Magic3
女の子と何人かの男子生徒との喧嘩の間に割って入ってから既に4時間が経過していた。
空には月が昇り、星が点々と輝いていた。
時刻は午後8時
魔力が底をつくと睡眠によって回復することぐらいは知っている。
ある程度回復すれば勝手に眼はさめるはずなのに未だに目を覚まさないのはこの子がただ単にこの子がそういった体質なのかもしれないし、もしくは4時間の睡眠でもある程度の回復量に満たないほどの総魔力値なのかもしれない。
「これはど〜ゆ〜状況なのかな?」
夜空を見上げていると下から声が聞こえた。
顔を下げるとそこには顔を赤くした小さな顔が目の前にあった。
「ちっ近い!!」
ゴン!!
急に顔を下げたことに驚いたのか突然顔を上げるもんだからお互いの額どうしがクリーンヒットして見事なまでの鈍い音を奏でた。
「ん"っん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"っん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"っん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"っ」
女の子は打ち付けた額を抑えながらゴロゴロと転がりまわり必死に痛みと戦っているようだった。
「っっっはっっあははははははあははははっっやっやめっしぬっあははははは」
かなりのダメージを受けている女の子には申し訳ないが痛みに耐えて転がる様は尋常じゃなく面白かった。
少しして、痛みが引いたのか深呼吸して立ち上がった女の子は制服についた土や砂を手で払い落とすと俺の前で仁王立ちすると俺の頬を両手で思いっきりつかみ、横に全力で引き延ばした。
「笑うな!」
「ふっふいてふっひゃひゃひゃひゃひゃ」
(むっむりですっあはははは)
ゴン!!
いつまでも笑いがおさまらない俺に対して女の子は武力制裁に打って出た。
さすがにいくらなんでも女の子に全力のグーパンチを撃たれればどんなに笑っていても全力で自分を止めざるをえないだろう。
「すみませんでした…」
目の前に正座した女の子に対して深々と頭を下げて謝った。
「わかればよろしい。でさ、聞きたいんだけど、なんで私は君に膝枕されるような状況に陥ったのかな?気を失ったところまでは覚えてるんだけどね…その後がさっぱりなんだよね〜」
気絶したところまで覚えているなら後の説明は簡単だ。
気絶したこの子を抱き上げ、一旦は保健室に連れて行こうと思ったが喧嘩のことを話したら拙いだろうし、かといってこの子の家なんて知らないし、俺の家なんてもってのほかだし、で結局行き着いた考えは「ここに結界を張って目を覚ますまで待とう」だった。
「そこまではわかった。けどなんで膝枕?上着畳んで枕にするとか他にやりようがあったでしょ?」
「上着はもう使ってしまったんで…」
そう言いながら俺の横に目をやると女の子はどうやら気づいたらしい。
「ごめん。私の制服が汚れないように下にコート敷いててくれたんだね」
「いえ。こちらこそ。結界も張ってあるし誰の目に触れることもないからと思ってやったんですけどあなたの気持ちまでは考えが及びませんでした」
再び頭を下げると数瞬の後に後頭部にやさしく頭を撫でる感触。
「もういいから頭上げて。あと、あなたって呼ぶのやめて。私にはちゃんとした名前があるんだから」
正座のままの俺に手を差し伸べてゆっくりと立ち上がらせた。
「私の名前は織枝ヒカリ。苗字は織物のオリに木の枝の枝でエ、名前はカタカナ。君の名前は?」
「俺の名前は綾野閃。苗字は綾取りのアヤに野原のノ、閃は閃きのセン」
「さてと、帰ろうか閃」
いきなり呼び捨てにされたにも関わらずそれは意外にも違和感なく俺の中にしみ込んだ。
学校からの帰り道の途中いろいろなことを話した。
俺がこの高校を受験すること。
お互いの住んでいる場所の大体の位置が思いのほか近いことに驚いたということ。
そして、
「あっそうそう。ねぇ閃どうやって私の結界を消したの?私のそれは一応[魔法の真似事]だからあの時みたいに本当にクモの巣を振り払うかの如く消し去るなんてまず無理のはずなんだけどな〜?」
なにやら疑わしいという目を俺に向けてきた。
こういった好奇心に満ちた目を掻い潜ることには俺はもう慣れてしまっていた。
「俺は結界破壊の魔法使いだからほぼ例外なく結界は破れる」
「なにから派生した魔法なの?」
「サイコキネシス」
正直なところあまり口を開くとぼろが出そうになるため出来るだけ口を開かないように気をつけていたが織枝はそれ以後口を開かなかった。
「じゃあ私はこっちだから。じゃあ入学式でね。ちゃんと合格しなさいよ、閃」
「大丈夫だよ、織枝。ちゃんと合格するから。じゃあまた、入学式で」
二人が別れた道は見事なY字路でいくら振り返っても互いの姿を見ることは決してできなかった。
また織枝に会うためにはゼロ校に合格するしかないだろう。
また会いたいと思える人に出会ったのはこれで二人目だった。
好きだとか嫌いだとかそういった感情ではないと思う。
ただもう一度月明かりのなかで俺に手を差し伸べた時のあの微笑んだ顔を見たいと思った。




