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あなたの色が見えなくなるまで~名家の令嬢は、その気持ちを恋とは認めてあげません~  作者: 黎明 あかり
ガーデンパーティー編

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第40話 姿なき令嬢

「いっそのこと、久世澪なんていなくなってしまえばいいと思いませんか?」


 真人は夢乃を見た。

 どう見ても冗談を言っているようには見えない。


「……どういう、意味だ」


 声が低くなる。

 いなくなっていいなんて思うわけがない。


「そのままの意味ですわ。四大名家の1つが無くなってしまえば、この上流階級の序列もなくなりますでしょう? そうすれば、わたくしも欲しいものをすべて手に入れられますの」


 会場の喧騒で夢乃の声は周りには聞こえていないのだろう。

 壁際にいる真人と夢乃を誰一人として、こっちを気にしている様子がない。


 夢乃の腕が、真人の首へと絡みついてくる。


「……離れろ」


 冷たい目で夢乃を見る。


「嫌ですわ」


 夢乃は笑うだけだ。


「真人さまは分かりますでしょう? 久世澪がどんなに特別なのか」


 夢乃の意図が全く分からない。

 真人に対して好意を持っていたと思っていたのに、今はその好意が微塵も感じられない。


「わたくしね、久世澪を手に入れられるかもしれないのならなんだっていたしますわ」


「……今、なんつった?」


「ステキなものを持っているのでしょう?」


 夢乃の顔が真人に近づき、首に腕を絡めてきた。


「声を上げてはいけませんわよ? この状況、わたくしが声を上げたら不利になるのはどちらかしら? それに久世澪が今どこにいるのかもご存じないのでしょう?」


 夢乃の吐息が耳に触れた。


「異能、持ちなのでしょう?」


 ガバっと夢乃を押し、体を離す。


「……どういうことだ?」


 背筋に冷たいものが走る。


 ——なぜ知っている?


「やっぱり、本当でしたのね」


 夢乃がクスッと可愛らしく笑った。

 カマをかけられたことに遅れて気づく。


「来栖さまがおっしゃった通りだわ、真人さまなら必ず反応されるって」


「なんで来栖が出てくるんだよ」


「来栖さまは仰っていましたわ。あの方は特別だって。」


 ただ美しく洗練された口元で笑うだけだった。


「……まさか」


 脳裏に澪が浮かぶ。

 来栖が澪を、異能を狙っているとしたら?

 夢乃を使って真人を澪から離し、その隙に……。


 嫌な汗が背中を伝う。来栖は異能を知っている。


 夢乃は、そのために俺を澪から引き離した。


 ——澪。


「ごきげんよう、真人さま」


 背中に夢乃の声がかけられた。

 もう真人を引き留める必要がなくなったのかもしれない。


 焦るな、考えろ。

 今は澪を探さなくてはならない。


 ボルドーのドレスが見当たらない。


 会場中を見渡しても、あの姿だけがない。


 どこにも見当たらない。


 夢乃の真意もわからなければ、来栖のこともわからない。


 わからないことだらけがまた焦りへと繋がっていく。


 人の間を抜け、会場内を探すも澪の姿がない。

 似ているボルドーの服を見て足を止めるも、人違いだ。


 ――来栖だ。


 会場内の喧騒の中、来栖を見つけた。


 横に澪はいない。


 誰かと談笑しているなんて関係ない。

 真人は一気に距離を詰め胸ぐらを掴んだ。


「アイツはどこだ……」


「何のことでしょう?」


 胸ぐらをつかまれている状況でも笑みを絶やさず来栖は答える。

 談笑していた相手がびっくりして悲鳴を上げているが関係ない。


「テメェ、ふざけんな……」


 来栖の目が細くなる。


「あぁ……、久世様のことですか?……朝倉さま、余計なことまで話してしまいましたか。」


 胸ぐらを掴んでいる真人の手を静かに押し返してきた。


「うちの智秋がお話したいと言うので、間に入っただけですよ」


「どこだ?」


「さぁ? ……VIPルームでは? 護衛さんの方がよくご存知でしょう」


 不敵な笑み、とでもいうような笑みを見せる来栖に怒りがこみ上げてくる。


「テメェ……」


「いいんですか? 早く探さなくて。智秋は久世様のことたいそうお気に入りのようですけど」


 クソッ……話にならねぇ!


「久世のとこの護衛、こっちこい」


 来栖に喧嘩をふっかけたことで会場が一時騒然となっていたのだろう。

 主催の鳳条家長男、蓮が真人の肩を叩いた。


「みなさん、お気になさらず。ご歓談を楽しんでください」


 にこやかに蓮は会場内に声をかけ、真人を会場の外にロビーへと連れ出した。


「何してるんだ、久世家に恥をかかせる気か」


「VIPルームってどこだよ!」


「何の話だ?」


 蓮が怪訝な顔をする。


「アイツがいねぇ」


「久世が? 誰かと商談してんだろう」


 いつものことだと軽く受け流される。


「そうじゃねぇ……」


 ただどう言えばいいのかがわからない。

 異能のことを話すわけにもいかないのは確かだ。


 蓮がため息1つ残し、立ち上がった。


「ついて来い、こっちだ」



 ◇



 蓮に連れられて、会場横のVIPルームへ足を運んだ。


 VIPルームは全部で5部屋あった。


 そのうち3部屋はすでに埋まっており、澪の姿は3部屋の中にはいないようだった。


 4部屋目を確認しようと蓮が開ける。


「なんだ、これは……」


 ドアを開けた蓮の手が止まった。


「どうした?」


「見ろ、荒らされている」


 真人も4部屋目をのぞき込んだ


 応接用の椅子が一脚だけ倒れ、ローテーブルは位置が大きくずれている。


 床にはコーヒーカップが一つ、コーヒーが白い絨毯へ染みを広げていた。


 テーブルの上の菓子皿は床へ落ち、数枚の焼き菓子が転がっている。


 絨毯の上にキラリと光るものが見えた。


 蓮が中に入り、手に取った。


 ダイヤモンドとアメシストのネックレス。


「……ッ」


 澪のだ。

 この部屋に澪がいた。

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