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あなたの色が見えなくなるまで~名家の令嬢は、その気持ちを恋とは認めてあげません~  作者: 黎明 あかり
ガーデンパーティー編

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第42話 黄色からの逃走

 スマートフォンは圏外。

 綾瀬によってドアはロックされている。


 綾瀬の目的も分からない。


 澪の頭の中に様々な憶測が飛び交うもこれといった確証がない。


 誘拐。

 身代金。

 久世家への脅迫。

 異能に関する情報の強要。

 能力の利用。


 ——それとも、もっと別の目的があるの?


 どの目的もしっくりこないのは、綾瀬から見える黄色の喜びの感情のせいだ。


「……綾瀬さまは、わたくしに何を望んでいらっしゃるのかしら?」


 とにかく、話を引き延ばそう。

 そうすれば相手にも隙ができるかもしれない。


「僕? 僕は澪さんと話したいだけだよ」


 綾瀬がにっこりと笑った。


「話したいだけならこんなことされなくても……」


「こうでもしないと、澪さんは色んな人と話すでしょう? それに、すぐにどこかに行っちゃう。

 そうだよ、まるで蝶々だよね。いろんな人を魅了しながら優雅に飛ぶんだ。それをみて、みんなは近づいていく。僕はヒヤヒヤするんだよ。


 ……いつか誰かに捕まるんじゃないかってね」


 綾瀬は手に持っているチョーカーを愛おしそうに指でなぞった。

 そして視線をチョーカーから澪へと向けてくる。


 一歩、また一歩と近づいてきた。


「澪さん、チョーカーがとっても似合うと思うよ?」


 ——怖い


 人に対してここまでの恐怖を覚えるのは初めてかもしれない。

 綾瀬の手がゆっくりと伸びてくるのを右手で制すると、一瞬で右手首を掴まれた。


 抵抗できないように顔の斜め上で留められる。

 思いの外、右手首を頭上へ固定される。


「ダメだよ、僕から逃げたら本当に危ないんだから」


 にっこりと笑う綾瀬からの黄色の喜びがさらに濃くなる。

 ――恍惚の感情。


「こっちにおいで、ソファーに座ってお茶でも飲もう」


 綾瀬の細腕からは想像もできないほどの力で引っ張られる。


 綾瀬は手首をぐっと力強く引き寄せた。

 思いがけない力に、澪はそのままソファーへ倒れ込んでしまう。


「きゃっ……」


「大丈夫、澪さん? 抵抗するから痛い思いをしちゃうんだよ」


 澪はうつ伏せになるように倒された。

 綾瀬が澪の上に体重をかけてくる。

 首だけをわずかに回して、綾瀬を睨みつける。


「いいね、澪さんのその強い瞳。ゾクゾクする……。だから僕のそばにいて欲しいんだ」


 綾瀬の手が伸びてきて、頬をなぞる。

 ゾワリと、背筋が凍る。


「やっぱり綺麗だ。チョーカーのダイヤモンドがよく映えるよ」


 頬をなぞる手がゆっくりと首元に持っていかれる。

 顔をよじり抵抗するも、綾瀬はチョーカーを首に巻き付けてきた。


 パチリとチョーカーのつけられる乾いた音がした。


 コロンとダイヤモンドが首で動く。


「あぁ……やっぱりよく似合うよ」


 綾瀬の視線が、澪の顔から首のチョーカーへと移っていく。


「ねぇ、澪さん。教えてくれないか? どうしたらキミは僕のモノになるんだろう? 自由を奪えばいいのかな? 久世家を潰せばいい? それとも……人前に出られないようにしたらいいのかな?」


 強すぎる恍惚の感情に酔いそうなほどだ。

 頭がクラクラとしてくる。


「澪さん? どうしてそんなに苦しそうな顔をしてるの? そんな顔もできるんだ……」


 うっとりとした表情がまた喜びの黄色を強くしていく。


「……ちょっと、離れてくださる?」


「それはできないよ、ようやく澪さんと触れ合えるのに」


「……そうですか」


 澪は一度、視線を伏せた。


 このまま抵抗し続けても状況は変わらない。

 むしろ、綾瀬を刺激すればするほど危険になる。


「……わたくしが逃げなければ、いいのですね?」


「もちろんだよ、澪さん!」


 綾瀬が目を瞬かせた。


「綾瀬さまは、わたくしが誰かに捕まってしまうことを心配していらっしゃるのでしょう?」


 澪はゆっくりと息を吐いた。


「今は、逃げませんわ」


 綾瀬の喜びの黄色が一気に濃くなる。


「本当?」


「ええ」


「僕のそばにいてくれる?」


 澪は返事をせずに微笑んだ。


「はぁ……」


 綾瀬から恍惚のため息が漏れる。

 この微笑みを肯定と受け取ってくれたらしい。


「いつも見ている澪さんの顔だよ」


 綾瀬が組み敷いた澪から離れ、立ち上がった。

 澪も体を起こし、視界の端でサイドテーブルのルームカードを捉える。


 ——慎重に、時を見極めて。


 綾瀬は立ち上がり、VIPルームの飲み物が置かれている棚へと足を向けた。

 綾瀬の背中から目を離さず、そっと手を伸ばす。


 カードに手が触れた。


 そのまま手の中へ納め、何事もなかったかのように座る。

 今すぐに動けばすぐに捕まってしまう。

 考えを巡らしていると、綾瀬が振り返り、澪の前に入れたてのコーヒーを置いた。


「コーヒーは甘いのが好きだったよね? 角砂糖1つ入れておいたよ」


「ありがとうございます」


 綾瀬は満足そうだ。

 澪はコーヒーカップを手に取った。

 湯気がゆっくりとカップの動きにワンテンポ遅れて付いてくる。


「綾瀬さま……」


 声をかけた。

 失敗はできない。


「なんだい、澪さ……」


 思いっきり、コーヒーカップの中身を綾瀬の胸元にぶちまける。

 すぐさま立ち上がり、ドアへと走った。


 後ろで、「熱ッ!!!」と叫び、椅子を倒す音が聞こえる。


 隠していたルームカードをドア横のキーポケットに差し込む。

 カチャと軽い音がして開錠される。


 澪は力いっぱいドアを押し開けた。


「澪さん、待って!!」


 後ろから綾瀬の声がする。

 振り返ることなく、澪は廊下へと出た。

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― 新着の感想 ―
綾瀬ほんとやだ……でもここで自力で脱出できる澪さんほんと強くてかっこいいです。でもでも早く真人助けに来て澪さんのこと安心させてあげて!! なんだか色々な感情がぐるぐるしました。
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