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あなたの色が見えなくなるまで~名家の令嬢は、その気持ちを恋とは認めてあげません~  作者: 黎明 あかり
ガーデンパーティー編

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第39話 夢の言葉

 不思議と会場を歩く澪に話しかけてくる人がいなかった。

 それほど、足早に何かを考え込んでいる表情で壁際へと向かっていく。


 真人は颯爽と人を縫うように歩く澪に後れを取らないようについて行った。


 人の少ない壁際で澪は顎に手を添え、会場内を鋭く見渡していた。


 やっとのことで追いついた真人は、澪の横に壁にもたれて立った。

 何となく、邪魔をしてはいけないような気がする。


 チラリと横目で澪を見るとまだ考えこんでいるようだ。


「なあ……」


「真人さん、綾瀬さまがどこにいらっしゃるかわかる?」


「あ? 綾瀬?」


 言われるがままキョロキョロと会場内を見渡す。


「いや、見当たらねえ……」


 そう……と澪はつぶやくとまた考え込む。


「さっきの何を言われたんだよ、雪代から」


「……真人さんは気にしなくていいわ」


 それがまた、突き放すような棘を感じた。


「これは久世の背負う問題だから」


 久世家だから。

 護衛になって何度か聞いた言葉。


 澪は真人を見ることなく、ただ会場を見渡す。

 ほんの数時間前まで隣で笑っていたのに、急に手の届かないところへ行ってしまった感覚に陥る。


 ——私なら頼りますのに。


 頭の片隅で、夢乃の言葉が反芻された。

 頼ってもらえないほど未熟なのだと突きつけられた気がする。


 視線をさまよわせると、夢乃が誰かと楽しそうに談笑しているのが目に入った。

 相手は、綾瀬と共に久世家を訪れた来栖アキラだった。


「……アイツならいる、来栖って野郎」


「え?」


 澪の視線も真人の視線の先を捉えたようだ。


「あの女と話している」


「行くわよ」


「は? おい!」


 澪を止めるよりも先に歩き出してしまった澪。


 勝手すぎるだろうがよ! と内心毒づきながら追いかけていく。

 エスコートなんてもうさせてもらえていない。


 澪の後を追いかけるだけで精一杯だった。



 ◇



 夢乃と来栖の方へ近づいて行けば先に来栖が気づき、声をかけてきた。


「これは久世様」


 夢乃も来栖につられるようにこっちを見てきた。


「まぁ! 真人さま!」


 夢乃の視線が真人をとらえた瞬間、真人は抱きつかれる衝撃がくる。


「お、おい……」


 思わず、たじろいで澪の視線を確認してしまったが、杞憂だった。

 澪はこっちを見ることなく、来栖に微笑みかけている。


「離れろって……」


「あら何故ですの? 真人さまからいらしてくださったのがとっても嬉しいのに」


 真人の腕をつかむ夢乃の力が強くなる。


「また久世さまとご一緒だったのですか? でも久世さまは真人さまのことを見ていらっしゃらないのでしょう? そうですわ、わたくしとあちらで飲みませんこと?」


 クスリと笑う夢乃につられ、真人も澪へ視線を向けた。

 真人と夢乃とのやり取りなど耳に入っていないのか、澪の視線は来栖から一度も外れない。


「朝倉さん、護衛さんが困られていますよ」


 来栖が夢乃の視線に気づき、人当たりのいい笑みを見せる。


「真人さまはお優しいから大丈夫ですわ」


「お二人はずいぶんとご親密なのですね」


 会話に澪が入ってきた。

 澪の視線が夢乃と来栖を見ている。


「ええ。少しお話ししただけで、こんなにも気持ちが通じ合いましたの」


「俺とお前じゃねえ!」


 真人が身を捩って夢乃から腕を抜こうとしてもなかなか抜けない。

 この令嬢のどこにこんな力があるのかと疑いたくなるほどだ。


 来栖がフォローに入る。


「会社の方で朝倉様とやり取りがありまして。親密にさせていただいております」


「会社というと、来栖さまは綾瀬さまとご一緒のお仕事ではありませんでしたか?」


 真人が夢乃にまとわりつかれている間に、澪は来栖と会話を続けていた。


「離れろって!」


「いいじゃないですか。真人さま、こちらに行きましょう? まだお召し上がりになっていないお料理がたくさんありますわ」


 ぐいぐいと引っ張られ、夢乃と共に澪から少しずつ離れていく。

 気づけば、人ごみに巻き込まれてしまっていた。


「ふざけんなよ、いい加減にしろって……」


 次は力任せに夢乃の腕を振り払う。


「何故ですの……」


 夢乃が震える声で乾いた笑いを出した。


「また久世。皆さま、結局は久世だわ」


 真人は眉をひそめた。さっきまでの夢乃の雰囲気ががらりと変わる。


「どこへ行っても久世が出てきますわ。どなたとお話しても。最後は皆さま久世さまのお名前ばかり。素晴らしい、完璧、聡明、美しい……。もう聞き飽きましたわ」


 夢乃がにっこりと笑って、振り払われた腕をまた取ってきた。

 不気味なほど自然な動きで。


「こちらですわ、真人さま。周囲に気づかれてしまいますもの」


 不敵な笑みを浮かべ、真人を連れ歩く。


「何なのでしょうね、あの方は。笑えば皆さまが寄ってきて、黙れば褒めて、何もしなくても全部手に入る……羨ましい限りですわ。そして、真人さまもあの方の隣にいる。」


 品定めをするかのように夢乃が見上げてきた。


「真人さまも思いませんか? あの方さえいなければ、自由になれますのよ? それに、あの方は真人さまを見てなどいないじゃないですか。だって、さっきも来栖さまとお話しをしてましたし」


 うふふと笑う夢乃に背筋が凍る。


「何言ってんだよ……」


「来栖さまが教えてくださったのです。皆さま、口にはしないだけで、本当はそう思っているって。久世なんて上流階級の邪魔でしかありませんって」


 夢乃が足を止めて腕にさらにしがみついてきた。

 そして一言、真人にだけ聞こえる声で言う。


「いっそのこと、久世澪なんていなくなってしまえばいいと思いませんか?」


 会場のざわめきが、一瞬だけ耳から消えた。



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