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遺灰が芽吹く世界で──神木と腐敗の世界で、海を探して──  作者: ヒトミ


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9/19

山頂

曲がりくねった道を登りきると、頭上に影を落としていた木々が、横に開けて(よど)んだ空が広がっていた。


開けた空間に、自然と呼吸が深くなる。


枯れ草と砂利を踏み締め、広場の先まで歩いた。


足元には倒木の残骸。そのまま視線を滑らせていくと、底の見えない暗闇が口を開けていた。


ふいと顔を上げると、遠くの方の空が所々、澄んでいるのが見えた。


点々と、星のように輝いていた。


「あまり端に寄り過ぎるな。足を滑らせるぞ」


シュンの静かな声が耳に響き、隣を見上げる。


「すみません。……シュンさん、シュンさんにはあの空が、どう見えていますか?」


澄んだ場所と澱んだ場所。シュンさんにも、星のように見えているのかな。


「唐突だな。……俺には(しるべ)に見える。今日は空が晴れているな。あそこがシオンの地だろう」


シュンの腕が遠くの空へと伸ばされ、一番近くにある澄んだ空を、その指先が真っ直ぐに指し示す。


良かった。シュンさんにも空の違いが見えているみたいだ。


少しだけ肩の力が抜けた。


下ろされる腕の動きを辿って、シュンの姿を見る。


彼は腕を組んで、空を眺め続けている。


「もうすぐシオンに着くんですね」

「……ああ。だが、油断はできない。無事に帰るまで」


こちらに視線を向けたシュンが、ぽんと肩を叩いてきた。


「お二人さん、内緒話ですか? 羨ましいですね。是非とも私も仲間に入れてください」


ゲンヤの恨めしげな声に後ろを向くと、すでにできあがっている焚き火の隣で、火に追加するのだろう枝を手に持った彼が、その枝で僕たちを手招いていた。


◆◆◆


「それで、さっきは何の話をしてたんです?」


食事の手を止めたゲンヤが、こちらとシュンを交互に見た。


「シオンの地が近いという話をしてました。空を見ながら」

「風情がありますね。……そうです! 近いんです、だからこそ、心配なのがあの腐怪なんですよね。ほら、さっきのトンネルの。シオンに向かってこなければいいのですが……」


胸元に視線を落とす。


寒くもないのに鳥肌が立って、腕をさすった。


「……できるだけ早く戻ろう。……心配だ」


心ここに在らずな感じのシュンの声。


焚き火の向こうを見ると、彼は腕を組んでシオンの方角を見上げていた。


「分かります! 心配ですよね! シュンは特に! 私は独り身だというのに、貴方は苦労せずアヤメさんを娶って! 可愛らしい(むすめ)までっ」

「人の家庭事情を大声で叫ばないでくれ」


目を見開いてシュンを見詰めると、彼は頭を()いてそっぽを向いた。


「娘さんがいるんですか? だからなんですね……。時々、シュンさんが、父みたいだと思って。いえ、あの、性格とかは全然違うんですけど! たまに、向けられる視線とか、声が、優しいなと思ってたんです! いや、すみません……」


頬が暑くなって(うつむ)いた。


二人から向けられてくる視線が痛い。


「失礼なことを言ってすみません……。シュンさんとは、あまり歳も離れていないのに」

「いや、そこは気にしてないが。むしろ光栄でもあるんだが……。素直さは美徳だが、隠すのもときには……」


首を傾げる。


えっと、なんだろう、褒められた?


「シュンは心配してるんですよ、ロランさんのことを。()れて無さすぎて。子どもに懐かれた気分で、私は好きですけどね」


眉を寄せてゲンヤへと顔を向ける。


「僕は子どもじゃありません。ゲンヤさんから見たら歳下かもしれませんけど」


反論すると、ゲンヤの目が少し丸くなり、その後、ゆるゆると細められた。


彼の小さな笑い声が聞こえ、眉を(しか)めてしまう。


「ああ、()ねないでください、馬鹿にした訳ではないんですよ。ただ、本気で囲い込みたく──」

「そろそろ、寝ろ。特にゲンヤ。いいから寝ろ」


ゲンヤの姿がシュンによって(さえぎ)られた。


暗い中、ゲンヤの微かな笑い声だけが聞こえて、背筋が冷えた。


ゲンヤさんが分からない……。関わらないようにしよう。あ、ティエラについて話さないとなんだっけ。でも、僕、本当にあんまり覚えてないんだよなぁ。

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