駆けつけた探索者②
「酷すぎる……」
俺は口の中で呟いて、ぎゅっと拳を握った。
隣のミアも、憎悪の籠もった形相で睨みつけていた。
『ムカつくなぁ……。やっつけちゃう?』
『剣を握る者の風上にも置けない言動、目に余ります。私が性根を叩き直してご覧に入れましょうか?』
「……お前たちも、落ち着いてくれ」
腰のバインダーを軽く叩いた。
すると、剣士が俺たちの視線に気がついて一歩踏み出した。
「あんだよ、てめぇら。文句あんの?」
すかさず所長が割って入る。
「す、すまない! 彼らはちょっと緊張していてね」
するとその時、城壁の下から声が近づいてきた。
「――ダメですって、リヒャルトさん! 勝手に物資運搬の持ち場を離れちゃ……!」
「はっはっは! ノープロブレムだよ、マールくん! わたくしのゴーストが、コージの魔力を感じ取っているのさ!」
「いや、だから何!? 仕事をほっぽりだしちゃ……ってあれ? 本当にいた」
城壁を駆け上ってきたリヒャルトとマールの二人と目が合う。
二人の姿を見て、剣士が大きく舌打ちをした。
「……ちっ。ど田舎のクソ冒険者が大集合かよ。動物園か? ここは」
「ぷっ。あんた、サイテー」
魔術師が腹を抱えて笑う。
「誰だか知らないが、これは心外だね。ど田舎のクソ冒険者のファッキン魔術を味わってみるかい?」
リヒャルトが剣呑な笑みを湛えながら一歩出る。
「へぇ……。来いよ」
剣士が余裕の態度で指をこまねいて挑発する。
「リヒャルトさん、ダメです! たぶん、首都の探索者ですよ……!」
マールがその服を後ろから引っ張った。
「やめなさい! 私闘があれば、本部に報告せざる終えませんぞ!」
所長が一喝した瞬間。
剣士の身体が眼で追えないスピードで動いて、所長の首筋に抜き身の剣先が突きつけられた。
「……っ!?」
咄嗟に動こうとした俺たちだが、女魔術師の魔力を帯びた手が俺たちとリヒャルトたちそれぞれに向けられていてピクリとも動けなかくなった。
剣先が僅かに肌に食い込み、所長の顎から汗がポタポタと落ちていく。
俺が手を伸ばしかけたバインダーから、リヴィアの唸るような怒気が伝わってくる。
「ちょっと~。面倒なことしないでよね」
魔術師がダルそうに言うと、剣士は「ふん」と鼻を鳴らして剣を引っ込めた。
「っつーわけだから。俺たちゃ帰るわ。あ、本部には『応援は必要なし』って報告しといてやるよ。特別サービスな」
「そんな……! それはあんまりだわ……!」
ミアの抗議には目もくれず、探索者たちは城壁の端まで行くと、
「じゃあな。ど田舎のクソ冒険者ども」
そう言って空に身を躍らせた。
「……っ!?」
慌てて追いかけ身を乗り出して見ると、二人の姿は光とともに空中でかき消えた。
「転移ルーン……」
すると、ずっと俺たちの影に隠していたウィルが隣に駆け込んできて、
「バーカ! バカバカバーカ!! 死んじゃえーーーー!!」
探索者たちが消えた先に向かって声の限り叫んだ。
その瞳からは悔し涙がとめどなく流れている。
「不愉快な思いをさせてすまなかった……」
所長が申し訳なさそうに言った。
ミアが首を横に振る。
「……所長のせいじゃないわ。それより、今後のことを考えないと」
「ああ……。だが、もう日が落ちる。あとは私と評議会に任せて、君たちは今日は休みなさい」
所長の顔にも濃厚な疲労の色が見て取れた。
俺たちも先日の遺跡の騒動から立て続けだ。
それに、今の件の精神的なダメージも重かった。
俺たちは誰ともなしに城壁を降りだした。




