山頂
曲がりくねった道を登りきると、頭上に影を落としていた木々が、横に開けて澱んだ空が広がっていた。
開けた空間に、自然と呼吸が深くなる。
枯れ草と砂利を踏み締め、広場の先まで歩いた。
足元には倒木の残骸。そのまま視線を滑らせていくと、底の見えない暗闇が口を開けていた。
ふいと顔を上げると、遠くの方の空が所々、澄んでいるのが見えた。
点々と、星のように輝いていた。
「あまり端に寄り過ぎるな。足を滑らせるぞ」
シュンの静かな声が耳に響き、隣を見上げる。
「すみません。……シュンさん、シュンさんにはあの空が、どう見えていますか?」
澄んだ場所と澱んだ場所。シュンさんにも、星のように見えているのかな。
「唐突だな。……俺には導に見える。今日は空が晴れているな。あそこがシオンの地だろう」
シュンの腕が遠くの空へと伸ばされ、一番近くにある澄んだ空を、その指先が真っ直ぐに指し示す。
良かった。シュンさんにも空の違いが見えているみたいだ。
少しだけ肩の力が抜けた。
下ろされる腕の動きを辿って、シュンの姿を見る。
彼は腕を組んで、空を眺め続けている。
「もうすぐシオンに着くんですね」
「……ああ。だが、油断はできない。無事に帰るまで」
こちらに視線を向けたシュンが、ぽんと肩を叩いてきた。
「お二人さん、内緒話ですか? 羨ましいですね。是非とも私も仲間に入れてください」
ゲンヤの恨めしげな声に後ろを向くと、すでにできあがっている焚き火の隣で、火に追加するのだろう枝を手に持った彼が、その枝で僕たちを手招いていた。
◆◆◆
「それで、さっきは何の話をしてたんです?」
食事の手を止めたゲンヤが、こちらとシュンを交互に見た。
「シオンの地が近いという話をしてました。空を見ながら」
「風情がありますね。……そうです! 近いんです、だからこそ、心配なのがあの腐怪なんですよね。ほら、さっきのトンネルの。シオンに向かってこなければいいのですが……」
胸元に視線を落とす。
寒くもないのに鳥肌が立って、腕をさすった。
「……できるだけ早く戻ろう。……心配だ」
心ここに在らずな感じのシュンの声。
焚き火の向こうを見ると、彼は腕を組んでシオンの方角を見上げていた。
「分かります! 心配ですよね! シュンは特に! 私は独り身だというのに、貴方は苦労せずアヤメさんを娶って! 可愛らしい娘までっ」
「人の家庭事情を大声で叫ばないでくれ」
目を見開いてシュンを見詰めると、彼は頭を搔いてそっぽを向いた。
「娘さんがいるんですか? だからなんですね……。時々、シュンさんが、父みたいだと思って。いえ、あの、性格とかは全然違うんですけど! たまに、向けられる視線とか、声が、優しいなと思ってたんです! いや、すみません……」
頬が暑くなって俯いた。
二人から向けられてくる視線が痛い。
「失礼なことを言ってすみません……。シュンさんとは、あまり歳も離れていないのに」
「いや、そこは気にしてないが。むしろ光栄でもあるんだが……。素直さは美徳だが、隠すのもときには……」
首を傾げる。
えっと、なんだろう、褒められた?
「シュンは心配してるんですよ、ロランさんのことを。擦れて無さすぎて。子どもに懐かれた気分で、私は好きですけどね」
眉を寄せてゲンヤへと顔を向ける。
「僕は子どもじゃありません。ゲンヤさんから見たら歳下かもしれませんけど」
反論すると、ゲンヤの目が少し丸くなり、その後、ゆるゆると細められた。
彼の小さな笑い声が聞こえ、眉を顰めてしまう。
「ああ、拗ねないでください、馬鹿にした訳ではないんですよ。ただ、本気で囲い込みたく──」
「そろそろ、寝ろ。特にゲンヤ。いいから寝ろ」
ゲンヤの姿がシュンによって遮られた。
暗い中、ゲンヤの微かな笑い声だけが聞こえて、背筋が冷えた。
ゲンヤさんが分からない……。関わらないようにしよう。あ、ティエラについて話さないとなんだっけ。でも、僕、本当にあんまり覚えてないんだよなぁ。




