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模擬戦 リヒャルト


「勝者、ミア!」


 グレンの声と銅鑼が響き、拍手と歓声が降り注ぐ。


「あの〈サンダーランス〉は囮だったのか……」


 俺が呟くとリヒャルトが満足気に頷いた。


「イグザクトゥリー(その通りでございます)。さて、次は私の番だね」


 ミアとすれ違いにリングに向かうリヒャルト。


「あなた、一対一は苦手なんだから気をつけなさいよ」

「ふふ。ドント・ウォーリーだよ、ミア。見ていたまえ」


 リヒャルトと相手がリングに上がる。

 相手は正統派な長剣士の男だ。

 冒険者だろうか。革の軽鎧に鉄の胸当てを装備している。

 盾はない。年季の入った長剣を両手で構えていた。


「一次の実技は見ていたよ。恐ろしい威力の魔術だった」

「サンキューソーマッチだね。ラムセスくん……だったかな? キミも、良い太刀筋だったと記憶しているよ」


 リヒャルトが、剣士――ラムセスに言って小さく一礼する。

 試合開始の銅鑼が鳴った。


「悪いが、詠唱前に終わらせてもらう!」


 ラムセスが勢いよく駆け出す。

 同時にリヒャルトも詠唱を開始していた。

 ミアのように高速詠唱のスキルはなく、リヒャルトの〈重詠唱〉はどちらかと言うと後方から強力な魔法の多重攻撃を仕掛けるようなタイプのスキルだ。

 『せーの』の状態から先手必勝で来られると、対応は相当難しいはずだが……。


「――〈ファイアバレット〉」


 リヒャルトがゆっくりとした口調で二言ほど詠唱すると、手のひら大の小さな火の玉が生み出され、迫り来るラムセスに向かって飛んでいった。


「むっ!?」


 ラムセスがそれを剣で叩き切ると、『パンッ』という音と共に炎が弾ける。

 そのすぐ後ろから同じ火の玉が迫った。それも切り捨てる。


「目眩ましか! この程度、無視して――うおっ!?」


 ラムセスのもとに、無数の火の玉が襲いかかった。

 リヒャルトは動くこともなく呪文を詠唱し続けている。

 次々と生み出される火の玉が、まるで蜂の大群のようにラムセスの周囲を回りながら着弾していく。

 そのたびに小さな炎が弾けた。


「くっ……!」


 ダメージは無いに等しい。しかし、その熱と衝撃は足を止めさせるには十分なようだ。

 全身に浴びる炎と衝撃に耐えながら、ラムセスは懸命に剣を振り回して火の玉を払いのける。


「小賢しいぞ! この魔術で足止めをしている以上、他の呪文は――」

「そうかな? ――〈フレアボム〉!」

「なにッ!? ぐおおッ!」


 剣士の足元で爆発が起き、ラムセスの身体が吹き飛ばされる。

 〈高度魔流体抑制陣〉によって威力は抑えられているが、それでもラムセスの身体はリングに叩きつけられて転がった。


「くっ……! まだだ! まだ――」


 剣を杖代わりに立ち上がろうとするラムセスだが、


「〈フレアボム〉!」

「ぐはあッ!!」


 ダメ押しの〈フレアボム〉で、リングの外に吹き飛ばされた。

 同時に試合終了の銅鑼が鳴り、リヒャルトの勝利が宣告される。

 ラムセスはリングまで這い上がると、手と膝を付きうなだれた。


「バカな……。一撃目の〈フレアボム〉……〈ファイアバレット〉の詠唱中だったはずだ……」


 リヒャルトがそこに手を差し伸べて微笑を浮かべた。


「僕のスキル〈重詠唱〉は攻防一体、破壊力を上げるためだけにあるのでは無いのさ。……ナイスファイトだったね」


 ラムセスがリヒャルトの手をしっかり握り返すと、客席から歓声と拍手が起こった。


ブックマーク、評価ありがとうございます……!

まだの方も、気に入って頂けたらぜひしていただけると嬉しいです!

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