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あなたの色が見えなくなるまで~名家の令嬢は、その気持ちを恋とは認めてあげません~  作者: 黎明 あかり
ガーデンパーティー編

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第37話 夜会開幕

 四大名家という名は、決して飾りではなかった。

 四家が姿を現した瞬間、夜会の空気が変わる。

 会場に静寂が落ち、無数の視線が一斉に集まった。


 羨望。

 憧れ。

 打算。

 品定め。

 欲望。

 野心。


 澪のように色の見えない真人ですら、その熱を肌で感じるほどだった。

 そして、かすかに聞こえる口元を押さえるほど小さな声の噂。


「気にしてはダメよ」


 真っすぐ前を見据える澪が小さく口を動かして真人にだけ聞こえるように言った。


「おう」


 返事をしたものの気にしないということは無理だ。


「あれが久世の娘か」

「なかなか上玉らしい」

「鳳条と並んでも見劣りしないわ」

「雅臣様のところのお嬢様でしょう」

「まだ婚約は……」


 あちこちから感じるのは、澪の背中をなぞるような男たちの視線。

 息子の隣へ立たせた未来を思い描く母親たち。

 久世家とパイプを作ろうと画策する当主たち。


 全ての視線を色として見ているだろう澪は涼しい顔で会場へと歩みを進める。


 壇上で主催である鳳条宗則が話し出せば幾分かその視線は落ち着いてきた。


「真人さん、熱い視線を受けているのね」


 壇上で宗則が話している時、澪が小さくささやいてきた。


「は?」


「あちらよ、朝倉様だったかしら」


 澪が小さなしぐさで指した方には真人を見つめる夢乃の姿があった。


「あいつか」


 視線を向ければ、思わず嫌なため息が出る。


「それだけではないわ、私のエスコートをしているからか多くのご令嬢が品定めしているみたいだわ」


 澪の言うとおりだった。

 さっきまでは澪に向けられた視線ばかりを警戒していたが、自分にも視線が向けられていることに今更ながら気づく。


 宗則によって乾杯の音頭がとられると、会場は一気に熱を帯び始める。

 思い思いに談笑が始まった。


 澪もまた見知らぬ相手にすぐに捕まっている。


「真人さま!先ほど、こちらを見ていただいていたようで!」


 キャンキャンとした声に天を仰ぎつつ、振り返れば夢乃がキラキラした目で真人を見上げていた。


「あ、あぁ……」


 日中はピンクのパステルカラーだったドレスが、夜会用のローズピンクのドレスに身を包めば年相応の大人びた雰囲気をまとっていた。


 とはいえ、揺れるスカートを見ると幼さも感じられるのは、完璧な澪を見ているからだろう。


「飲まれていますかぁ?」


 夢乃が可愛らしく、小首をかしげシャンパンを渡してくる。


「酒はちょっと……」


 一応、護衛でもあるため断れば残念そうに夢乃はシャンパンを下げた。

 そのあたりの常識はあるらしい。


「もし、よろしければあちらでお話しませんこと?」


 夢乃が真人の腕を取り、壁際の方へと誘ってくる。


「わたくし、真人さまとたーくさんお話したいんですの」


 真人の腕に絡められた夢乃は無邪気にも体を押し付けてくる。

 女性特有の柔らかさを感じつつ、その近さにたじろいでしまう。


「あら、朝倉さまお久しぶりですわ」


 助け舟とはまさにこのこと。たじろいでいた真人の横から澪の声がした。


「久世さま、お久しぶりですわ」


「朝倉さまもお元気そうで何よりですわ」


 澪がいつもの完璧な微笑を見せる。


「お昼の時と雰囲気を変えてこられましたのね」


 夢乃の視線が深紅のドレスへと向く。


「ありがとうございます。この夜会のために仕立てていただきましたの。朝倉さまも可愛らしくいらっしゃいますわ」


「久世様にそう言っていただけて光栄ですわ」


 さっきまでは真人に明るい笑顔を見せていたにもかかわらず、ぎこちなく答える夢乃に違和感を覚える。


 対して澪はぎこちなさに気づいているのかいないのか反応することなく微笑を絶やしていなかった。


「真人さまとお話しておりましたの。少しお借りしても?」


「そうでしたか。もちろんですわ」


 一瞬虚を突かれたような顔をした澪だったが、あっさりと真人を手放してくる。


「は? いや、俺は……」


「まぁ! さすが久世さまだわ! 参りましょう、真人さま!」


 ぴょんぴょん跳ねそうな勢いの夢乃に真人は引っ張られる。


「ただ、真人さんは私の護衛でもありますので、離れすぎないようお願いしますわ」


「もちろんですわ、こちらですわよ真人さま!!」


 まさか澪がOKを出すと思っていなかった真人は言葉を出せず、夢乃に引っ張られていく。

 すでに澪はこっちを見ていなかった、他の来賓につかまり話を始めている。


「このくらいなら文句言われませんわね!」


 夢乃が足を止めたのは数メートル程度離れたところ。確かに澪の姿は確認できる。


「真人さまは大変ですこと。全部久世さまの許可がないと動けないなんて」


 まるで同情するかのように夢乃が言った。


「私なら、真人さまが楽しめるように自由にしてあげますのに」


 大きなお世話だ。そんなこと、真人は求めてなどいない。


「そうですわ!わたくし真人さまに色々とお聞きしたいことがありましたの!!」


 ぐいっと身を乗り出してくる夢乃の腕は相変わらず真人を逃がさないようにするためか、真人の腕に絡みついていた。


「真人さまのお好きな女性のタイプはどのような方ですの? 可愛らしい方だと、わたくしも可能性がございますわね! それとも、久世さまのような凛々しい女性かしら? でも、一緒にいると疲れそうですわよね。だって、常に完璧ですもの」


 うーんと唸りながら可愛らしく口を尖らせる夢乃に苛立ちが募ってくる。

 気にしていないのか、真人の表情に気づいていないのか、夢乃はさらに言葉を続ける。


「世の中の男性は何故、久世さまをあんなにも評価をするのか不思議ですわ。来栖さまも久世さまのお話を何度もされていましたし。隙のない女性ってとっつきにくくないのかしら? それともその隙のなさがいいのかしら?」


 夢乃の話は止まることを知らない。

 真人からすると、自分の主人をよく言われていないことぐらいはわかる。


「でも、真人さま?」


 名前を呼ばれると、くるんと上目遣いをしてきた夢乃と目が合う。


「わたくしならもっと真人さまを頼るわ。だって、久世さまは何でも一人でなさってしまうでしょう? あんなに何でも一人で完璧にされたら、一緒にいるのにお辛いと思うわ。真人さまにわたくしならたくさん甘えますもの! だってこんなにも頼りになる方だから」


 こいつも表面しか見てねえ。

 アイツはそんなんじゃない。


 だから、完璧でいなくてはいけないと考えてしまう。


 澪の世界の一端を真人は見た気がした。


「だからわたくしの方が……」


「うるせぇ、言いたいのはそれだけか?」


「……っ」と夢乃が息を詰まらせた。

 それほど怖い顔をしていたのだろう、夢乃の緩んだ手を振りほどいて真人は背を向けた。


 また、完璧を装っているであろう澪のところへ戻るために。



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夢乃ちゃんきたーーーーーーー!!! 真人さん反撃か?
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