↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの色が見えなくなるまで~名家の令嬢は、その気持ちを恋とは認めてあげません~  作者: 黎明 あかり
ガーデンパーティー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/55

第49話 黄緑色の名前

「パーティーへ戻りましょう、真人さん」


 すでに来栖と夢乃の姿は夜の街へと消えている。

 澪がここには用はないとでも言うように踵を返していた。


「は? いや、待て!!」


 エレベーターに向かおうとする澪を慌てて止める。

 澪が足を止め、振り向く。


 瞳は、焦げ茶。


「その前に文句1つ言わせろ。また、使おうとしたな?」


 何を、とはあえて言わなかった。

 澪も自覚はあるのだろう、ふいっと視線をそらす。


 あのとき、来栖の目が細められて、澪に向けられていなかったら気づかなかった。

 来栖の視線の先を追えば澪の瞳が紅く染まっていた。


「だいたい、アンタはすぐ目を使い過ぎなんだ。このパーティーで何回使った?」


「“追憶”は……2回よ?」


「嘘つけ、3回目だろうが。それに、周囲の感情にやられてるくせに」


 ガーデンパーティーが始まってから、多くの感情を見ているはずだ。


 橘兄弟の感情。

 夜会では好奇の視線と感情。

 婚約を迫る親子を“追憶”。

 綾瀬の強い感情。

 綾瀬の過去を“追憶”。


 そして、今……、夢乃か来栖への“追憶”。


 いつもよりも確実に負担になっているのは間違いない。


「気にしなくていいわ、まだやらなくてはならないことがあるから」


 有無言わせない澪の言葉にいつも言い返せない。

 しかし、今は違う。


 それでも無理をさせてしまえば、明日から寝込む日々が始まる。


「何でそんなにやるんだよ……」


「私は久世だから」


 澪がそれだけを言った。


「でも真人さんの言うとおり、限界は来ているわ」


 澪はポシェットを開け、何かを取り出した。

 澪の手のひらには小さな錠剤。


 それをゴクリと飲み込んだ。


「……なんだよそれ」


 嫌な予感は当たるものだ。


「異能のドーピングよ。もう3時間はこれで倒れることなく動けるわ」


 いたずらっ子のように笑う澪。


「はぁあ?! 吐き出せ! 今すぐ!!」


 なんて言うものを持っているんだ。

 異能を使いすぎても体を動かすための薬なんて、危険以外の何物でもないことぐらい真人にもわかる。


「一緒に、榊さんに怒られましょうね」


 脳裏に榊の説教が想像されて肩が震える。


「俺を巻き込むなよ……」


 澪はにっこりと微笑んだ。

 話は終わったとでもいうように、エレベーターのボタンを澪は押した。



 ◇



 エレベーターは60階を指している。


 なかなか降りてこない。


 真人は澪の横に立ち、横目で澪の顔を見た。

 顔色は悪いとはいえ動けないことはなさそうだ。


 それでも何か考えているのか静かな澪。


 真人の視線に気づいたのか、澪がこっちをむいてきた。


「……真人さん、久世にいてくれるのよね?」


 ポツリと、澪の声がこぼれた。


「あ? そりゃあアンタに雇われたからな」


 急にそんな話になるとは思わなかった。

 不思議と思いつつも答える。


 澪はそれだけを言うとまた黙ってしまった。


 エレベーターが到着して乗り込む。


「……なんだよ、急に」


 さっきの話が気になった。

 エレベーターに乗って閉まるドアを見ながら声をかける。


「……澪、って呼んでくれないもの」


 ドアが閉まると澪がポツリとまたこぼした。


「は?」


 思わず横を見ると、拗ねたような、不機嫌そうな横顔だ。


「んだよそれ」


 その顔に思わず笑いがこぼれる。


「だって、朝倉さまのこと……夢乃って呼んでるのに」


 そんなことを気にするような奴だとは思ってもいなかった。

 正面を向く澪が少しむくれたような表情なのは二人きりのエレベーターの中だからかもしれない。


「澪」


 声をかければこっちを見てくる。

 改めて名前を呼ぶのは、少し気恥ずかしい。


「色が変わったわね」


 嬉しそうに笑う顔が何処かくすぐったい。


「色?」


「真人さんから信頼の黄緑が見えるようになったわ」


 その顔は何処か幼く、久世家次期当主とは思えないほど普通だった。


 その笑顔が常にあればいいのに。

 と、思う時にはエレベーターはパーティー会場の58階に到着した。


 エレベーターのドアが開けば、会場のシャンデリアと歓談の喧騒が待っている。

 一歩踏み出した澪の後ろ姿が今は少しだけ近く見えた。


「真人さん」


 振り返り、声をかけてくる澪の顔に幼さは消えている。

 そこにあるのは、真人の良く知る社交場での美しさを兼ね備えた顔。


 真人は何も言わず、澪へ腕を差し出した。


 俺だけでいい、澪の普段の顔を知っているのは。



 —— 第一部「紫から黄緑へ」 完 ——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
34話から一気読みしてしまいました! 澪×真人にドキドキしながら、物語にはハラハラ。 夢乃ちゃんには、良い意味で予想通りとも裏切られたとも言えますね。 異能がここに来てキーになり、二部が楽しみで仕方…
一部完結おめでとうございます! 澪と真人が一歩歩み寄ったような、ちょっとした関係性の変化に毎回キュンとしてました。澪が年相応の女の子らしい表情を見せられるになったの大きな変化ですね! いっぱい澪のこと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。