俺は神となった(?)
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俺たちは城塞に戻ると、一部始終を固唾をのんで見守っていた人々に『全てが終わった』ことを伝えた。
レッジェーロの街に帰れることに、市民たちは涙を流して抱擁しあった。
「ウィル! このバカタレが……!」
群衆から駆け出してきた酒場のマスターが、ウィルの頭にげんこつを落とす。
「いったー! なにすんだよー!」
「何すんだじゃねーだろう! このバカ! 興味本位でついて行って、死んじまうかも知れなかったんだぞ!? コージたちにも迷惑かけやがって……!」
「あたしは、街を――」
「言い訳は聞かん!」
俺はカンカンのマスターを宥めるように口を開いた。
「まぁまぁ。無事だったんですし。それに、ウィルは興味本位でついてきたんじゃありませんよ。街を守ろうと、勇気を振り絞ったんです」
俺の言葉に、ウィルが得意気に胸を張った。
「ウィル……!」
あとから駆けてきたおかみさんが、その身体を抱きしめた。
「……ったく」
マスターは、諦めたように肩をすくめた。
「……ま、俺の子供ってことか。隠してたが、こう見えても元冒険者でね」
「えぇ!?」
俺の驚き顔にマスターは快活に笑った。
マスターたちがウィルを連れて戻ると、群衆が俺たちに向かって歓声を上げた。
「ありがとう……! 四人の冒険者! お前ら、すげぇよ!」
「あと、マスターんところのチビもな!」
温かい笑いと拍手が起きる。
俺は、自分に向けられた喝采を呆然としつつ受けていた。
リヒャルトが俺の脇腹をつつく。
「コージ、胸を張りたまえ。キミはこの街のヒーローだよ」
「いや、でも……。俺の手柄じゃ……」
「召喚獣の力は召喚師の力。自分で言ってたじゃない」
ミアがそう言って笑う。
マールも隣で大きく頷いていた。
『さすがあたしのマスター! すごい! 英雄!』
「おいおい……」
本来の貢献者にまで言われて、苦笑するしかない。
俺は一歩前に出ると、なるべく通る声で群衆に話しかけた。
「俺から……一つだけお願いがあります」
すると、歓声やら指笛やらが飛んでくる。
「何でも良いぞー!」
「うちの宿代はずっとタダでいいわよ!」
「俺の娘をぜひ嫁に――!」
俺は苦笑いを浮かべつつ手で制して言葉を続けた。
「今回見たこと……みんなが見たドラゴンや、俺たちが敵を倒したこと……。他の人には伝えないで欲しいんだ」
民衆がざわつく。
残念そうな声が聞こえてきた。
「お願いはそれだけです。みんな、無事で良かった!」
俺がそれだけ言って頭を下げると、一段と大きな喝采が沸き起こった。
俺やミア、リヒャルト、マール。そしてウィルの名を叫び続ける声は、長い間鳴り止まなかった。
◆
それから数日はレッジェーロへの帰還や、僅かに壊れた(リヴィアが壊した)市街の修復、周囲の状況の調査などで目まぐるしく過ぎていった。
「すごい……。もう草木が生え始めてるよ!」
森や草原を調査したミアがそう報告してくれた。
クラスターを倒したあの後、ピクシーたちが俺のもとにやってきて、
『女王様がありがとうだって! 荒れた自然は、女王様の力で復活させるから大丈夫だってさ!』
『いつかお会いしましょうって言ってたよ!』
そう伝えてくれた。
森の女王の力で、一面焼け野原になった一帯の自然は急速に元の姿を取り戻そうとしている。
あらかたの仕事が落ち着いた俺は、冒険者ギルドのロビーで所長やアイーシャと落ち合った。
「やはり、旅立つのかい?」
所長が残念そうに言う。
ギルドの業務はまだ再開していなく、ロビーは閑散としていた。
「もう少しいてもいいんじゃ……?」
アイーシャも泣きそうな顔で言った。
「うん……。でも、やっぱり居づらいよ。この状況じゃ」
俺はそう言って笑いながら、ロビーの一番広い壁を眺めた。
そこには、街一番の絵描きが三日三晩徹夜で描き上げた大きな絵画『神の裁き』が掲げられていた。
黒い異形を天からの雷が打ち倒す、宗教画のような一枚だ。
どうやら、街の人々は今回の一件を〈神話〉として扱うことに決定したらしい。
なるほど、おとぎ話にしてしまえば俺とリヴァイアサンの存在もすぐにただの眉唾へと薄まっていく。
しかし、住民からの殆ど神のような扱いは正直一生馴染めそうにない。
それに、こういう形にしてしまったおかげで、ミアたちの手柄も首都本部へは伝えられないそうだ。
「また、そのうち寄りますよ。どこに行くかは決めてないけど……」
そう言って俺が所長やアイーシャと固く握手を交わしていると、ギルドの扉が勢いよく開いた。




