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初仕事は薬草採りと昔から決まっている

   ◆


 翌朝、俺はギルドの依頼一覧が貼ってある掲示板の前で腕を組んで唸っていた。


【グランド・ブルの討伐 東部スタッカ平原 ランクE 報酬:7,000ガルド】

【ゴブリンの集落の調査 西部スタッカ平原 ランクE 報酬:3,400ガルド】

【スワンプドラゴンの調査 巨大樹の沼 ランクD 報酬:5,000ガルド】

【スワンプドラゴンの討伐 巨大樹の沼 ランクC 報酬:130,000ガルド】


 などなど。ギルドの掲示板には朝から色とりどりの依頼が並んでいた。

 早朝なのもあってまだ冒険者の影もまばらだ。


「結局、これかなー……」


 俺は苦笑交じりにそう呟くと、一枚の依頼用紙を掲示板から剥ぎ取って受付に向かった。


「あら、おはようございます。コージさん、早いですね」


 受付にはアイーシャがいて、俺にペコリと頭を下げた。


「朝はわりと強いほうだから。これ、お願いします」


 そう言って俺は、さっき手にとった依頼用紙――


【トリル草の採取 レッジェーロ森林 ランクF 報酬:2,000ガルド】


 をアイーシャに渡した。


「ちょうどお勧めしようと思っていた依頼ですよ。やっぱり、新人さんはこれから始めないと」


 アイーシャはニコリと笑ってそう言うと、カウンターの下から地図を取り出した。


「街の東門を出て数キロ行った先に、森林地帯があります。ここで、トリル草という薬草を採集してもらいます」


 アイーシャはトリル草の見本も見せてくれた。

 春菊に似ている背の低い草だ。色は鮮やかな黄緑らしく、発見しやすいだろうとのこと。


「10本が依頼達成のノルマですが、途中で帰還しても集めた分はギルドが買い取りますからね。一応、10本以降は5本ごとに報酬が加算されていきます」


 草むしりか……。幼少期から紛うことなきインドア派だったからな。

 とにかく、迷わないように気をつけよう。


「地図は昨日支給しましたよね? それでは、気をつけて行ってきてください」


 アイーシャの笑顔に送り出されて、俺は街の東門へと向かった。

 さぁ、俺の冒険者としての初仕事だ!




 レッジェーロの街東側の大きな市門を出ると、その先には平原地帯が広がっている。

 街道の向こうにはこんもりとした森が見えた。


「あれが、レッジェーロ森林か」


 俺は晴天の下、召喚したリヴィアと二人、のんびりと街道を歩いていた。


「薬草採りだって。地味だねー」


 ころころとリヴィアが笑う。


「その割には楽しそうじゃないか」

「楽しいよ。こんなに広い大地を歩くのも久しぶりだもん」


 そう言って、走り出すと少し先で止まって俺に手を振った。

 無邪気なもんだ。


「しばらくはこれくらいの依頼をやりつつ、俺自身のレベルを上げないとなぁ」


 昨日の試験で、リヴィアの恐るべき強さも分かったが、それ以上に召喚師本体――俺の脆さが我ながら露骨な弱点であることがわかった。

 昨日は一対一だったからリヴィアが俺を守りながら戦うことが出来たが、今後多対一の戦闘が発生した時、とても戦いにはならないだろう。

 しかし――


「レベルって、どうやって上げるんだ?」


 俺が首をひねると、リヴィアも首をひねった。


「さぁ? 敵を倒せばいいんじゃない?」

「まぁ、単純に考えるとそうなるか」


 すると、リヴィアが何かを思いついたように手を打った。


「じゃあ、強いモンスターがいそうな森とか山とか、まるごと消し去れば一気にレベルアップじゃない!? よーし、手始めに目の前の森を――」

「ストーーップ! だめ! ってーか、今から薬草採りに行こうとしてる森を消してどうする!」


 俺が止めると、リヴィアはショックを受けたように二、三歩後ずさった。


「だめ……なの……?」

「シリアス風に言ってもだめなもんはだめ」

「ちぇー」


 途端、頬をぷくーっと膨らませる。

 なんというか、表情の豊かな海神様だ。


「ミアにも言われただろ? 人型ならまだしも、海神状態が人目に触れるようなことは絶対に避けなくちゃ」

「えー。つまんないなー」

「我慢してくれよ。そうだ、〈探索者〉にランクアップしたら、思う存分暴れさせてやるからさ」


 そう言ってリヴィアをなだめつつ、俺は自分のステータスを確認した。


【坂内コウジ Lv:1

 HP:24/24

 マナ:0/39

 AP:400/400

 ジョブ:召喚師

 スキル:召喚術 400 魔獣語 80 幻獣語 80 神獣語 80 観察 60

 装備品:冒険者の服】


 そういえば、昨日の夜に色々と試して、謎だった数値『AP』についても分かった。

 リヴィアの召喚コストが『150』。さらには一定時間召喚し続けていると、APは時間経過とともに減少していく。

 そして、やはりと言うか、APが150を下回った時、リヴィアの再召喚は不可能だった。

 つまり、リヴィアを連続で召喚するのはかなり難しいということになる。

 こうしてリヴィアを召喚して狩りを行ったりした後は、APが自然回復するまで待つ必要があるのだ。

 そして、その間は俺本体の方は完全に無防備になる。

 これは実に危うい。

 それも考えると、俺が今しなければいけないことは三つ。


『一、モンスターを倒して、レベルアップ』

 これはマストだ。

 俺自身が弱すぎる。野良犬にすらふた噛みで殺されそうなステータスだ。

 筋トレでも始めるか。いや、意味ないか。


『二、戦力を充実させる』

 リヴィアに頼らない戦力。すなわち俺自身の戦闘力か、他にリヴィアほどコストの高くない召喚獣が必要だ。

 しかし、そんな召喚獣がどこにいるかの情報も無いし、誰かに聞こうにも俺以外の召喚師がいないのでどうしようもない。

 剣や槍の戦闘系のスキルを後から習得したり出来るのだろうか?

 とりあえず、安物の剣でも買ってみるか。


『三、依頼をどんどんこなす』

 とにかく、今はその日の衣食住さえままならない状態だ。

 お金はあるにこしたことは無い。

 そして、依頼をクリアして〈ギルド貢献度〉を貯めれば冒険者ランクが上がり、受けられる依頼にも厚みが出てくる。


「やることが多いなぁ」


 そうぼやきつつも、俺は胸が高鳴るのを止められなかった。

 自分の生きる方向を、自分の力で決め、切り開く。

 そんなシンプルなことが、現実の世界では一つも出来ていなかったことに驚き、また少し悲しくなった。


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