再会
翌日、船内の食堂に来てみたけど、朝早かったせいか、エルドやサラサ、コハクはいなかった。
あまり喉を通らない朝食を済ませて、水進船の上に出てきた。
縁まで歩いて、朝日に照らされた水面を見る。
青く澄んだ水面の近くに、しめ縄で囲まれた薄らと胞子が漂う、濁った水面の場所があった。
浄化と腐敗の境界が、カンナの地の内側にあって、息を呑む。
とっさに遠くのカンナの神木に視線を向けたけど、神木が腐怪に巣食われているようには見えなかった。
肩の力が抜けて息を吐きながら、もう一度しめ縄の方に視線を戻した。
しめ縄の間に、腐敗水域と書かれた看板があった。
海の宝石の養殖場とも書かれていた。
──腐敗した水で、養殖……? 海の宝石って何だろう。
水進船の縁に手を置いて、身を乗り出した。
すると、腐敗水域の中から水中を通って、澄んだ水面に神木守が泳いできて、水面に立ち上がった。
手に青く煌めく丸い石を持っていた。
神木守はその石を袋に入れると、神木の方に向かって水面を滑って行った。
「──あほ鳥ッ! なるべく腐敗の場所飛んでってばっ! なんでそっちに行くんだよ! 降りるッ、ぼくそこの水に降りるからっ」
この、元気な声は……。
目を見開いて、無意識に左目を押さえた。
頭上を鳥の影が過ぎり、空から悲鳴が降ってきた。
「なんでここで落とすんだよーーっ」
僕の近くに落ちてきた姿を見て、後ずさりそうになりながらも、また元気な姿を見れて頬が緩んだ。
左目を押さえていた手が下がる。
「ウキハ……。大丈夫ですか?」
腰を痛そうに摩ってるウキハに右手を伸ばすと、ウキハが驚いたようにこちらを見上げてきた。
「ロラン? ロランじゃん。え、本当に、また会えた? 海、探してて良かったぁ! ここは海じゃなかったけど」
ウキハが僕の手を握って立ち上がりながら、水面の方を見た。
「ロランはさ、ここが海じゃなくて残念?」
「……そうですね、少し。だけど、カンナの海も綺麗だと思います」
「そっか」
ウキハの目が嬉しそうに細まって、腐敗水域の方を見詰めていた。
「あの……ウキハは、綺麗な場所が怖いんですよね? ここにいて、大丈夫なんですか?」
ウキハがこちらを見た。
「怖い……そうだね。大丈夫だよ。少しだけなら」
ウキハがふいと神木の方に顔を向けて、額飾りを押さえた。
「そう言えば、額の傷って──」
「あのさ!」
治ったのか聞こうとして、不自然な勢いで遮られた。
「せっかくまた会えたんだし、やっぱり、ぼく達と一緒に旅しない?」
「えっと、それは……誘いは嬉しいんですけど、僕は神木の地に寄りながらじゃないと旅ができません。それだと、ウキハが大変だと思うんです。だから──」
「……なんで?」
ウキハが額飾りを押さえながら俯いた。
「ロランはぼくと同じなんだから、一緒に旅してくれてもよくない!?」
「同じじゃないッ」
額飾りを押さえたままのウキハが、勢い良く顔を上げて迫ってくるのを押し返して、反射的に叫んでいた。
「……どうして」
よろめいたウキハの額飾りがずれる。そこからちらりと覗く傷。あの時と同じだ。もしかしたら、治らない傷痕なのかもしれない。
「そうか……。来てくれないなら、いっそ壊して──」
ウキハの様子がおかしいことに身構えると、頭上に鳥の影が差して、上空から小さな人影がバコンとウキハの上に落ちてきた。
亜麻色の髪の幼女が、ウキハの背に乗って押し潰していた。
「え……え? ウキハっ?」
ミコの下敷きになって、ウキハは気絶していた。




