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【完結】ずるくあざとく可愛く、王太子に愛されてみせます!  作者: 木風


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3/3

第三話 可愛く

思わず間の抜けた声が漏れた。

シルヴァン様は私の手を取り、そのまま優しく引き寄せた。

周囲の視線など気にも留めず、私の耳元にそっと囁く。


「甘いものが苦手なわけではないだろう。だが、君はマカロンを食べている時より、厨房から焼き鳥の香ばしい匂いが漂ってきた時の方が、ずっと幸せそうな顔をする」

「で、殿下……?」

「乗馬で泥だらけになって戻ってきた時、君はいつも一番楽しそうに笑っている。カードの勝負になると、令嬢の微笑みではなく、狩人のような目になる。ポーカーで勝った時の君など、実に生き生きとしているよ」


私は言葉を失った。

これ以上ないくらい、上手く隠していたつもりだった。

完璧に演じていたつもりだった。


けれど、シルヴァン様は全部知っていたのだ。


「君が必死に隠そうとしていた、その情熱的な一面を、私はずっと見ていた」


シルヴァン様は、私の手を包み込むように握った。


「エリュシオン。私は、人形のような婚約者が欲しかったわけではない。私が欲しかったのは、君という一人の女性だ」


胸の奥が、ぎゅっと熱くなる。


「可憐に笑う君も好きだ。完璧であろうと努力する君も愛おしい。だが、砂肝を前に目を輝かせる君も、泥だらけで馬を走らせる君も、ポーカーで私を負かそうとする君も、すべて君だろう?」

「殿下……」

「なら、隠す必要などない」


シルヴァン様は、私の額に優しく口づけた。


「君がそんなにも砂肝を愛しているのなら、今度から王宮の料理人に最高の炭火焼きを用意させよう。塩も、タレも、レモンも揃える。もちろん、君に合う葡萄酒も私が選ぶ」


あまりにも甘くて、あまりにも真面目な告白。

会場にいた令嬢たちは、呆然と息を呑んでいる。

中には羨望の眼差しで私を見つめている者もいた。


侯爵令嬢は顔を真っ赤にしたまま、何も言えずに立ち尽くしている。


シルヴァン様は、そんな彼女に静かに告げた。


「今宵の件は、私から侯爵に伝えておく。他家の令嬢を陥れるために私的な取引まで調べ上げる行為が、社交界にふさわしいものかどうか、よく考えるといい」

「……っ」


彼女は唇を噛み、深く頭を下げると、逃げるように人垣の奥へ下がっていく。

けれど、私にはもう彼女を見る余裕などなかった。


シルヴァン様の手が、まだ私の手を握っている。

温かくて、優しくて、離したくないと思ってしまう。


「……殿下」

「何かな?」

「幻滅、なさいませんでしたの?」


そう尋ねる声は、自分でも驚くほど小さかった。

マーモットからハムスターになるくらいに。

シルヴァン様は、困ったように笑った。


「するはずがないだろう」

「だって、私は……完璧な令嬢ではありませんわ。あざとく可愛く見えるように振る舞って、殿下に愛されようとして、それで……本当は、砂肝が好きで、ポーカーも好きで、泥だらけになるのも好きで……」


言葉にすればするほど、涙が込み上げてきた。

私はずっと、可愛い私だけを愛してほしかった。

けれど本当は、可愛い私しか愛されないのが怖かったのだ。


シルヴァン様は、私の手をさらに強く握った。


「好きな人に可愛く見られたいと願うことの、何が悪い?」

「え……」

「私のために努力してくれたのだろう?それは、ずるさではなく愛情だ。あざとさではなく、君の可愛らしい戦略だよ」


その言葉に、私はとうとう泣きそうになった。


「それに、私も同じだ」

「殿下も?」

「君の前では格好よくありたい。頼れる男だと思われたい。君に愛されるためなら、多少は見栄も張る」


シルヴァン様は悪戯っぽく笑った。


「だから、お互い様だ」


胸の奥が、ふわりとほどけた。


ずるくていい。

あざとくていい。

可愛く見られたいと願ってもいい。


けれど、もう本当の自分を全部隠さなくてもいいのだ。


「私たちには、これから一生という長い時間がある」


シルヴァン様は、私の指先にそっと口づけた。


「甘いものも、しょっぱいものも、一緒に食べればいい。君が好きなものを私にも教えてほしい。代わりに、私の好きなものも君に知ってほしい」

「殿下……」

「今夜は、この夜会を早めに抜け出して、二人で秘密の夕食会と洒落込もうか」

「秘密の夕食会、ですの?」

「ああ。厨房に頼んで、砂肝を焼かせよう。もちろん、ポーカーの用意もする」


私は目を丸くしたあと、思わず笑ってしまった。

もう、完璧な令嬢の微笑みではなかった。

心の底からこぼれた、本当の笑みだった。


「殿下。申し上げておきますけれど、ポーカーで手加減はいたしませんわよ」

「望むところだ。私も負けるつもりはない」

「後悔なさっても知りませんわ。私、勝負事では可愛げがありませんの」

「それも楽しみだ」


二人で顔を見合わせて笑う。

ざわめく夜会の中、シルヴァン様は堂々と私の手を引いた。

私はその手を、今度こそ迷わず握り返す。


偽りの令嬢は、もういない。

可愛く見られたくて、少しずるくて、あざとくて。

けれど本当は、砂肝を愛し、乗馬を愛し、ポーカーで勝つ瞬間を愛している。


そんな私ごと、愛してくれる人がいる。

だから私は、今夜から胸を張って生きていく。

大好きな人の前で、ありのままの自分を見せられる。

世界一幸せな、砂肝好きの王太子妃として。

最後までお付き合いありがとうございました。

先週、砂肝を買ったせいで生まれたお話です。

砂肝が食べたくなったら、ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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