模擬戦 俺の番
それから数試合後。
いよいよ最終試合……俺の試合の順番が来た。
「〈蒼氷のアミスター〉は、馬鹿だけど実力は確かよ。馬鹿だけど。一応、気をつけて」
ミアとリヒャルトに見送られてリングに上がる。
歓声が頭上から降ってきた。
ドレスのようにエレガントな青いローブに身を包んだ〈蒼氷のアミスター〉が、挑むような目線で俺を見ている。
「ふん。〈紫電のミア〉との決戦を期待していたのだけれど……。まぁいいわ。お供の貴方で我慢してあげてよ」
「いや、俺、キミやミアより実技の点数良かったんだけど……?」
「あんなものまぐれに決まってるわ。ミアだってそうよ。レベルがどれだけ上がったか知らないけど、あんな陳腐なテストで実力が計れると思ったら大間違いね。今、この場で『真の実力』というものをお見せして差し上げてよ」
「ああ、そう……」
うーむ、癖が強い。
「あー。とりあえず、真面目に頼んだぞ」
投げやりに言うグレン。
「あ、すみません。武器を借りたいんだけど」
俺は事前にランスロットから頼まれていたことを思い出して、グレンに告げた。
「先に言わんか、そう言うことは。武器種は?」
「えーと……」
俺が言いよどむと、ランスロットの声が聞こえた。
『長剣を』
「……長剣をお願いします」
「分かった。ロングソードを一振り持ってきてくれ!」
グレンの指示で運ばれた剣を手に取る。
今まで護身用に持っていた片手剣よりもずっしりとした重量感だ。
アミスターが不慣れそうに剣を腰に差す俺を見て鼻で笑った。
「ふん。あなた召喚師じゃなかったかしら? それとも、召喚術じゃ勝てないと踏んで? 愚策ね」
挑発するアミスターを、面倒臭そうにグレンが止める。
「はいはい、静かに。では、両者離れて」
「すぐに終わらせてあげるわ」
アミスターはグレンの指示で颯爽と踵を返して歩き出した。
俺も所定位置まで向かう。
その間に、ランスロットに小声で話しかけた。
「ランスロット。いけるか?」
『仰せのままに』
『いいなぁ~』
リヴィアがぼやくのを聞き流しつつ、所定位置に立ち止まって振り返る。
「最終試合…………始めッ!」
グレンの声と共に、銅鑼が叩かれた。
アミスターが詠唱を開始する。
「来い! 【聖騎士ランスロット】!」
俺もマジックバインダーからランスロットのカードを取り出して呼び出す。
白い魂魄が現れ、俺の胸の中に入り込んで消えた。
なんだか身体が熱くなった気がする。
「……これだけ?」
特に何も起きない。
剣がすごい発光したり、すごい鎧を身に纏ったりとかそういうのも無い。
たしかに地味な戦いが出来るかとは聞いたけども。
「何をぼーっとしているのかしら!? 行くわよ! 〈アイシクルショット〉!」
詠唱を完成させたアミスターが容赦なく呪文を放つ。
無数の氷の礫が俺に向かって襲いかかった。
「おわわっ……!!」
慌てて横に飛び退く。
すると、自分の感覚の数倍以上のスピードで俺の身体が横に飛び出した。
「うおっ!?」
これまた自分の感覚を大幅に超えた10m以上を跳躍して、さらに、俺は見事な受け身をとって着地した。
「な、ななな、なんだ!? 俺の動きかこれ!?」
『私の魂と同化することによって、私の運動能力が付与されているのです! 次が来ますよ!』
前方ではアミスターが次の詠唱を完成させようとしている。
「上手く避けたわね! これはどうかしら!? 〈アイシクルスピア〉!」
大きな氷柱が地面から高速で襲いかかってきた。
『剣を抜きざまに振り上げて!』
「抜きざまったって――!」
出来るか! と言おうとした瞬間、俺は見事な抜刀切り上げを撃ち放っていた。
達人の体捌き。神速の剣閃が、芸術的なまでの弧を描く。
――バキィッ!
木の幹のように太い氷柱の束が、俺の剣の一振りで粉々に砕け散った。
「なっ……!? 板金も貫く、私の〈アイシクルスピア〉が……!」
アミスターの顔に驚愕の色が浮かぶ。
「……図ったわね……。召喚師はブラフ。本職は凄腕の剣士だったなんて……!」
唇を噛むアミスター。
「あ、いや、そうじゃないんだけど……。まぁいいか。……ん?」
するとその時、にわかに客席が騒がしくなった。
学院の制服を着た一団が、客を押しのけながら最前列に移動している。
あの真っ白な制服は――
「なんだ~! もう最終試合かぁ。……って、あれ!? あの平民、この前の酒場の冒険者じゃない!?」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
おととい酒場で揉めかけた貴族の学院生だ。
今喋ってた陽気なやつの名前は、たしかティル。
長身で眼鏡のシュピーゲルと、目付きの悪いオーレンもいるのが見える。
その他にも、いかにもお高く止まってそうな連中が集まっていた。
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