Magic4
四月。
まだ桜が咲ききっていない上旬。
俺は今新入生と在校生を合わせた数百人を見下ろす舞台の上にいる。
壇上から見下ろした黒色と肌色のコントラストはなんだか気味が悪い。
ゆっくりと全体を見渡し一度深呼吸をして何日か前に考えた原稿を読み上げた。
新入生代表の挨拶を終え、舞台から降りる途中に織枝と眼が合った。
織枝は俺に微笑みかけ、右手を拳銃の形にして俺に向けると「バ〜ン」と口パクで俺にジェスチャーを送ってきた。
そんなジェスチャーを送られても全校生徒に注目されている状態では応えることができず、結果的に無視することになってしまった。
「…あとで謝ろう」
入学式が滞りなく終了し、それぞれが校門の前で写真を撮ったり何人かで固まってこの後の予定を話し合っていた。
そんな入学式後の微妙なテンションで騒いでいる新入生の姿を観察しつつ、式の後、すぐに無視してしまったことを織枝に謝ろうとしたものの二・三年生はすぐに教室へ引き上げてしまったため、探し回るよりも手っ取り早くすまそうと思い門にもたれかかって織枝が来るのを待っていた。
新入生に紛れてそれなりに二・三年生も校門を通過して行っているが一向に織枝の姿が見えてこない。
今また何人かの女子生徒のグループが目の前を通過していったがまた織枝の姿は見えなかった。
「あ〜あの子新入生代表の子だよね?」
「あっホントだ〜。だれか待ってるのかな?」
「彼女じゃない?」
「え〜マジ?」
(マジじゃね〜よ。聞こえてるっての)
「あれっ織枝は?」
オリエ。
確かにそう聞こえて顔をさっき通り過ぎた女子生徒のグループに目を向けると目に飛び込んできたのは小さな拳だった。
「お前はアレか?入学式で人が挨拶してやってるのを無視しておいて誤りもせずに帰ろうとした挙句、目の前を謝るべき人間が幸運にも通りかかったにもかかわらずまた無視を決め込むような人間だったのか?」
突然の痛みにうずくまっている頭の上からさらに精神的な追い討ちを見舞われた。
そもそも人を撃つ真似をすることが挨拶だなんてことは今まで全く知らなかった。
「まぁいいか。許してあげるから今日は閃の奢りで新入生歓迎会ね」
織枝はまだ痛みで顔を押さえている俺を引きずりグループに合流した。
そのままずるずると引きずられ続け、結局学校の近くにある小さな喫茶店へと連れて行かれた。
Cafe [magus]
古い造りのドアの上にそう書かれた看板が付けられていた。
学校からそれなりに近い距離にあるおかげで学校の生徒で埋め尽くされているかと思いきや店の中には薄暗い照明の中でコーヒーの豆を挽いている男が一人いるだけだった。
「いらっしゃい。織枝さん、御山さん、時葉と……新入り君」
「こんにちは。マスター。二階の席使うね」
確実にどうぞと応える声が聞こえる前に織枝たちはすでに二階に向かっていた。
あまりの傍若無人ぶりに唖然として織枝たちとマスターと呼ばれた男の人の顔を交互に見やってしまった。
「ちょっと来てくれるかな?新入り君」
目が合った瞬間に人の良さそうな笑顔でカウンター席のほうに手招きされた。
「とりあえず自己紹介。僕は浅上 奏樹。呼ぶ時はマスターでいいですよ」
「僕は月代学園一年、綾野閃です。呼び名は…適当でいいです」
まさか最後の一言に今後苦しむことになるとは思ってもみなかった。
「じゃあ…そうですね〜…センベイと呼ぶことにしましょう」
マスターは会心の出来だとでも言いたげに何度もうなずいた。
どうやら冗談とかではなく俺の言葉を受けて真剣に考えた結果らしい。
「何やってんの閃〜?早く上がっておいで〜」
織枝の声が聞こえるとマスターは手を階段のほうへ向け俺が上に行くように促した。
あんなに自分が付けたあだ名に感心している姿を見てしまっては考え直してもらうのは少し気が引けるし、自分で言った言葉には責任をしっかり持つべきだ。
諦めよう。
「どうしたの閃?」
織枝はやけにニヤニヤした顔で俺の顔色をうかがっていた。
俺がマスターに実に微妙なあだ名をつけられたことを分かっているらしい。
「綾野くん大丈夫…じゃなかったみたいだねその様子だと」
「ごめんね〜綾野くん」
あとの二人もマスターにネーミングセンスがないことを知っているみたいだ。
だったら事前になにかしらの警告をしておいてほしい。
織枝の表情を見るに俺が奢ることにこれも含めて織枝を無視したことに対しての詫びになっているようだった。
それにしてもちょっとこれは酷過ぎないか…織枝…センベイだぞセンベイ…
よければご意見ご感想をよろしくお願いします。




