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超巨大悪性生命体〈クラスター〉

   ◆


 ピクシーたちに借りた馬は俊足だった。

 俺たちは昼前にはレッジェーロの市門をくぐることが出来た。

 その足で、冒険者ギルドまで直行する。

 ギルド内は遺跡探索の対応で騒然としていた。


「所長を呼んで!」


 ロビーに飛び込むなり叫んだミアに視線が集まる。


「ミアさん! コージさん! リヒャルトさんに、マールまで!」


 ロビーの奥からアイーシャが駆け寄ってきた。


「ミアさん! 探索に行った有志の皆さんの殆どが帰ってきていないんです……! 救助を出そうにも、そんな高レベルの冒険者はいなくて……!」


 俺の服を掴んで、ほとんど泣きながら言う。

 寝ていないのだろう。顔には色濃い疲労が滲んでいた。


「冒険者の亡骸はいくつか見た……。たぶん、俺が見たものの他にも……」

「ああっ……!」


 アイーシャが顔を手のひらで覆ってへたり込む。

 俺はあまりにいたたまれない状況に、無言でいるしかなかった。

 ミアがアイーシャの肩に手をおいて、なだめるように言った。


「アイーシャ、所長を呼んで。このままじゃ、今以上に悲惨な事になるわ」


 アイーシャは赤く腫らした眼で頷くと、ロビーの奥に駆け込んでいった。



 所長は、来るなり早足で俺たちをミーティングルームに案内した。


「――――なるほど。巨大な〈次元の歪み〉……。そんなに危険な遺跡だったとは……」


 俺たちから事の経緯を説明された所長が重く息をつく。


「とにかく、これ以上の冒険者の派遣は中止してください」


 俺の言葉に所長が頷いた。


「もちろんだ。すでに、新たなパーティの派遣は昨晩から中止している。それよりも、今後のことだが……」


 すると、ミアが声を上げた。


「相当量のアボイドが生産されてるわ。それも、かなり高レベルの……。あのままじゃ、遺跡から溢れ出すのも時間の問題よ」

「具体的なレベルは?」

「30から55……」

「馬鹿な……!」


 所長が、目に手を当てて首を横に振った。


「早急に対策を練らないと……。もし、あのアボイドたちがこの街まで到達したら……」


 マールが震える声で言う。

 その瞬間――異様な音が鳴り響いた。

 まるで緊急時のサイレンのような……。


「…………」


 俺たちは顔を見合わせると、ギルドの屋上へ向かった。

 冒険者ギルドはレッジェーロの街の中では高い部類の建物なので、市壁を越えてその向こうの景色もよく望める。

 息を切らして階段を登りきった先で、俺たちはとんでもないものを見た。


「なんだよ、あれ……!」


 巨大樹の沼、ちょうど遺跡があった辺りだ。

 そこに、巨大な黒い塊が現れていた。

 この距離から視認できるほどのサイズだ。

 小さな村や集落なら、丸々呑み込んでしまいそうだ。


「クラスター……」


 所長が呟く。


「クラスター?」

「うむ。稀に発生する強力な次元の歪みが周囲の歪みを取り込むことによって生まれる、アボイドのより上位の存在だ」

「ってことは、あれはモンスターってことか? 大きすぎるだろ……!」

「ワンダフル……! わたくしも、初めてお目にかかったよ。あれが、クラスターかい?」

「こんな場所で現れるなんて……。悪い夢でも見てるみたいだわ」


 俺は試しに〈観察〉を試みてみた。

 すると、恐ろしいことに、この遠距離でも光の照準が反応する。


【ヴェズミエ=ウリトゥカ Lv:6,300

 HP:81,218/81,218

 マナ:261,030/261,030

 AP:120/120

 攻:20304 防:26104

 スキル:毒魔法 汚染魔法 汚染大魔法 吸収】


「レベル……6,300……」


 俺の呟きに全員がざわつく。

 クラスター〈ヴェズミエ=ウリトゥカ〉は、ぐねぐねと胎動するように蠢きながら、何かの形態をとろうとしていた。


「カタツムリ……? 巨大なカタツムリでしょうか……!?」


 マールが遠くを眺めながら叫ぶ。

 渦を巻いた硬質な殻からはいびつな棘が無数に生え、その下に、コールタールのような黒い邪悪な塊が蠢いていた。

 黒い塊が身を悶えさせて咆哮を上げた。

 先ほどと同じ、低いサイレンのような騒音が響き渡る。

 クラスターはカタツムリの形態をとった後、まるで(いにしえ)の化石のようにその場に留まった。


「ひとまず動く気配は無いようだな……。緊急でギルド幹部の会議をせねば。君たちはとにかく一度休みたまえ」


 所長が言う。

 確かに、俺たちは服も泥だらけで総身に疲労がにじみ出ていた。


「そうだな……。俺もいったん宿に戻るよ」

「私は一度、ダスクに会って来ます。仲間の弔いもしないと……」


 マールが今にも倒れそうな青白い顔で言う。

 俺たちは何か悪夢の中を彷徨っているような虚ろな気分で階段を降りていった。

 ミアたちと別れ、宿の浴場で身体を流してベッドに潜り込んだ瞬間、俺は泥のような眠りについた。


沢山のブックマーク、評価、ありがとうございます……!!

物語の第一部も佳境に突入してきました。

第一部を楽しんで頂けたら、ぜひブックマークや感想、評価を!

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