表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの色が見えなくなるまで〜名家を統べるご令嬢は、過保護な専属護衛に手を焼かれる〜  作者: 黎明 あかり
日常編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/32

第17話 外出と黄色

自室に戻ると澪はすぐさまペンを走らせた。


・窪津家の資産状況

・銀行との取引

・取引先の変遷

・義郎の交友関係


つらつらと気になることを書き記していく。

その途中、視線を上げることなく真人へ声をかけた。


「真人さん、榊さんを呼んできて」


わかったと、真人が部屋を出ていく。

澪はその間、桐谷夫妻のことを思い出す。


夫妻から見えた色は黄色と緑の混ざった愛情。


それと時折見せるダークオレンジの警戒の色。


「警戒……、私に対してなぜ警戒を見せるのかしら?」


手元の紙に『警戒』と書き、トンとペンで指す。


一筋縄ではいかないのかもしれないわ。


さらに久世の情報部に調べてもらう内容を書き出していく。


桐谷家のことも追加して。


そうしているうちに真人が榊を連れて来た。


「榊さん、こちらを調べておいてください。期限は1週間ぐらいでどうかしら?」


榊は澪の走り書きのメモを受け取り内容を見る。


「かしこまりました、情報部ならこの量でも問題ないでしょう」


榊はメモを懐に仕舞う。


「お嬢様、『くほつ』へお出かけもなさいますか?」


調査対象の老舗和菓子店。


澪は視線をそらす。

正直、外出は好きではない。


「……考えておくわ」


見に行くべきなのはわかっているのだが、昔から外に出るとなると二の足を踏んでしまう。


「かしこまりました、お早めにお願いします」


榊にも予定を組み直す必要があるのだろう、早く決断をしなければ。


わかったわと言えば、榊は情報部へメモを持っていくために澪の書斎をあとにした。


残された真人から何か言いたげな視線を感じる。


「和菓子買いに行かねぇの?」


ほら、来た。


「……外に行きたくないの」


私はいつからこんなにも真人に本音をいうようになったのだろう。


まだ護衛として1ヶ月程度なのに。


「……不健康」


「違うわよっ!」


思わず食ってかかれば、プハッと真人が笑う。

心地良い。


「わりぃ、んで?なんで外が嫌なんだよ?会食で外に出てるじゃねぇか」


笑いが収まらないなか、ドカッとソファーに座りながら遠慮もなく聞いてくる。


「感情が多いから。お店は色んな人がいるから」


あぁー、と真人は納得している。

きっと言われるまで真人は異能のことを忘れていたに違いない。


「和菓子店ならそんなに人いないだろ」


澪はスマホで『くほつ』を調べて見せる。

店の外にまで並ぶ長蛇の列の写真が出てくる。


「和菓子ってそんなに人気なのか……?」


まさに絶句という言葉が合う真人。


「行ったほうが視えるものも視えるものがあるのはわかってるわ……」


だから悩む。

行きたくない、でも行かなきゃ視えないものもある。


「じゃあ人が少ない時間に行けばいい」


行く前提で真人からの提案。


「俺もついて行くし、辛くなったら言えるだろ」


真人の言葉に不思議と大丈夫かもしれないという気持ちが出てくる。


辛くなったら言えばいい。


……言えるかしら?

この人になら言えるかもしれない。


そんなわずかな期待も小さく芽生える。


「……じゃあ、行ってみようかしら」


「決まりだな」


真人が膝を叩いて立ち上がり、榊に行くことを伝えるために部屋の外へと出ていった。


乗せられた気がする。


真人の嬉しそうな感情の残滓をみて少しだけ笑みがこぼれる。


真人が戻ってくると、『くほつ』へ向かうのは3日後だと決まっていた。





3日後の昼過ぎ。

あらかじめ榊が調べたのだろう、来店客が少ない時間帯に向かえば、店の前には数人が並んでいるだけだった。


真人と共に列へと澪は並んだ。


「本当に人気なのね」


ちらりと並んでいる人をみれば、皆期待のライトオレンジの色が見える。


老夫婦は2人で何を買うかを話し、着物の女性は指折り数を数えている。


門構えも格式張っていなくて気楽に入れるお店になっているのも人気のひとつなのだろう。


「大丈夫か?」


澪はいつの間にか真人の真横にピタリとくっつき下を見ていた。

無意識だった。


「ホントに外に出ねぇんだな」


「……そうね、お祖母様がいた頃は制限をされていたし。外に出る必要もなかったもの」


「お祖母様、ね……」


真人はポツリとつぶやいた。

思い出しているのだろう、あの厳しい祖母のことを。


そうしているうちに列は進み、店内へと案内された。


店内に入れば、自ずと自分のするべきことがわかる。

窪津義郎、彼を視なくては。


店内は洗練されていて、和菓子屋というよりも洋菓子店に近い。


イートインスペースもあり、若者受けの良さそうなテイクアウトの商品も並べられていた。


店内に関して澪は大して興味を示さない。

それよりもレジで接客中の男へと視線を向けていた。


「あれか?」


「えぇ、窪津義郎さん。桐谷家のご息女の婚約者よ」


爽やかな風貌の男性だ。

紺の作務衣と前掛けがなければモデルともとれそうな容姿と体格をしている。


「かっこいいわね」


「は?」


思わずこぼれた澪の言葉に真人がすぐさま反応する。


「何かしら?」


「いや、アンタからかっこいいとか言葉が出てくるとは思わなかった」


「そう?真人さんもかっこいいと思っているわよ」


澪は真人を見た。

整った顔立ちと筋肉質でありながらスラッとした体つき。


あの窪津義郎が爽やかイケメンならば、真人はクールな部類に入るだろう。


客観的に分析する澪の横では、真人が予想外の褒め言葉に耳を赤らめている。


黄色と淡い青色が真人から見える。


喜びと驚き…そんなに驚くことかしら?

喜んだのならいいわ、とショーケースに目を向ける。


淡い色の練切が鮮やかに並んでいる。


真人も横に来て同じものを見る。


「きれいね……」


ポツリと言葉が漏れる澪。

私の見る感情もこのくらい綺麗なら良いのにとも思うが、人間はそうはいかない。


「お決まりですか?」


ショーケースの向こうから声がかかる。

義郎が来た。


澪と真人が顔を上げる。


「梅雨明けのお菓子をいただきたいの」


にっこりと微笑み、令嬢モードになる澪。


「梅雨明けならば、夏木立などいかがでしょうか?」


物腰柔らかくショーケースから一つ緑の鮮やかな練切を出す。


みずみずしい緑色の練切餡は、梅雨明けの木々の柔らかさと木漏れ日だ。


「素敵ですわ。……ではあとは撫子も」


愛らしく可憐な花の姿を、白あんをベースにした練切と美しい色合い。


2つがショーケースのうえに置かれる。


「数はいかがしましょう?」


「そうね、50ずつぐらい……」


「待て待て待て!!!」


横から真人が入ってくる。


「とりあえず、2つずつ!それでいい」


真人がかわりに注文をする。


「かしこまりました」


2人のやり取りを見ても動じず、2つずつショーケースの上に置く義郎。


(笑顔も自然、違和感ある感情もなさそう、桐谷夫妻が気にしてそうなことは特になさそうね)


お包みしますね、と奥へと入っていく。


「50ずつってなんだよ」


「お屋敷の皆に配るなら必要でしょう?」


「だからっていきなり準備できるわけねぇだろ」


理解できないという顔をする澪。


じっと真人からの視線を感じる澪。


「何かしら?その不信感は」


信頼の黄色に恐れの緑が混じっている真人の感情。


「……支払いとかしたことあるのか?」


支払い……。


「カードで払うことでしょう?」


そのくらいは知っている。

あとで引き落とされることだって知っている。


「……なら、大丈夫か」


そう言いつつも、真人からの緑の恐れが強くなる。

信じてないわね。むぅ、と頬が膨らんだところで奥から義郎が出てきた。


「お待たせしました」


「ありがとうございますわ」


澪が受け取るとくるりと向きを変え店を出ようとする。

やはり、外に出れば感情が多い。


「待て待て待て!!」


本日2度目の制止。


「支払い……、俺がしとくから、待ってろ」


支払いなんて、あとで請求書が届くものなのに。

律儀なのね。


真人が財布を出しレジへと向かう中、手持ち無沙汰になった澪は周囲へと目を走らせる。

従業員からも気になる感情は視えない。


真人がレジで支払い中、お店の電話がなった。


従業員が電話を取り、義郎へと耳打ちをすれば感情が動いた。


嬉しそうな愛の感情の黄色と緑の混じった色。


レジで支払いをしている真人の横に澪は並ぶ。


「お電話、よろしいのですか?」


「あ、お気になさらず。私用ですので」


「嬉しそうなお顔でしたので、お急ぎにならなくてはよろしいのかと」


お釣りを真人に渡しながら義郎は照れたように眉を下げる。


「お恥ずかしい、婚約者からでして」


「まあ、大切な方なのでしょう?よろしかったのですか?」


「えぇ、まぁ。お二人ほどお似合いとは言えませんが……」


義郎は照れを隠すかのように、澪と真人を交互に見た。

2人はきょとんと顔を見合わせる。


「俺たち?」


「恋人ではなかったのですか、失礼しました」


義郎が真人の反応から慌てたように頭を下げる。


「いえ、男女が一緒だとそう思いますわよね」


真人が素っ頓狂な声を上げる横で、澪はさらりと受け流す。


「また、参りますわ。真人さん、行きましょう」


「え、あ、あぁ」


澪は真人より先を歩き、店を出る。





義郎は問題なかった、婚約者への愛情も確認できた。

人柄としては問題なさそうだ。


「桐谷様が警戒する理由が見えないのよね……」


そう言いつつ、車に乗り込むと撫子の練切を開ける。


「きれいね、熟練の業だわ」


無作法とは知っていても、車のなかでつい口に運んでしまう。


「やっぱり、50個ずつ注文したらよかったわ」


そう思いながら。


その横で真人は練切を見て「ひとつ、1200円」とつぶやいていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
澪さんの手腕が素晴らしいですっ!
きゃー!面白い!一気読みしちゃいました!こういう小説ずっと探してました!主従関係とか護衛とか強くあろうとする(?)系の女性が出てくる小説めっちゃ好みなんです!! 一見クールに見えて、澪を思いやる真人の…
こちらにも出没
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ