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あなたの色が見えなくなるまで~名家の令嬢は、その気持ちを恋とは認めてあげません~  作者: 黎明 あかり
ガーデンパーティー編

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第46話 恍惚の追憶

 澪は綾瀬と対峙した。

 数刻前に綾瀬と澪が2人でいたあのVIPルームだ。


 真人から苦言を呈されていた。


「いいのよ、ここが一番感情を強く見えるから」


 澪は真人によって椅子に縛り付けられている綾瀬とテーブルを挟んで座った。


 綾瀬からは真人に対して赤い怒り。

 この部屋にまた澪と戻ってきたという喜びの黄色。

 感情の色が忙しなく動いているのが見えた。


 蓮は制圧した警備員2人を引き渡した後に、この部屋へ来るという手筈となっている。


 真人は綾瀬の横に立ち、少しでも変な動きをしないかと目を光らせていた。


「綾瀬さま、教えてくださる? 今回の件、綾瀬さま一人の判断ですの?」


「澪さんから話しかけてくれるなんて……! 当たり前だよ、澪さんを他の人に渡すわけがないじゃないか」


 澪に話しかけられると、真人のことが眼中から消えたのだろう。

 黄色の喜びが強くなった。


「そういうことじゃ……」


 澪は手を上げて、文句を言いかけている真人を制する。


「先程は、しっかりお話できませんでしたものね」


「その前にこの庶民を部屋から出そうよ、澪さん。澪さんと庶民が同じ空気を吸うなんてあってはいけないんだ」


 綾瀬が真人を睨みつける。


「それに、澪さんにはこんな庶民はふさわしくない。僕みたいな上流階級を知っている人間じゃなきゃね」


「あ?」


 真人が耐え切れずに低い声を出した。


「低俗だな、人を脅すしか能のない人間とは」


 綾瀬が鼻で笑う。


「綾瀬さま、彼は久世の者です。それ以上の言葉はお慎みください」


 澪の鋭い視線すら綾瀬にとっては美しく見えているのだろうか。

 黄色の喜びがさらに強くなる。


「澪さん、目を覚まして? こんな男をエスコートにするなんて澪さんの品格が落ちるんだ。だから来栖に頼んで離れ離れにしたのに……」


「では、来栖さまと画策し、計画を練られていたのですね」


「違うよ、澪さん」


 黄色に混じり嫌悪感の紫が混じる。


「アイツとは利害が一致しただけ。澪さんさえ、僕のものになったら僕が来栖から守ってあげるんだから」


 利害、その言葉に真人の眉がひそめられた。


「さすが綾瀬さまだわ……わたくしのことを思ってのことだったなんて」


 一気に綾瀬の喜びの色が膨らむ。


 ——まだ、まだだわ。

 もっと、もっと強い感情を引き出さなくては。


「だから先ほどは、わたくしにこのチョーカーを付けてくださったのね」


 澪は真人に外してもらったチョーカーを手に乗せて見せた。

 このチョーカーに対して綾瀬が異様に執着しているのはわかっている。


 使えるものは何でも使ってやる。


「そうなんだよ、澪さん。……澪さんならわかってくれると信じてたんだ」


 澪はにっこりと笑った。

 ゆっくりと綾瀬に見せつけるように、澪はチョーカーを手に首元へと持っていく。


「おい……」


 真人が何か言いたげに声をかけたが、一瞥して口を閉じさせる。

 綾瀬の横で真人の手が強く握りしめられているのが見えた。


「あぁ……、澪さんが、僕のことを受け入れてくれる……」


 真人からの紫の嫌悪感が、綾瀬の黄色の喜びに重なる。

 パチン、と乾いた音が響いてチョーカーが再び澪の首につけられた。


 その瞬間、黄色の感情が一気に爆発して澪の視界を埋め尽くす。

 恍惚、狂気にも似た感情。


 ——感情、見つけた。


 澪はすぐに黄色の恍惚の感情へと意識を重ねる。

 走馬灯のように恍惚の感情と過去がリンクし始めた。



 ◇



『さすが綾瀬さまですわ、博識でいらっしゃるのですね』

 褒められた、あの久世のご令嬢が僕を褒めてくれた。

 あぁ、お礼も言えなかった。

 離れる澪の後ろ姿をうっとりと見つめる。


『綾瀬さまの論文を拝読させていただきましたわ。面白い着眼点で。それに、心を落ち着かせるお薬を開発はきっとこの先必要になると思います』

 澪さんが僕の論文を読んだなんて、そんなに僕のことを気にかけてくれているのか。


『綾瀬さま、1年ほど前に講演会でご一緒させていただきましたわね。お変わりありませんか?』

 1年前のことを覚えてくれているなんて、僕のことが好きなのかもしれない。


『智秋、久世家にエスコート役をお願いしに行こう』

『ダメだとしても、方法はいくらでもあるんだから』

 エスコートを断られた挙句、体調まで悪くしてしまった。


『智秋、ガーデンパーティーの夜会で澪さんと2人きりにさせてやるよ』

『朝倉家の夢乃って女が使える』

 乗ってやる、その話。

 僕と澪さんが愛を確かめ合えるのなら。


『このVIPルームに必ず連れてきてやる』

『久世澪に被検体になってもらう』

『異能者だからな』

 来栖は危険だ、僕が澪さんを守らなきゃ……。

 プレゼントにGPSを仕込んでおこう、これで僕が守ってあげられる。



 ◇



 ゆっくりと綾瀬の過去から澪は意識を離した。

 重たい黄色の恍惚の感情がずっしりと頭に残る。


「答えてください、来栖という男は何者なのですか?」


澪は立ち上がり、綾瀬の胸ぐらを掴んだ。


「澪さん……、やっぱり美しいよ、そのチョーカーとダイヤモンドがよく似合ってる」


綾瀬は答えない、それどころか眼の前に揺れるチョーカーのダイヤモンドしか見えていないようだ。


「落ち着け」


真人が澪の手を取り、綾瀬から離された。

それでも綾瀬から目が離せなかった。

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