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あなたの色が見えなくなるまで~名家の令嬢は、その気持ちを恋とは認めてあげません~  作者: 黎明 あかり
ガーデンパーティー編

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第44話 護衛の安堵

「澪!」


 ライトで照らした澪が、身体を小さくして怯えるように見上げてきた時、考える間もなく名前を呼んでいた。


 真人を認識するとすぐに抱き着いてくる。


「……真人さん!」


 普段の澪らしくない行動にびっくりしたが、さっき見たVIPルームの惨状を思い出して奥歯を噛みしめる。


 抱き着いてくる澪の体は小さくて、壊れんばかりに真人にしがみついていた。


 澪の存在を確かめるように、背中へと手を回す。

 顎の下にある頭に軽く手を乗せてやれば、強張っていた体の力が抜けていくのがわかった。


「馬鹿、探しただろうが。……怪我ねぇか?」


 小さくコクリと澪が頷けば、安堵の息が漏れる。


 ようやく、このお嬢サマが自分の手の届くところにいる。

 それまで生きた心地がしなかったのは確かだった。


 澪と離れてからのことが思い出される。



 ◇



 蓮と共に目にしたVIPルームに真人は息を呑んだ。


 ドアのそばに落ちていたのは、あの日、澪が選んでいたアメシストとダイヤモンドのネックレス。

 胸騒ぎが一気に膨らむ。


 蓮に見せてもらったネックレスは、力任せに千切られていた。


「久世の護衛、探すぞ」


 蓮の一声に現実に戻され、頷く。


「あぁ」


 部屋には相手に結び付くものが何も残ってはいなかった。

 焦りに押されて真人は廊下に出る。


 ふと頭上の監視カメラを見た瞬間、真人は足を止めた。


「おい、鳳条……さん?」


 真人はぎこちなく声をかけた。


「蓮でいい」


「蓮、監視カメラの映像は確認できるか?」


 蓮が廊下に出て、2人で監視カメラを見上げた。


「問題ないだろう、俺が掛け合う」


 蓮に連れられ、真人はセキュリティルームへと案内された。


 監視カメラで確認できたのは、来栖の後ろをついてくる澪の映像。


 その20分後。


 澪が勢いよくVIPルームから飛び出してきた。

 エレベーターホールへと走っている。


 蓮が映像を切り替える。


 澪が【STAFF ONLY】のドアを開けて入っていった。


「コイツ……」


「綾瀬製薬の息子だな」


 真人が指さしたのは、綾瀬智秋。

 蓮も真人の指さした人物を見て、眉間にしわを寄せる。


 綾瀬は澪のすぐ後に【STAFF ONLY】のドアへ入っていった。


「この部屋は?」


 真人が【STAFF ONLY】の部屋を指差す。


「非常階段になっている」


「行こう、10分も経ってない」


 すぐにでもセキュリティルームを飛び出そうとする真人を蓮は止める。


「落ち着け。久世のことだ、パーティー会場に戻っている可能性だってある」


 蓮が監視カメラの映像を切り替えた。


 パーティー会場へつながる扉の監視カメラで澪の姿をさがす。


 しかし、澪の姿が映ることはなかった。

 何度も録画された監視カメラの映像を見るも澪の姿がない。


「いねぇ……」


 もう一度、映像を巻き戻す。

 澪の姿が映らない。


 嫌な予感が頭をよぎる。


「これを見ろ、綾瀬だ」


 蓮が指さしたところは、リアルタイムの監視カメラ映像。


 場所は59階のエレベーターホール。


「上の階にあがったのか?」


 疑問があるが、今はそれどころではない。


「久世の護衛、行くぞ」


 2人はセキュリティルームを出て、59階へと向かった。

 59階のエレベーターから降りると、綾瀬の姿はすでになかった。


「俺は綾瀬を探してくる、久世のことを頼む」


「わかった」


 短く答え、マスターキーを受け取る。

 走りたい気持ちを抑え、廊下を急げば警備員が2人、ドアを叩いていた。


「開けろ! そこにいるのはわかっているんだ!」


「これ以上逃げられると思うな、開けたほうが身のためだ」


 警備員らしからぬ行動に眉をひそめる。


「何してる?」


 真人は声をかけた。


「キミ、どこから入ってきたの? ここは関係者以外立ち入り禁止だよ?」


 振り返った警備員は、人当たりのいい笑みを浮かべてきた。


「関係者っすけど? そこにいるの誰なんすか?」


 本能が告げている。

 ここに澪がいる。


 真人の迫力に警備員の一人がたじろいだ。


「ここは立ち入り禁止だよ、さぁ帰った」


 もう一人の警備員が真人を追い返そうと手を伸ばしてきた。


 真人はすぐに警備員の手を捻り上げる。


 そのまま力いっぱい、警備員を壁へ打ち付ける。

 警備員は力なくその場へ倒れ込む。


「おい、何してる!!」


 もう一人の警備員が殴りかかってきた。

 易々と拳をかわす。

 隙のできた警備員の顎へと拳を打ち込む。


 顎にモロに拳を食らった警備員は、呻き声をあげて後ろへとよろめいた。

 さらに、がら空きの鳩尾にもう一発お見舞いしすれば、あっけなく床へ倒れた。


「……チッ」


 真人は自分の拳を緩めて、警備員2人を一瞥した。


 ポケットからマスターキーを使ってドアを開ける。

 中は真っ暗だった。


 スマホのライトを使って中を照らす。

 中は小さな会議室になっていた。

 ライトで部屋を照らしていけば、光に反射した美しい深紅のドレスの裾が見えた。


 ライトを掲げ、近づくと怯えた表情の澪がいた。



 ◇



 ここまでのことを思い返せば、澪が手元にいることに安堵の息が漏れる。


「……ねえ、真人さん」


 澪の声に少しだけ生気が戻ってきたようだ。

 落ち着いてきたのだと胸をなでおろす。


「あ?」


 真人が澪を見降ろすように、身体を少しだけ離すと視線が合った。


「初めて、名前を呼ばれたわ」


 ……そんなことはないはずだ。

 さっきまでずっと澪のことしか考えていなかった。


 護衛になってから数カ月。

 名前を呼ぶ機会なんていくらでもあったはずだ。


「……んなわけねぇ」


 澪が小さく笑った。


 もしかすると、本当に名前を呼んでいなかったのかもしれない。


 ——今、とっさに出ただけで。


 そう思うと、思わず顔がほてってくる。

 暗い部屋だが、この顔を澪には見られたくなくて、澪から視線を外した。


「名前ぐらい、呼んでんだろ」


 精いっぱいの強がりで、すごくダサいことを言っている気がする。


 それでも澪の微笑みを直視することができなかった。


「そうかしら? わたしの記憶によれば呼ばれたの初めてだわ」


「澪、うるせえ」


 今度は意識して名前を呼ぶ。

 確かに呼んでいなかった。


 名前を呼ぶのも悪くない、かもしれない。

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