駆けつけた探索者①
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ラルゲット渓谷は自然の要害だ。
そこには古からの城塞が断崖を利用して建築されており、現在もそれを利用して非常時に民衆が身を寄せることが出来るようになっている。
俺たちを乗せた馬が渓谷に着いたのは夕刻。
レッジェーロの避難民たちの長い列は、まだ先頭が城塞に到着したばかりだった。
重い家財道具を持って歩く人々を追い抜いて、俺たちは大きな城門をくぐった。
「コージくん! ミアくん!」
「所長!」
人混みを縫うように所長が駆け寄ってくる。
俺たちは馬を降りて無事を確かめあった。
「こちらの状況は?」
「今は街の評議会を中心に今後の対策を練っているところだ。それから、転移ルーンで探索者が駆けつけてくれるらしい。たったの二人だが……」
「二人……!? 馬鹿じゃないの!?」
ミアが憤慨の声を上げる。
すると、向こうから剣士と魔術師の二人組が歩いてくるのが見えた。
男女二人組だ。
「邪魔だなー。どけよ、オラ!」
「はいはい、道開けてー」
やたらとでかい態度で人を掻き分けている。
すると、剣士の足に子供がぶつかった。
まだ幼い子供で、重そうな家財道具を背負っている。
「んだぁ? 触んじゃねぇよ、愚民がっ!」
剣士がその子供を思い切りけとばした。
子供が小さな悲鳴を上げながら地面に転がり、背中の荷物がばらまかれる。
「あいつ……!」
俺が飛び出そうとするのをミアが止めた。
「まずいよ。あいつら〈探索者〉だ。しかも、かなり上位の」
確かに、二人の装備は俺たちと比べていかにも高価で強力そうだ。
探索者二人は俺たちの元にやってくると、露骨に面倒くさそうな態度で所長に話しかけた。
「あんたがここのギルドの所長? 転移ルーン、クソもったいなかったわー」
「ご足労頂き申し訳ない。しかし、事態は非常に切迫しています。事前の説明には目を通しておいでですか?」
すると、魔術師の女がぽりぽりと頬をかいてとぼけた。
「あー。ちょっと読んでないんだよね。面倒くさくて。あははは」
「そんな……」
所長が絶句していると、剣士が肩に手を回した。
「まぁいいじゃん。とりあえずさ、状況を確認に行こうぜ」
「は……。では、城壁の上まで行きましょう」
所長はそう言って二人を促しつつ、
「コージくん、ミアくん。着いてきてくれ」
と俺たちに耳打ちした。
俺たちはウィルを馬に乗せて所長の後をついて行った。
自然の岩壁を利用した城壁はレッジェーロの市壁と比べ物にならないほど高く、絶壁に遮られた後方以外は遥か夕日に染まるこの地方一帯が見渡せた。
黒いさざなみのように押し寄せているクラスターとアボイドの群れはすでに〈モルデントの森〉を越えつつある。
レッジェーロの街を蹂躙するのも時間の問題だろう。
そしてその延長線上には、この城塞がある。
「あっちゃー……。あれはアカンわ」
探索者の剣士が、ため息混じりに言う。
「なんであそこまで強力なクラスターが、こんな場所に眠ってたのかね~」
緊迫感のない声で魔術師が言った。
「理由は分かりませんが、とにかくこれが現状です」
所長が言って、判断を待つように二人を見つめた。
「見たところ、ありゃ〈直進型〉だな。方角的には……この先って街かなんかあったっけ?」
「たしか、この山を越えた向こうに小さな集落が一つ二つあったかと思いますが……」
「あー。その人たちには可哀そうだけど、これは放置するしかないねー」
「まぁ、そこを抜けりゃ海まで何もねぇだろ」
「と……言うと?」
所長が耳を疑うように聞き返す。
すると剣士は面倒そうに頭を掻いた。
「だからー。クラスターにも色々タイプがいるのは知ってんだろ? で、こいつは直進型でまっすぐしか進まないから、海に沈むまでほっときゃいいんだよ。最悪、他の大陸に上陸したところで俺らの知ったこっちゃないからな」
「そんな馬鹿な……! 進路内の集落は……!?」
「今から早馬を飛ばしたところで、この山を越えるんじゃ間に合わないわねー」
「そゆこと。ここにいる連中も、さっさと進路から外れて避難したほうがいいぜ?」
「そうは言いましても、老幼や病人も……。それに、街もこの場所も失ったら、我々はその先どうすれば……!?」
「知らねーよ、バーカ。俺らはクラスターを何とかしろって言われてきたんだ。で、結論。『ほっときゃ何とかなる』。以上!」
剣士はそう言ってカラカラと笑った。




