作戦会議
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山神の民、ガラドニアの盾である〈蒼穹の騎士〉の本部は、市街の中心部にあった。
石造りの堅牢な建物だ。
「──なるほど。三手に別れて、その〈海神の宝珠〉とやらを敵の〈株〉に埋め込む、と」
青鎧を纏った騎士リュートが、そう言って腕を組む。
作戦会議室の大きな円卓には、リュート、そしてコージたち六人が腰掛け、リュートの背後では一部の〈蒼穹の騎士〉たちが後ろ手に整列していた。
一部と言っても総勢二十名を超える。
全〈蒼穹の騎士〉を合わせると、数百の数になるらしい。
「ええ。そこで、あなた方〈蒼穹の騎士〉にもご協力頂きたいのです」
全員を代表して作戦の説明をしていたアフェットが、そう言ってリュートと騎士たちを順番に見渡した。
「……我々に何をしろと?」
リュートが鋭い目でアフェットを見つめる。
アフェットは気おされること無く答えた。
「まずは、〈カーバンクル〉の元に行くのに力を貸して欲しい」
「〈カーバンクル〉……霞の神獣がいる〈翠玉迷宮〉は北東の大地の裂け目。辿り着くには、敵の拠点の近くを通る必要がある」
「ええ。だから、あなた方の力が必要なんです。……そして、もう一点」
アフェットが人差し指を立てると、リュートは無言で先を促した。
「……準備が整い次第、〈蒼穹の騎士〉は山神の民の全戦力を〈モルデンド大聖域〉に集結させていただきたい」
リュートの眉間にシワが寄る。
「総力戦になるぞ」
「いえ、これはあくまでも他の二拠点から敵の目をそらすためのブラフ。その隙に〈ダークテンペスト〉と〈浮遊神殿ゴルドベルグ〉に宝珠を仕掛けます」
「……残る一箇所。〈古い門の荒野〉はどうする」
リュートが問うと、バインダーからランスロットが勝手に飛び出してきた。
『私と我が主……コージ殿が本隊を迂回して横から突入する。貴様らは自陣で震えていれば良い』
リュートはランスロットの言葉を無視するように俺に話しかけた。
「君が、一人で……?」
「はぁ。まぁ、なんかそうなっちゃいまして……」
ポリポリと頬を掻く俺を、リュートは眉間のシワをより深くしながら眺めていた。
「…………」
リュートは目を閉じて小さく息をつくと、
「……すまんが、お断りする」
硬い表情のまま俺たちに言った。
「先程、失礼ながらあなた方のステータスを〈観察〉させてもらった。……正直、こちらのコージ殿以外は、到底戦力にはならない」
そう言って、リュートが自身のステータスを表示する。
【リュート Lv:620
HP:4,978/4,978
マナ:3,750/3,750
AP:120/120
ジョブ:騎士
スキル:剣術 120 騎士道 100 パリイング 100 体術 100
弓術 100 観察 90 治療 90
装備品:天命樹の騎士剣
蒼穹の鎧 山神のタリスマン】
「うげっ……」
「ファンタスティック……!」
ミアが変な声を漏らしながら顔を引き攣らせ、リヒャルトが目を輝かせた。
ガラドニアの戦士たちは山神の加護によりその能力を爆発的に高められていると言う話は、ルフ本人から聞いていた。
しかし、さすがはその中のエリートである〈蒼穹の騎士〉。ここまで高い能力を誇るとは。
『ふん……。山神殿の加護で強化された力を誇るか、青二才』
漂う青い火の玉があざ笑うのを、リュートがうろんな目で見やる。
「この地に生きるものは全て山神の元に帰する。山神の力も我々の力も同義だ」
『屁理屈を……!』
「おい、やめろって! ランスロット!」
『……は……』
俺が語気を荒げると、ランスロットは渋々と言った感じで俺の後ろに移動した。
「ランスロットさん……」
マールが心配そうにランスロットを見る。
場はしばらく沈黙に包まれた。
「えーと。でもさ、あたしが力を貸すって言ってるのを断るのはもったいないんじゃないかな~って思うんだけど」
リヴィアが困ったような笑顔を浮かべて言う。
なんだか、リヴィアも大人になったなぁ。
ちょっと前だったら、有無も言わさず暴れてたと思うぞ。
「は……。海神殿のお言葉、誠に光栄の極みにございます。しかし、この地の問題はこの地の者で解決するのがならわし……」
リヴィアに答えるリュートの言葉は、丁寧ではあるが頑なな拒絶が込められていた。
「まぁ、そう言わないでさ。私とルフがやるって言ってるんだから従ってほしいな~、なんて」
リヴィアが場を取り繕うようにへらへらとした笑顔を浮かべながら言う。
リュートは眉間にシワを寄せたまま首を横に振った。
「あなた方の〈作戦〉に乗り、それが失敗すればそのまま総力戦になだれ込む。そうなれば、ガラドニアを防衛できるかはもはや運次第。それとも、あなた方の〈作戦〉が100%成功すると……?」
俺たちを睨みつけるように見回す。
「それは……確実とは言い切れません」
アフェットが言う。
リュートはそれを鼻で笑うと、テーブルに手をついて立ち上がり、俺たちを見下ろした。
「もう一度、はっきりと申し上げよう。海神殿には申し訳ないが、我々の地は我々が護る。たとえ、この身がこの大地と共に滅しようとも、だ。三百年以上の間、そうしてきた。ぽっと出の外界人が出る幕など一ミリも無い」
「ふざけないでよ……!」
ミアが我慢ならないと言った感じで立ち上がった。
「あんたたちだって、このままじゃジリ貧なのは確実じゃない! 〈天つ森のはじまり〉がクラスターに滅ぼされたら、私たちの世界だってどうなるかわからないのよ!?」
ミアが腰を浮かせる。
「……知ったことではない」
リュートが冷たく言い放つ。
すると、ランスロットの火が『ぼうっ』と吹き上がった。
『貴様らは……! 貴様らはいつもそうだッ! この地以外は……外の人間の世界は、塵芥のようにしか思っていない……!』
「……それの何が間違っている。事実、貴様ら外界人は無知で野蛮な種族ではないか」
リュートは眉一つ動かさずにランスロットを睨みつけた。
『……ッ!! コージ殿、剣を! 私が、この男を斬り捨てる!』
ランスロットが言い放つと同時に、蒼穹の騎士たちが一斉に剣を抜き放った。
「……ッ!?」
アフェットが反射的に立ち上がって、腰の剣の柄に手をかける。
リヒャルトも腰を浮かせて隣のマールを背に隠した。
瞬時に部屋の中に殺気が張り詰める。
その時────
ダァン! とリヴィアが机を叩いた。
「あのさぁ…………。互いに利益になるように解決してあげようとしてるんだけど」
うつむくリヴィアの表情は見えないが、その全身から怒気が発散されている。
あ。これアカンやつだ。
『──それが分からんのか、この木っ端どもが……!』
言う間にも魔力は膨れ上がり、声に海神の重低音がダブっていく。
部屋全体が魔力の余波でビキビキと悲鳴を上げた。
全員が凍りついたように動けない中、リヴィアがゆっくりと立ち上がる。
『面倒だ。また生めばよい。今、この地全てを、一辺の草も残らず無に返してくれよう……!』
爆発するような魔力のプレッシャー。
次の瞬間、俺たちは激しく渦巻き全てを消し去るような激流の中に呑み込まれた。
蒼穹の騎士たちが悲鳴とも喘ぎともつかない情けない声を上げるのが聞こえる。
しかし、俺自身、今、声を出しているのかどうかも分からなかった。
森羅万象が意味を失い、自分の身体や意識すらも分解されて全てと混ざり合っていく。
余りにも恐ろしく、また、余りにも陶然とした感覚だった。
──と、その〈幻影〉は、唐突に終わりを迎えた。
「……はぁ……はぁ……」
気がつけば、俺は汗だくで床にへたり込んでいた。
「ミア……大丈夫か?」
「え、ええ……」
同じく倒れ込んでいたミアたちと共に、ふらふらと席に戻る。
蒼穹の騎士たちは剣を取り落してへたり込んだまま、呆然として声も出ない様子だ。
「……う……あ……」
汗でびしょ濡れになったリュートの顔には、深緑色の髪がへばりついていた。
「ごめんね。あたし、ルフほど優しくないの。と、言うわけで、あたしの作戦に異議のある人はいるかな~?」
リヴィアの『にへら』っとした笑顔に、異議を唱えるものは当然いなかった。




