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遺灰が芽吹く世界で──神木と腐敗の世界で、海を探して──  作者: ヒトミ


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シオンの地

それからまた数日、腐敗の地を移動した。


鬱蒼(うっそう)と茂った森を抜けた先には、石畳の登り坂があった。


足元は崩れかけの石畳なのに、上の方を見上げると揺らぐ境界を(へだ)てて、整然とした道になっていた。


着いた。やっと。


前を歩いているシュンの歩幅が、早まった気がする。


「やはり、我らがシオンの地は眩しいですね。さあ、気を抜かないで行きましょう!」


ゲンヤがこちらを振り返って、登り坂の先を指し示してきた。


早足になりながら、彼に対して頷く。


シオンの境界に踏み入った途端。


紫と白の花弁が、左目の端を(かす)めて行ったように見えた。


でもそれは、一瞬の幻のように()き消えた。


……今の、シュンさんの戦いでたまに見えてた花影と、一緒だった気が。


(またた)いて、首を傾げる。


けれど、朝露の匂いが立ち込めてきて、呼吸が楽になったことで、違和感は形になる前に霧散した。


石畳の左右に広がる青々とした草花は、朝霧に包まれて濡れている。


その上を蝶が飛び交い、花の蜜を吸っていた。


「ゲンヤさんとシュンさん!? ……それから……誰だ? と、ともかく、無事で良かった!」


前方から、若い男性の声が聞こえてきた。


肩を震わせ前を向くと、青年が慌てたように物見櫓(ものみやぐら)から降りてくる気配を見せていた。


物見櫓の周りは、アレースやニライとは違い、柵ではなくしめ縄が木の(くい)で、シオンの地を囲っていた。


なんだか、静かだ。


物見櫓まで歩くと、しめ縄が途切れた入口の近くに、横に長い建物があるのが見えた。


その建物から騒めきながら何人か出てきて、こちらに駆け寄ってくる。


「シュンさん、本当にシュンさんだ! 心配で、心配で!」

「アヤメさんが、昨日から神木守堂に泊まり込んでたんだぞ」

「ただでさえ最近、原形を留めてない腐怪が、近くを彷徨(うろつ)いててな。最悪なことを考えてしまった」


瞬く間に、彼らに囲まれたシュンが、短く返事をしたり、頷きながらこちらを見る。


「ロラン。慌ただしくてすまない。道中、助かった。海、見つかるといいな」

「あ、はい! シュンさんこそ、ありがとうございました!」


シュンが、彼らと建物に向かいながら、片手を上げて手を振ってくれた。


唐突な別れに、目を丸くするばかりだった。


「囲まれちゃってまあ。皆さん酷いですね。私のことは誰も出迎えてくれないのですか」

「いや、ゲンヤさん。ここ、ここにいますよ。俺が」


隣でゲンヤの呟きが聞こえ、横を見ると、別の物見櫓から降りてきたらしい男性が、ゲンヤの肩を叩いていた。


「で、ゲンヤさん。この方は何方(どなた)ですか?」

「全く私の心配してないですよね!? ロランさんは私の客人ですよ」


男性が、ゲンヤの肩に手を置いたまま、視線を向けてくる。


「初めまして。調べたいことがあって、シオンまで来ました。神木守です」

「あ、ご丁寧にどうも」


軽くお辞儀をすると、男性に礼を返された。


「ゲンヤさん、とうとうこんな幼気(いたいけ)な青年まで連れてきて……」


彼は、こちらとゲンヤを交互に見た後、頭を抱えて小さくため息をついた。


「犯罪者みたいに言わないでくれます? 彼がシオンに来たいと言ったんですよ。私は悪くありません! そこのとこ、間違えないで下さいね! 本当に、全くもう……商人にとって信用がどれだけ大切か──」

「分かりました、分かりました! ロランさん。ようこそシオンへ。ゲンヤさんに迷惑を掛けられたら、いつでも神木守堂で滞在して貰って構いませんから」


ゲンヤがぶつぶつと文句を言っているのを男性が(さえぎ)り、しめ縄の内側に招き入れてくれた。


遠くの方までなだらかな丘が広がっている。


シオンの神木は、その奥に見える山頂にあった。


その姿は朝霧に包まれていて、はっきりとは見えなかったけれど、緑の中に紫と白が浮かび上がっていた。


「さて、ロランさん。行きましょうか、情報堂へ!」


斜め前からゲンヤが見てくる。


細い目の眼力に、ちょっと、あんまり、一緒に行きたくないなと感じてしまい、口元を引き()らせながら頷いた。


絶対、神木守堂で滞在させて貰おう。そうしよう。

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