極大魔法〈上下天光〉
俺の脳内に、リヴァイアサンの持つ無数の魔法や能力、技が流れ込んでくるが、そのどれもがただの人間に扱いきれるようなスケールの力ではない。
俺は全てをリヴァイアサンに委ねることにした。
『主、極大魔法を使うぞ。魔術師たちよ、結界を張って街を守護せよ』
「け、結界って……この街全体をあなたの魔法から守るような結界は、私たちじゃ張れないわ!」
ミアが叫ぶ。
『案ずるな。極大魔法の威力は二割以下に制御する。さらに、お主らにはこれを与えよう』
リヴァイアサンがそう言うと、俺たちの前に宙に浮く紺碧色の宝珠が現れた。
「ミア」
俺が促すと、ミアが恐る恐るそれを手に取る。
瞬間、濃密な魔力の帯がミアを包み込んだ。
「うわっ……! なに!? とんでもない魔力が流れ込んでくる……!」
『〈海神の宝玉〉。我が魔力の一部を込めてある。それをもって、街を守護せよ』
「……! 分かった! リヒャルト、マール! 宝玉に手を……!」
ミアの手に乗せた宝玉に二人が触れる。
「おお……。これが海神の魔力! 何という黄金体験……!!」
「気を抜くと弾き飛ばされそうです……!」
三人の身体を魔力場が覆う。
「あ、あたしは何をすればいい……!?」
ウィルがあたふたとしながら言う。
「私たちの身体を押さえてて! リヴァイアサンの魔力に押し負けそう!」
「わ、分かった!」
三人の背中を支えるようにウィルが踏ん張って立つ。
「リヴィア……! 頼んだ!」
俺の言葉にリヴァイアサンは『承知……!』と言い残すと、重低音の咆哮を上げて空へ昇っていった。
荒れ狂う黒嵐の中、空に浮かんだリヴァイアサンに後光のような光が差し込む。
『オオォォォォォ……!!』
リヴァイアサンの咆哮に共鳴するように、雲が巨大な渦を巻いていった。
レッジェーロ一帯を全て覆うような巨大な嵐の渦だ。
縦横に差し込む金色の光。
この世の終わり――いや、〈この世の始まり〉のような神々しい景色だった。
「エクセレント……。しかも、これで全力ではないと……?」
「まずいわ! 早く結界を……!」
ミアが高速詠唱を開始すると、宝玉を通して莫大な魔力が流れ込んだ。
「私の最大の防御魔術……! 〈エレクトリックシールド〉――きゃあっ!?」
呪文の完成とともに、レッジェーロ全体を包みこむサイズのスパークの結界が生み出された。
「凄い……! これを私が……!?」
その時、クラスターが不快音を上げながら〈汚染大魔法〉を放った。
トキシックドラゴンの放った毒のブレスの数百倍巨大な汚染物質の直線放射が、レッジェーロの街に襲いかかる。
――バシィィ!
それをミアの〈エレクトリックシールド〉が遮った。
しかし、放射され続ける汚染物質に、結界が悲鳴を上げている。
今すぐにでも限界が訪れそうだ。
「……くっ! ダメだわ、私だけじゃもたない……! 二人とも、結界を重ねて!」
リヒャルトとマールは頷くと詠唱を開始した。
「マーヴェラスに輝け……! 〈フレイムサークル〉!」
「〈セイクリッドウォール〉……!」
燃え盛る炎の防御膜。その上に聖なる光のヴェールが重なる。
三重の分厚い結界が〈汚染大魔法〉を弾き返した。
「魔力に押し流されそう……! 長くはもちません!」
「コージ! 早く……!」
じりじりと宝玉に押し返されそうになる三人を、ウィルが頑張って支えている。
「リヴィア! いけ!」
『真に乾坤を賭して一擲となさん……!』
海神の雷声が響き渡り、天地に満ちるエネルギーが上空の一点に凝縮していく。
巨大な黒嵐の渦の中心に穴が穿たれた。
『〈上下天光〉!!』
凝縮された万象の力は、全てを呑み込む雷となってクラスター〈ヴェズミエ=ウリトゥカ〉に打ち付けられた。
大地が、大気が激震する。
度を越した轟音と閃光。世界から音と影が消え去った。
悲鳴を上げるミアたちの声も姿も分からない。
爆発的なエネルギーにミアたちの結界が限界を迎えて弾け飛んだのと同時に、俺たちは地面に倒れ込んだ。
「……くっ……」
ブラックアウトしかけた意識を何とか保って、ふらふらと立ち上がる。
「……マジかよ……」
周囲の景色を見て、俺は戦慄した。
緑の草原だった辺り一帯がすり鉢状に抉り取られて、果てしないクレーターに様変わりしていたのだ。
その中心には、クラスターだった物体――巨大な炭の塊のようなものが鎮座している。
クレーターの片隅で、結界に守られていたこの街だけがぽっかりと元の状態を保っていた。
俺はレベルアップの光が俺の身体を包んだのを脳の隅で感じながら、その光景を呆然と眺めた。
「コージ……。終わったの……?」
「ああ」
ミアに手を貸して身体を起こす。
「何だよコレ……!?」
飛び起きたウィルが目を白黒させた。
リヒャルトとマールも起き上がると、それぞれに驚愕の声を上げた。
上空からリヴァイアサンが下降して、俺たちの前に滞空する。
一度低く声を上げると、その巨体が光りに包まれて一枚のカードへと姿を変える。
「ありがとう。リヴィア……」
手元に漂ってきたカードをしっかりと掴むと、俺はそっとバインダーに戻した。
決着ッ……!
第一幕もいよいよ終結へ。
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