ランスロットの剣技
「そ……そんな…………」
オーレンが愕然とした表情でこちらを見る。
ランスロットはゆっくりとした足取りでオーレンへ近づいていく。
「お前の剣には『心』が無い。剣の心とは強気を挫き弱き者を守る心。おのが強さを誇らん為だけのお前の剣は、濁りきっている。ゆえに――」
「クソがぁ……!」
オーレンが、がむしゃらに斬りかかる。
「むんっ……!」
ランスロットは淀みない動作で、それに真っ向から撃ち返した。
――ギンッ!
甲高い金属音が響いて、オーレンの剣が刀身の半ばから真っ二つになる。
折れたのではない。切り口はスライスされたように綺麗だった。
「お前の剣は、脆く、軽い」
「馬鹿な……! 刃のない模擬刀だぞ!?」
オーレンが顔を震わせて折れた剣を見つめる。
「騎士の千刃は魂に宿る。それがたとえ、模擬刀だろうが木の枝だろうが……」
そう言ってランスロットは『ガッ』と石のリングに剣を突き刺して立てた。
「今日の授業はここまでだ。今日の痛みをよく考えて…………出直してきなさい!」
「……!」
ランスロットがオーレンの頬を平手で叩くと、オーレンの身体はまるでおもちゃのように吹き飛んで観客席のフェンスにぶち当たった。
気絶したのか、起き上がる気配はない。
『ランスロット……ちょっとやりすぎじゃないか? 可哀相になってきたぞ』
「いえいえ。良いお灸ですよ」
すると、オーレンの取り巻きの貴族たちがわらわらとリングに上がってきた。
十人前後。全員が腰の真剣を抜いて俺を取り巻く。
「お前たち……! これ以上は私闘だぞ!」
グレンが叫ぶが貴族の生徒たちは聞き耳ももたずに叫び返した。
「うるさい! オーレンがやられたんだ! このままこの平民を返すわけにはいかないッ!」
「や、やめてください!」
クララが観客席から叫ぶ。
「やれやれ……」
シュピーゲルがうんざりした表情で眼鏡を上げ、そのまま背を向けて客席から去っていった。
「あれ~? 帰っちゃうの!? あっはっは! なんか楽しいことになってきてるのに!」
ティルは一足飛びに観客席に行くと、クララの腰を抱いて笑いこけた。
他の観客もざわつき始め、会場が異様な空気に包まれる。
「くっ……! 駄目かっ!」
グレンがいよいよ腰の剣を抜こうとするのを、ランスロットの大声が止めた。
「仲間の汚名をそそぐ。その意気や良し! いいでしょう。全員、いっぺんに来なさい」
堂々と言い放って、地面に刺した剣を抜く。
「この期に及んで……! 平民一人殺すくらい、俺たちには何でもないんだぞ!」
小太りの貴族が、彫金の装飾付きの剣を突きつけて叫ぶ。
「下らない事を言っていないで、早く来なさい」
小さくため息をつきながらいうランスロット。
「く、くそおおおおぉぉぉ!」
小太り貴族が駆け出したのをきっかけに、こちらを取り囲んでいた連中全員が一斉に襲いかかってきた。
目は血走り、完全にパニック状態と言ってもいいだろう。
『ランスロット!』
「主。ご心配なく。……オォォ……!」
ランスロットが力を込めると、模擬刀の刀身がまばゆく輝く。
「ハアッ!」
それを両手でリングに勢いよく突き立てた。
瞬間、聖なる光が衝撃波とともに膨れ上がり、
「げぶっ!」
俺たちに殺到していた連中が一斉に吹き飛ばされる。
「ぬううっ……!?」
グレンだけが抜き放った剣を盾に両足を踏ん張って立っていた。
衝撃波が客席を大きく揺らし、観客たちも悲鳴を上げて逃げ惑う。
それが収まると――――
リング上に立っているのは俺たちだけだった。
貴族の生徒たちは、気絶してリングの外に散らばっている。
静まり返る円形修練場。
他の受験生や観客達から、俺たちに恐々とした視線が注がれていた。
「すみません、主。思いのほか時間をとってしまいました」
ランスロットがそう言うと、不意に意識が揺れて俺の身体が俺の手のもとに返ってきた。
「ちょっ……なにもこんなタイミングで……!」
「おい、キミ! 剣を置きなさい!」
リングの下から、剣を構えたグレンが警戒もあらわに俺に叫ぶ。
「あ、あわわわ……! す、すみませんでした! お騒がせしましたッ!」
俺は慌てて剣を地面に置くと、逃げるようにミアたちの元に走った。
ミアが引きつった笑顔で迎えてくれる。
「あ、あんた、結局やりすぎじゃない」
一方リヒャルトは、満面の笑みで喜びのポーズを取っていた。
「さすがはマイロード……! 胸がすくような快勝だったよ! 今夜はとっておきのワインを開けよう!」
「い、いいから! 早くここを出よう。一刻も早く」
俺はミアとランスロットを引っ張って、そそくさと修練場を後にした。
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