双蒼山・ガラドニア
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静かに霧の立ち込める双蒼山の麓の平野には、薄青色に輝く大小さまざまな水晶が無数に浮かぶ不思議な光景が広がっていた。
見渡す限りの水晶の園だ。
この地に生き循環する生命力が結晶化したものだ、とリヴァイアサンは言った。
その奇跡のような美しい光景に涙を流したのは先程の話で────
今、俺たちは一転して過酷な環境に置かれていた。
「ふおおお……! 寒い! 死ぬ!」
吹き付ける吹雪が頬に痛いほど叩きつけられる。
双蒼山は極寒の世界。
全てが白く染められ、荒れ狂う雪と風に俺たちのちっぽけな生命のともし火は吹き消されんばかりだ。
「あうぅぅぅぅ。リヒャルトさん、もっと火力上がらないんですか……!?」
マールが言う。
「そうは言ってもだな、マールくん。これ以上火力を上げると、我々も焦げてしまうよ」
俺たちの頭上には、リヒャルトの生み出した火球が懸命に燃えながら追従してきていた。
正直、無いよりはマシ、程度のものだ。
リヒャルト自身は、元々の厚着が功を奏したのか若干の余裕を感じる。
「こ、こここ、これでもリヴィアがシールドである程度防いでくれてるんでしょ!? この道のりを歩かせようとしてたなんて、山神ってのはどんだけ鬼畜なのよ!? どSなんじゃないの!?」
ミアが慟哭を上げた。
「ぼく、なんだか眠くなってきたよ……」
「ああ! アフェット! 寝たら死ぬわよ!!」
「リヴィア! まだ着かないのか!?」
リヴァイアサンの頭をぺちぺちと叩いて言うと、リヴァイアサンはやや不満げに鼻息を漏らした。
『堪え性のない者どもだ。あと僅かで抜ける。辛抱せんか』
そう言ってさらにスピードを上げた。
「~~~~~~ッ!?」
体感温度がさらに急降下して、俺達はもはや声すら出なかった。
すぐ下を流れていく白銀の世界を、毛むくじゃらの大きな生物がのしのし歩いているのが見えた。
こんな世界にすら生きているものがいる。
自然てすごい。
そんな事を、俺は薄れそうな意識の隅で思っていた。
俺たちにとっては数時間にも感じたが、それは時間にすればものの数十秒だっただろうか。
ピークに達した吹雪が視界の全てを奪った後、突然に風がやんだ。
『抜けたぞ』
リヴァイアサンが言う。
固く閉じていた瞳を、ゆっくりと開ける。
気温も天候も、さっきまでが嘘だったかのように穏やかになっていた。
「なにこれ……。すごい。ここ本当に山頂よね……?」
ミアが唖然として呟いた。
真っ青な空だ。
俺たちが飛行する周囲には、たくさんの虹がアーチを描いている。
眼下はなだらかな傾斜を描く草原で、色とりどりの花々が競うように咲き誇っていた。
風が吹いた。
花びらが、世界中のありとあらゆる色を集めた紙吹雪のように大気中を彩った。
「天国? 私、死んでしまったんでしょうか?」
マールがぼんやりと呟いた。
「縁起悪いこと言わないでよ。でも、ほんとここに来てから驚かされすぎだわ」
「コージくん、前!」
アフェットがそう言って指差した前方遠くから、巨大な宮殿と都市のようなものが近づいてきていた。
「リヴィア、あれは?」
『あれこそがルフの住まう玉殿と、山神の民たちの都。双蒼山〈ガラドニア〉だ』
リヴァイアサンがゆっくりと高度を落としていく。
久方ぶりに地面におろした俺たちの足を、柔らかな草の大地が受け止めてくれる。
「ああ! 全身バッキバキだわ……!」
ミアが大の字で草の上に寝転ぶ。
俺や他の面々も思わず同じ行動をとった。
確かに、飛行中つねに全身を緊張させていたので、関節中が軋むような感じだ。
寝転んだまま空を見上げる。
折り重なる虹の架け橋と、ふわりと漂う花びら。
この世のものとは思えない絶景だ。
「すげー……」
「ほんとね……」
俺とミアが思わずこぼす。
すると、俺の顔のすぐ上に『にゅっ』とリヴィアの顔が現れた。
いつの間にか人型に戻っている。
「コージ。行くよ~」
確かにのんびり昼寝をしている暇は無い。
俺たちは立ち上がると、〈ガラドニア〉目指して歩き出した。




