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遺灰が芽吹く世界で──神木と腐敗の世界で、海を探して──  作者: ヒトミ


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古蝶の粉

サラサとリーンが皆を呼んできて、切り株を囲んで昼食を取ることになった。


食事をしながら、エルドの怪我はどうなったのかや、腐怪が気持ち悪くて気絶したのかと聞いてきたコハクに答えたりした。


エルドは自身の怪我について濁してきたけど、サラサがこっそり、うさぎの神木守が治癒したんだよと教えてくれた。


エルドからは逆に僕の体調を心配されたけど、今はおかしくないからとだけ答えた。


胃に優しい物を食べてくつろいでいると、芝生に体を横たえているテールが、僕たちを見回して口を開いた。


『渓谷の腐った物を浄化してくれた礼をしよう』


テールの近くを飛んでいた古蝶たちが、透明な緑の神木の葉に包んだ粉のような物を、僕たち四人に渡してくる。


「そんな。あそこの渓谷は元々通る予定の場所で、テールさん達にお礼を貰うなんて、気が引けます……。それこそ、腐怪について教えてくれたお礼をしたいくらいです」


目の前で粉を包んだ葉を困ったように持っている古蝶たちに、困惑の視線を向けてしまう。


『その粉は、古蝶たちが用意した好意なのだ。受け取って貰えぬと古蝶たちが悲しむであろう』


テールの言葉に続けて、古蝶たちが何度も頷いてくる。


周りを見るとサラサは喜んでるし、エルドとコハクも普通に受け取っていた。


古蝶たちに向き直り、差し出されている包みを受け取る。


「用意してくれてありがとう」

『我はそれを古蝶の粉と呼んでいる。記憶を夢のように忘れさせてくれる物だ』


手元から包みを落としそうになる。


「忘れて欲しいことを祈るの」

「危ない人から、僕たちを守ってくれるんだよ」

「外で危ないことがあったら使ってね」


古蝶たちが一生懸命に説明してくれて、ほっと肩の力が抜けた。


──危ない物かと思ったけど、この子たちにとっては、身を守るための物なんだ。せっかく心配してくれたんだから、大切にとっておこう。


「うん。そうするね」


古蝶たちに微笑むと、古蝶たちは嬉しそうに僕の頬に顔を寄せてきた。


その後、和やかに会話しながら、夕方までゆっくりしてから、この地をあとにすることになった。


◆◆◆


エルドを先頭に境界の近くまで歩くと、後ろからついてきていたテールが渓谷までの獣道を作ってくれた。


『そなたらのこれからの道が、幸多からんことを祈ろう。気を付けて行(ゆ)くが良(よ)い。そなたらのことは忘れぬ』


サラサがうさぎを抱き締めながら、別れを惜しむ声を上げている。


エルドはそれを見て、うさぎをサラサから解放していた。


コハクはコハクで古蝶に次々と頬に顔を寄せられていた。


「僕も、テールさんやこの地のこと、忘れません。楽しかったです。短い間でしたが、ありがとうございました」


エルドがサラサを引き摺(ず)るようにして、テールにぶっきらぼうな挨拶をした後、獣道へと歩き始めた。


コハクは古蝶が離れていくのを、心做しか肩を落として見送ったあと、僕を促してテールたちに背を向けた。


コハクに続いて、テールたちにお辞儀したあと、彼の背中を追うとき、彼の髪の隙間に蝶の翅(はね)がちらりと見えたけど、風に髪が煽(あお)られてすぐに見えなくなり、首を傾げた。


緑の蔦と、花に覆われた獣道を歩きながら、動物たちの姿や透明な神木を思い出して後ろを振り返ると、そこにはもう道はなく、腐敗の森が広がっているだけだった。


後ろを見たまましばらく立ち止まり、一度目を閉じて、また前を向いて歩き始めた。

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