第24話 信頼の証
一通りドレスとジュエリーを選び終え、リチャードは次の仕事があると先にブティックを後にした。
「白石さん、今いいかしら?」
一段落ついた澪は請求書などを用意している白石へ声をかける。
「はい、何かございますか?」
「私がブティックを経営するとなったら、そこの専属にならない?」
「え?」
急な申し出に聞き返してくる白石の目から動揺が隠しきれていない。
「あなた、ここにいたら埋もれるだけな気がするわ。せっかくの知識、技術、センスがもったいないと思うの」
思い当たる節があるのだろう、白石は目を伏せる。
「お返事はドレスをお屋敷に持ってきてくれた時でいいわ。私はあなたが作ったドレスが着たいの」
澪はにっこりと笑う。
白石から黄色い喜びがあふれてきた。
実力を認められることは何物にも代えがたいものがあるのはわかる。
このブティックではきっと認められることはなかったはずだ。
――追憶さえ最後までできていれば見えたのに。
チラリと不満げに真人を見る。
気づいているのかいないのかもわからないが、真人は表情を変えることはなかった。
きっと、この文句を言っても真人には響かないだろう。
「白石さん、このブティックでよく頑張っているのだと思うわ。でも、あなたはもっと大きくなれると思うの。そのお手伝いをさせてくださらない?」
「……っ、はい」
スカウト完了ね。
澪は満足げに頬を緩めた。
◇
帰る直前に、澪は店長へと苦言を呈し二度とここには来ないことまでも伝える。
「く、久世様っ!」
「……質の低い接客しかできない店に、久世が出入りしていると噂になるのはよくないのです。
では、ごきげんよう」
蒼白になり、その場に崩れ落ちそうになる店長の横を、澪は洗練された足取りで颯爽と通り過ぎる。
そして、ドアの手前でくるりと優雅に振り返った。
「そうですわ……。
白石さんをこれ以上、いじめの対象とするのなら、このお店がつぶれるものと思っていてください」
にっこりと、美しい天使のような微笑みを残し、凍りつく店内の店員たちを置き去りにし、澪は軽やかに店を出た。
車に乗り込み、発車する。
「いじめ?」
真人が聞いてきた。
「そうよ、真人さんが邪魔をした追憶で見たの」
皮肉めいたように言う。
「……んだよ、あの女を助けるためか」
「白石さん、よ。これから私の専属になってもらうからちゃんと名前を覚えて」
「引き抜きじゃねぇか」
「いいじゃない、お店を持たせたいのだもの」
最高のセンスには最高の場を用意したい。
そうすれば、人は輝いていく。
白石さんが自由になったらどんな服を作るのだろう。
そんな未来を想像するだけで胸が躍った。
「……俺の時も即決なのか?」
「私、人を見る目は確かなの」
にっこりと笑う。
真人の欲しい回答ではないだろうが、この言葉以外しっくり来なかった。
◇
屋敷に戻れば、また澪には慌ただしい日々が待っていた。
ブティックを訪れてから3週間後にはジュエリーが届いた。
書斎に榊がジュエリーの重厚な箱を持ってくる。
「お嬢様、リチャードから届きました」
「ありがとう。榊さん」
書類を避けて箱を開ければ、タイピンとカフスにダイヤモンドがあしらわれている。
その横にはダイヤモンドとアメシストのネックレスとイヤリングも。
「さすがリチャードさんだわ」
「リチャードからお話もお聞きしました、粋なことをなさったようで」
「真人さんのタイピンのこと?」
タイピンを手に取り、小さなダイヤモンドを見る。
「はい、よほど真人さんのことを気に入られているようで安心いたしました」
「そうね、彼がいると楽しいわ。今までの人とはまた違うでしょう?」
過去の護衛たちを思い出しても真人は別格だった。
ズケズケと物を言うし、書斎のソファーで居眠りもする。
何より、異能を怖がらないことが一番だ。
「いなくなってほしくないもの」
だから、プレゼントをする。
最高の職場と思ってもらわなくては人は離れてしまう。
「真人さんはきっと離れませんよ」
「だといいわね……」
そんな保証はどこにもない。
久世という大きな家だ、嫌な思いをすることもあるのは明確。
真人も今は雇用条件が揃っているからいてくれるのだ。
「そうだわ、榊さんにもタイピンをプレゼントしようと思ってたの。いつもありがとう」
話を変えるかのように、リチャードから届いているもう一つの箱を渡す。
開ければ、ゴールドの彫金でダイヤモンドが一粒あしらわれたタイピンがあった。
「私にも、御心遣いありがとうございます」
「真人さんが言うには、私はダイヤモンドのイメージなんですって。
だから、私の執事は榊さんって意味も込めてダイヤモンドを入れてもらったの」
ダイヤモンドが特別な意味を持つことが何より嬉しい。
「真人さんはシルバーが似合うけど、榊さんはゴールドよね」
シルバーのタイピンを見つめてつぶやく。
大事な人が増えていく、そんな気がするのも悪くはない。
「……榊さんは、ずっといてくれるでしょう?」
「もちろんでございます、お嬢様」
ガーデンパーティーまで、あと3週間。
着々と準備が整えられ始めた。




