の狭そうな顔をしていた。
「一体何でこんな事に……」
俺はどんよりとした気分で、壇上の式典を眺めた。
明らかな間違いが、二つある。
一つ、召喚師の俺が〈騎士校〉に入学していること。
二つ、平民……というか異世界の社畜だった俺が、なぜか〈貴族クラス〉に入れられていること。
あの合否発表の日、グレンに猛抗議したのだが、
「上の決定だから、俺に言われても困る。入学後に直接言え」
と、かわされてしまった。
現在、壇上では豪奢な騎士服に身を包んだ男性が激励の挨拶をしている。
紹介では『テノン学園騎士校 主任教官 フェリック・ソーン・バルトルディ氏』とのことだ。
相談を持ちかけるなら彼になるのだろうか……。
しかし、その巌のような表情から発せられる威圧感は、だいぶ近づくのが躊躇われそうだ。
「――以上の事を胸に置いて、今後の学園での修練に励んで欲しい。私からは以上だ」
バルトルディ氏の挨拶が終わると、会場――特に俺の周囲からは盛大な拍手が送られた。
中にはスピーチの内容に涙している奴までいる。
何やら氏は、貴族の子女からは絶大な人気を誇っているようだ。
ついで壇上に上がったのは、くるんと巻いた口ひげ、ふりふりの礼服にじゃらじゃらと下げた装飾や勲章というコテコテの貴族風な小太りの男性だった。
『騎士校 校長 フランツ・リスタン』と紹介される。
「ふむ~。今年度もひじょ~に粒ぞろいの生徒たちが入学したようで、余はひじょ~に感激しておるぞよ」
お、こっちの方がとっつきやすそうだ。
しかも、校長だって。
「――以上である。それぞれ、ゆめゆめ努力を怠らんようにの」
校長の挨拶で式典は最後だったらしく、校長や主任教官たちが出ていくのを待ってから、俺たちも退場するように促された。
式典の会場を出ると、俺はそのまま校長室へと向かった。




