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あなたの色が見えなくなるまで〜名家を統べるご令嬢は、過保護な専属護衛に手を焼かれる〜  作者: 黎明 あかり
日常編

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第18話 赤橙の支配

桐谷夫妻と約束をしている日が近づいてきた。


澪のデスク上には報告書がまとまり始めている。


「明後日だろ?あの夫婦が来るの」


ソファーでスマホを触りながら真人は澪に聞いてきた。

この2週間、桐谷夫妻以外の仕事もあったようで久世の持っている会社へ出向いたり、休む間もなく動き続けている澪。


「そうね…、だけどおかしいのよね」


ペンを走らせるも途中で止まってしまう。

真人がスマホをテーブルに置いて、澪のデスクへと近づいてきた。


「窪津のヤツいいヤツだったじゃねえか」


「そっちじゃないの、桐谷夫妻のほう。……大金が半年に1回振り込まれているのよ」


「ふーん、経営者ならそういうのもあるんじゃねぇの?」


「……普通なら誰からなのかは調べたらすぐに分かるのだけど、出てこないのよね。それに羽振りの良さも気になるわ」


「そんなに豪勢な暮らしでもしてんのか?」


「夫人のつけられていたアクセサリーも、ご主人の腕時計も半端な金額ではないものだったわ。

経営難ならそんな華美なものをつけるとも思えないもの」


桐谷家の経済状況を加味しても、アクセサリーを身に着けてアピールするポイントがわからない。


久世の情報部からも大した情報が上がってこないのは巧妙に隠されているからだろう。


「この婚約、裏がありそうなのよね……」


その裏がわからない。

大事な何かを見落としている気がしてならない。


「眉間」


ふと真人から声をかけられた。

顔を上げると、澪の顔の上中央、眉間を指さしている。


黄色と黄緑の思いやりの気持ちが澪に向けられた。


「なんか食うか?」


澪はコクリとうなずく。

よく見ている。

出会ったときから思っていたが、真人は本当に人を良く見ている。


書斎の棚に置かれている飴を取りに行く真人の背中を見てふと思う。


「……結婚相手ってどうやって決めるの?」


「ぶっっ」


真人から思いもよらない声が漏れた。


「恋愛結婚となると当人が決めるのよね?何が決め手になるの?」


「んなもん、性格とかじゃねえの?俺だって結婚なんてしてねえし分からん」


「性格……。つまり、義郎さんとご息女は相性が良かったのよね?義郎さんも幸せを感じるぐらいなのだから。なのに、親が不信感を持つってことは……、お家同士で過去にないかあったとしか思えないわね」


澪は思考を巡らせ始める。

真人が横に飴玉を置けば、口に含みまた考える。


そして数分後にはスマホを取り、情報部へ連絡を取る。


「ご息女、桐谷亜美さんを少し調べてくれる?」





桐谷夫妻が来たのは、昼過ぎ。


気になる情報自体は調べられたが、やはり少しだけ証拠が薄い。

追憶も必要になるかもしれない……。


そんなことを気にしつつ、真人を連れて応接室へと向かった。


「桐谷さま、お待たせいたしましたわ」


応接室には期待のオレンジ色がちりばめられている。

桐谷夫妻も立ち上がり、簡単にあいさつを交わした。


ソファーに座り、澪は調査結果を伝え始めた。


「まず、お相手の方の窪津義郎さまに関しては特に懸念すべき点もありませんでしたわ。

ご婚約者であるご息女のことを大変大切にされているようでした」


オレンジに交じり黄色の安堵も見え始める。


「それにお家としても結婚に関しては前向きな姿勢であるようですわ」


澪は一旦言葉を切る。

桐谷夫妻も安堵した様子で顔に笑顔が残る。


その感情の一部に現れる警戒の濃いオレンジ。

まただ。


……私に対して?


違う、澪に対してではない、久世家の情報網に対しての警戒。


「ただ、一つだけ懸念すべき点がございました」


声を落として伝えれば、夫妻からも緊張が伝わってくる。


「懸念すること、ですか?」


「ええ、窪津家から毎月大きなお金が流出していますの。金額はまちまちですが、1年でおよそ2000万円。

何に使われているのか、わからないお金でして。そのような、お家と関係を持つのは気になるところですわ」


澪は夫妻を見た。

安堵のオレンジと黄色に変化がない、知っている可能性が出てきた。


「その金額で、窪津家は火の車になっているのでしょうか。娘が嫁いで苦しい思いをしたりするなどは……」


夫人の目が澪を見る、まるで次の言葉を待ち構えるように。


「ご実家からの太い支援があればそうはならないでしょう」


「我々も今厳しい状況でして」


当主は歯切れ悪く答える。

感情が動かない、まだ揺さぶりが足らない。


「さようですの?桐谷さまの経営が厳しいことは存じておりますが、お家の家計はかなり潤っていると把握しております」


ピタリと空気が一瞬で張り詰めた。


夫妻からのオレンジの警戒がより強くなる。

そしてその中に埋もれている黄色と紫の混じった支配欲。


当主を見る。

オレンジ色の警戒が揺れる。

その奥。


紫。

濁った黄色。


————感情、見つけた。


澪はゆっくり目を閉じた。

感情へ意識を沈める。


澪は静かに支配の感情へ意識を重ねる。

走馬灯のように支配の感情と過去がリンクし始める。


『窪津さま、謝礼がこれで終わると思っていませんよ』

『支援したのは我々、桐谷ですからな』

『結婚を機に謝礼をやめると?バカなことをそれなら結婚は白紙だ』

『それに大事な娘が嫁ぐのだ、色を付けてもらいたいぐらいですな』

『支援金の利息がまだ残っておりますが?』

『あと5年はお支払いいただかなくては』


相手への支配欲。

お金で相手をゆする桐谷。

潤う桐谷家。

経営がうまくいかなくても大丈夫という安心感。


『バレないかしら?相手は久世よ?』

『心配ない、金を受け取るために仲介を増やしているんだ』

『なんであの子はよりにもよって窪津を選んだのかしら』

『見る目がないわ』


不安げな夫人と自信のある当主のやり取り、そして娘すら下に見ている言葉の数々。


ゆっくりと澪の意識が感情から離れていく。

時間にして10数秒。


視えた。


窪津への恩に付け込んで強請る桐谷夫妻。

親同士のやり取りに巻き込まれる婚約した子供。

そして、久世家を騙そうとしたこと。


夫妻の不安げな表情。


「教えていただけますか?窪津家からいくら儲けたのか、を」


澪はにっこりと笑った。

否、目だけは笑っていない。


その言葉から桐谷夫妻の余裕は消え、オレンジの安堵の感情もすべて消え去った。


「なぜ、そんなことを……、おっしゃられるのか、わかりませんな」


平静を保とうと桐谷当主は一口、コーヒーカップに口をつける。


「年に2000万円弱ほど2回に分けて桐谷さまのお口座にお金が振り込まれているのはこちらも全て把握しておりますわ。そのお金の出所を突き止めたところ、窪津家からでしたの」


夫人が息をのむ。


「おそらくこの6年程度と言ったところでしょうか。6年前に窪津の経営難に付け込んで、支援金を渡した……。

その見返りとして謝礼を受け取っている、と言ったところでしょう」


「え、えぇそうです!あれは謝礼ですわ!!」


夫人が慌てて頷く。

肯定したら終わりだ、当主は夫人へと制止をするもすでに遅い。

当主の制止を見ることなく澪は畳み掛ける。


「謝礼にしては、長くかかるものですわね。それに利息としてもかなりの額になっているようで」


「相手方がゆっくり返済したいと申されまして」


当主は引きつった笑みを見せる。


「1億以上も支援したようには見えませんが。それにすでに支払い終わっているのではないでしょうか?」


澪は横に置いていたファイルから1枚の紙を出す。

そこに書かれているのは【支援金4000万円也】


「どこで、これを……」


「久世家の情報網を甘く見ないでいただきたいですわ。隠された情報を探し出す力は持っていますの」


澪はにっこりと笑った。


「詐欺まがいの謝礼の受け取りによる婚約の破綻がこの先起こり得ますのでご家族でよくお話合いください。今回の費用に関しましては後日、封書で請求させていただきますわ」


澪は立ち上がり、応接室を出る。

ドアを閉めれば、応接室から夫妻の言い争う声が聞こえてきた。


使用人に「お引き取り頂くように」とだけ伝え、澪は書斎へと戻る。


書斎へと戻れば、普段真人が座るソファーへ澪が体を預けた。


「お疲れ」


真人が冷たい水をコップに入れて渡してくれる。


「相変わらず、怖いな久世家は。よく見つけたな」


「“追憶”を使うことになったけど、何とか『くほつ』とご息女は守れたと思うわ」


コップを傾けて、のどを潤す。

今回のお金の流れを告発してくれたのは桐谷のご息女、亜美さんだった。


愛する人の家を強請るような家とは縁を切る覚悟だとも言っていた。

亜美はすでに知っていたのだろう、両親が窪津家を強請っていたことも自分の婚約を利用しようと考えていたことも。


亜美さんの名前を出してしまえば、ご両親の憤慨は亜美さんに向いてしまうだろう。


亜美さんを守るためにも別の証拠も必要だった。


「“追憶”使ってもなんともないのか?」


「一度だから大丈夫」


澪はにっこりと笑って見せる。

前回は坂井と藤堂と2人を見ていた。


今回は桐谷の当主だけ。

この程度なら問題ない、立ち上がりデスクから請求書を出す。


「真人さん、これを桐谷家に送る様に伝えておいて」


請求書には【1億5000万円】の文字。


「容赦ねえな」


「それと、こっちは匿名で送って頂戴」


小切手には【1億円】の文字。

送り先には『くほつ』と書いておいた。


「こっちにも送るのか?」


「お金はあるべきところに置かれるべきよ。それに窪津家が本来持っておくべきだった金額だわ。

『くほつ』は大きくなるわ、もっとね」


あのお菓子もおいしかったわ、と澪はにっこりと笑う。


今回、『くほつ』へ寄付しても澪の手元には6000万円が残った。


数日後、とある名家からレセプションの招待状が澪のデスクの上に置かれていた。




ここまで第一章をお読みいただき、

本当にありがとうございました!


澪と真人の2人の関係が、

ここからさらに変化していきます。


次回からは新しい章へと移っていきます。


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