蒼穹の騎士 リュート
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小高い丘に広がる都は門も防壁も無く、郊外にはのどかな田園風景が広がっていた。
畑やまばらな民家が見えるが、人の気配は無い。
やがて大きな川を渡る橋に差し掛かった。
この奥が市街地のようだ。
橋の向こうから〈山神の民〉の親子がやってきた。
母親と娘であろう二人組は、俺たちを物珍しそうな顔で見たあと、避けるように橋の隅へ移動した。
深みのある緑色に染められた、民族衣装を身に纏っている。
俺たちは、なるべく警戒されないよう黙って通り過ぎた。
「向こうに敵意は無いみたいだけど……。歓迎されてるわけじゃ無さそうね」
こそこそと言うミアにアフェットがうなずく。
「かもね。とにかく、ここじゃ僕らは完全に異物なんだ」
大きな橋を渡り切ると、そこからは白亜の建物と自然が見事に融和した街が広がっていた。
橋から続く大きな通りには沢山の人が行き交っている。
通りかかる〈山神の民〉たちは、俺たちから距離をとって物珍しそうな目で眺めてきていた。
中には露骨に嫌悪の表情を浮かべるものもいる。
先程の親子では気が付かなかったが、老若男女全員が俺たち普通の人間よりも二周りほど背が小さい。
彫りが浅く丸みを帯びた顔立ちは、どことなく日本人を思い出させる雰囲気だ。
きれいな装飾の入った民族衣装は、緑や青など落ち着いた色が多かった。
よく見ると、建物や街のスケール感も彼らのサイズに合わせられているので、俺たちには少し小さく感じる。
『ああ……。まさに〈ガラドニア〉だ……』
ランスロットが呟いた。
「ランスロット。来たことがあるのか?」
『……はい。もう、悠久の昔と言える頃に……』
低く呟く彼の声には、重い影のような暗さが滲んでいた。
すると、通りを行く人々が突然道を開けるように左右に退いた。
「なんだ……?」
状況を掴めずにいると、通りの奥から蒼い鎧に身を包んだ騎士の一団がこちらに向かってきた。
遠巻きに眺めていた民たちがざわつく。
騎士の一団が俺たちの前で止まる。
「…………」
先頭にいた男の兜の奥から、鋭い眼光が俺の瞳を捉えた。
身構える俺たちを順番に眺めると、男はリヴィアに向かって深く頭を下げた。
「……始原の海神殿。お待ちしておりました」
男が兜を脱ぎながら顔を上げる。長めに伸ばした深緑色の髪が頬に掛かった。
他の山神の民と同様に、俺たちと比べると身体は小さいが、その瞳の強い光は歴戦の風格を思わせる。
『貴様……ッ!』
すると、その顔を見た瞬間、ランスロットの魔力が膨れ上がった。
「うわっ……! おい!」
青い火の玉が勝手に出現して、俺の前に浮かぶ。
『お前は、フィドル……!! よくも我が前に顔を出せたものだなッ!』
「待っ……ランスロット!」
突然、激昂し始めたランスロットに慌てていると、その『フィドル』と呼ばれた騎士は眉間にしわを寄せた。
「なんだ、この火の玉は。なぜその名を知っている」
『我が名は聖騎士ランスロット! この名を忘れたとは言わせぬぞ、フィドルッ!!』
「聖騎士……? 私は、蒼穹の騎士リュート。フィドルは……私の曽祖父の名だ」
『──ッ!?』
「ランスロット、落ち着いて。山神の民の寿命は長くて七百年。フィドルが生きている訳がないよ」
リヴィアが一歩前に出てランスロットをなだめた。
『…………』
青い火の玉が無言のままバインダーに戻っていく。
蒼穹の騎士リュートは、後ろの騎士たちと顔を見合わせると、
「山神〈ルフ〉がお待ちです。ご案内しましょう。こちらへ」
そう言って踵を返し、歩き始めた。
「行こう、みんな」
リヴィアが先頭に立ってついていく。
「ねぇ、ランスロット……どうしたの?」
ミアが歩きながら俺の背中をつついた。
「わからない。リヴィアは何か知ってるみたいだけど……」
小声で返す。
歩くリヴィアの背中を見ながら、俺はとにかく事情を聞かねばと考えていた。




