喧嘩
しばらく三人で夜の水面を眺めていた。
「ねえねえー!」
エルドが僕を見て何か言おうとした時、背後からサラサの声が聞こえてきた。
「この人、コハクと話したいんだって! ツキカの地が気になるらしいよー」
振り返ると、サラサが行商人を連れてこちらに近づいてきていた。
「……え、なんで俺? というか、誰そいつ」
「まあまあ、いいからいいから! 水進船の中で話そー」
渋る様子を見せているコハクの手を引っ張り、サラサたちが僕とエルドを残して去って行った。
気を取り直して、エルドの方を窺うと、彼が片腕を腰に当てて口を開いた。
「……まだ、海を探すつもりか?」
ぐっと息を詰めた。海の場所が分からなければ別の場所を探せと言われたのを思い出す。
「……はい。ここが海と呼ばれているなら、僕が探している海も世界のどこかには、きっとあるはずで。まだ、僕たちが見つけ出せてないだけなんです」
エルドの視線が鋭くなった。
「……死ぬまで探し続けるつもりか?」
「それは……っ。だって、僕は海を見てみたい!」
両手のひらを握り締めて、叫んでいた。
エルドの視線に負けないように、睨み返していた。
「見てーのは分かった。けどそれなら、親父さんを芽吹かせてやってから探せ。ここなら、芽吹いてくれるかもしんねーだろ」
彼の静かな声に少し気圧されて、カンナの海に視線を逸らした。
水面には星と月が映っていて、空が二つになっているみたいだった。
「……一番、芽吹いてくれそうな場所に、父さんを埋めたい」
エルドの小さな舌打ちが聞こえてきた。
「そーかよ。好きにしろ。付き合ってらんねー。探したけりゃ、別の奴探せ。じゃーな」
怒鳴られなかった。逆に、静か過ぎて反応が遅れた。
慌ててエルドの方を見たのに、すでに彼の姿はそこになかった。
──どうしよう。見放された? こんなつもりじゃなかったのに。もう、エルドが一緒に旅してくれない? そんなの嫌だ。せっかくこんなに仲良くなったのに。初めての友達なのに。
どのくらいか呆然とした後、エルドを探して水進船の中に入った。
けれど、彼の部屋がどこか分からず、肩を落としながら自分の部屋に行くことしかできなかった。




