表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの色が見えなくなるまで〜名家を統べるご令嬢は、過保護な専属護衛に手を焼かれる〜  作者: 黎明 あかり
ガーデンパーティー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/31

第21話 踏込んだ一歩

招待状を受け取って1週間が経った。


真人の目の前には困惑している澪がいる。


澪が座ることもなく、囲うように店員たちが押し寄せてくる。


店員それぞれがおすすめのドレスを手に澪へ取り入ろうと、あの手この手を使って割り込んでくるのは収拾がついていない。


「みなさん……少し落ち着いてください」


困惑する澪など気にすることなく、意見を押し付けてくる店員たち。


それを止めようともしない店長はこの店の品格すらも疑ってしまう。


本当にこのブティックがいつも屋敷に来ているのだろうか、と真人ですら疑いの目で見てしまう。


本来なら、屋敷でドレスの採寸を行うのが多い。


澪の異能を考えてもこれだけの人数がいるようなところに行きたがるはずもない。


VIPルームのドアの横に控えている真人はその様子を見ながら、2日前の会話を真人は軽く思い出していた。





「真人さん、明後日にブティックへお出かけするわ」


「ブティ……?なんだって?」


「ブティック。ガーデンパーティのドレスを新調するためよ」


「あぁ。服か」


普段聞き慣れない言葉は護衛として2ヶ月ほど経った今でも慣れない。


「了解。来てもらわないのか?」


「急なことだから、いつものデザイナーさんと時間が合わなかったの」


ガーデンパーティへの参加が決まってから澪はずっと忙しそうに動いている。


通常業務に加え、パーティの準備と慌ただしい。

さらにパーティに招待されている側にも関わらず、参加者の名簿まで頭に入れていたのも真人は見ていた。





真人は意識を再び目の前のVIPルーム内に向けた。


いつものデザイナーの代わりに我こそはと澪に押し寄せている。

久世家の、澪のドレスを選んだとなれば、キャリアに繋がるのだろうか。


澪のことを考えず、ただ己の事ばかりを考える店員たちに嫌気がさしてくる。


部屋に入ったときに用意されていたコーヒーすら冷めている。


——鬱陶しい。


ガンッ


思わず真人は、近くにあった椅子を蹴り飛ばす。


いつもなら仕事と割り切って黙っているが、今日は店員たちの澪への対応が気に入らない。


「うるせぇよ、困ってんだろうがよ」


部屋へ沈黙が流れる。

VIPルームに一瞬で静寂が落とされた。


店員たちも普段聞き慣れない男のドスの利いた声に体を強張らせる。


しまった、やってしまった。


誰一人澪のことを考えない接客に苛ついていたのもあるが、ここまでするつもりはなかった。


「…わり」


視線をそらしてしまう。


「店長、いつからこんなにも質が落ちたのかしら?」


澪は静寂を割くように鋭い声を店長へと向けた。


「皆、久世様のドレスを選んで差し上げたいと意気込んでおります」


店長は悪びれる様子もなく、頭を下げる。


澪が部屋にいる10人程度の店員へと視線を巡らせると、最後に真人と視線が交わる。


よくやったわ、とでもいう澪の顔に苛立ちが少しだけ落ち着いた。


澪が何かを見つけたのだろう。


真人は澪の強気の視線に胸が少し高鳴る、澪のターンが来た。


「あなた以外、出ていってください」


澪が指さしたのは一番後ろに控えている店員だった。


「しかし、久世様……、彼女はまだ新人でして」


「構わないわ」


澪はにっこりと笑い、ようやくソファーに腰を落ち着けた。


真人は何も言わず、控えている横のドアを開ける。


「しかし……」


なかなか動こうとしない店長と店員たち。


「私、大人数って嫌いなの。お下がりください」


有無言わせない澪の言葉に一人、また一人と足が下がっていく。


「ほら、出ろ」


真人の圧に押されたのか店長も渋々一礼して部屋を出た。


VIPルームに再び静寂が落ちる。


真人は残された店員を見た。

手元にはメモ帳とノートがあり、新人で勉強中ということが伺える。


そして、小さく震える手。


久世という大口顧客を前に緊張はあるのだろう。


澪は何でこんな奴を残したんだ?と視線を澪に向ける。


——紅い瞳。


「……チッ」


今は仕事じゃねえだろうがよ。


澪に聞きそびれてはいるが、真人の中では結論は出ている。


あれは前にぶっ倒れたときに使っていた“追憶”の異能。


なんですぐ使おうとする?

なんですぐ無茶をする?


――だから、放っておけない。


真人はドアから離れ、澪のそばに寄る。


横に来ても気づかないものなのか、と追憶の無防備さも知ってしまう。


右後ろに立ち、腰を曲げた。

スッと右手をのばし、澪の眼を覆う。


小顔だとは思っていたが、自分の片手でもしっかりと収まってしまう。


「何してんだよ」


澪にだけ聞こえる声で後ろから声をかける。


その華奢な身体が小さく跳ねた。


「ちょ……」


「うるせえ」


澪には何も言わせないかのように言葉を遮る。


「なあ、俺もコーヒー」


真人は澪の眼を覆ったまま、緊張で棒立ちになっている新人の店員に声をかけた。


「……あ、は、はいっ」


店員は慌ててメモをポケットにしまうと慌ただしく部屋を出た。


パタンとドアが閉まると、真人の手がゆっくりと澪の眼から離れる。


「真人さん、何を……」


「うるせえ。追憶、使っただろ」


真人は、睨みつけてくる澪の瞳をみた。

焦げ茶色のいつもの瞳を確認する。


「戻ったな」


ニヤッと笑ってしまうほど安心があった。


「何が?」


「目、紅くなんだよ」


「気づいていたの?」


「……たまたまな」


言うつもりはなかったのに、つい言ってしまった。

澪が言ってくれるまで待とうと決めていたのに、とバツの悪くなり視線をずらす。


「だからってなんで邪魔するの?」


ムッとした澪の声に、思わず真人も苛立ちを覚え視線を戻す。


「馬鹿か?それを使えばぶっ倒れるだろ」


「一度くらいなんともないわ」


「ダメだ」


思わず、強い言葉を使ってしまう。


「相手は店員だ、何を見る必要がある?」


久世家としての仕事中ではない、相手はたかが新人の店員だ。


「アンタ、自分を大事にしろよ。倒れて困るのはこっちだ」


自分の言葉がストレートすぎた。

こんなに言うつもりはなかったんだけどな、と恥ずかしさからまた目をそらした。


どうも今日は考えるよりも先に言葉が出てしまう。





ドアの向こうから物音がして店員が戻ってきた。


真人は2歩ほど下がり、護衛としての立ち位置に戻る。


「お待たせしました……」


消え入りそうな声で店員は澪のコーヒーの横に真人のコーヒーを置いた。


「ねえ、あなたお名前は?」


澪が店員を見た。


「白石と申します」


「白石さんね、じゃあドレスを選んでいただけるかしら?」


「本当に、私でいいんですか?」


「もちろんよ、あなたがいいわ」


澪にそう言われたら断れないだろう。

白石と名乗った店員は、かしこまりました、と小さく答えた。


澪と白石が話している間、真人は右手を見た。


澪の華奢な背中をいつも見ていても、あれほどまで距離を詰めたのは初めてかもしれない。


まして、目を隠すとはいえ肌に触れたことすらも。


カァッ……っと、耳が赤くなるのを感じた。


普段しないことをしたから意識してしまっただけだ。


そうだ、この前は頭に手を置いたじゃないか。

そう言い聞かせて、真人はまた澪を見た。


白石は澪と一通りの打ち合わせを終えると、ドレスを選びにクロークへ入っていった。


それを見送った後、真人は澪からの視線を感じる。


「んだよ、謝んねぇぞ」


「真人さんが邪魔さえしなければ、白石さんのことをもう少し知れたのよ」


ムッとしている澪の顔は文句を言いたげだ。


「目なんてホイホイ使うもんじゃねえ」


たかが店員、そんなヤツのために目を使う必要はない。

澪の真意は定かではなくとも、真人の考えは変わることはなかった。


白石が数着のドレスをもって戻ってきたのはそのあとすぐだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ