↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺灰が芽吹く世界で──神木と腐敗の世界で、海を探して──  作者: ヒトミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/71

人間か腐怪か

左右の目で見える景色が違う。


左目が痛むと何かが見える。


深紫の髪と藍色の目をしたあの子の姿が浮かぶ。


ウキハが僕の左目に触れようとして。


『ロランの目、壊れかけの青水晶みたいに──。左目だけが、ぼく達と同じ……なのかな……』


ウキハの額の傷。そこから漂う胞子。


──もしも、ウキハが腐怪になった人なら、僕の左目も腐怪になっているのかもしれない。……あの後、ウキハは本当に大丈夫だったのかな。今は、どこにいるんだろう。


左目の痛みが遠ざかる。


何かが、頬に触れてくる感触で、意識が浮上した。


蝶の翅(はね)が見えた。


頬に小さな手が触れている。


瞬きをすると、女の子の顔が目の前に広がった。


「あ、起きた……」


飛び上がるように上体を起こすと、古蝶の女の子が顔の前を飛んで、首を傾げてきた。


「えっと、はい。起きました……」


もう痛みのない左目を押さえて、周囲を見渡す。


蓮の葉の下で寝かされていたらしい。


切り株のそばの倒木に座っていたサラサが、慌てた様子で走り寄ってきた。


「ロラン良かったぁ! 二日も寝てて、もう目が覚めないんじゃないかって心配したんだよ!?」


抱き着かれそうになり、反射的に避けてから瞬きを繰り返す。


「二日も……? 僕はどうやってここに……。エルドとコハクは? あ、渓谷の腐怪は本当にもう浄化しきってたのかな……」


サラサが「避けられた……」と呟きながら、肩を落として、視線だけこちらに向けてくる。


「あ、すみません。つい。わざとじゃないんです」

「それは私、慰められてる? まあいいかー。えっとね、エルドが担いできたから、一瞬ロランが死んだのかと思って血の気が引いたんだよ?」

「それは……驚かせてすみませんでした」


サラサがあっけらかんと手を振って許してくれた。


そういえば、エルドの右腕、血が出てた気がしたけど、まだ治ってなかったら、治さないと。


「エルドとコハクさんはどこにいますか?」

「二人? あの二人はそこにいるよ」


サラサが神木の下でうさぎに囲まれている狼姿のエルドと、花畑で古蝶と何かしているコハクの方を指差した。


僕の頬を触っていた古蝶の女の子が、サラサの方へと飛んでいく。


「ロラン、何も食べてないの。お腹、空いちゃう」


サラサがそれを聞いて、ぽんと手を叩いた。


古蝶の言葉に目を見開く。


「あの、なんで僕の名前を?」

「テール様のとこで、聞いてたの」


サラサの顔のそばで、古蝶が僕を見てくる。


──なるほど。いや、それ以外にないよね。


「あ、この子、リーンちゃんって言うんだって! そろそろお昼だし、皆で食べよー。……そうだロラン。ロランのお父さん、返すね」


サラサが鞄を漁り、中から小瓶を取り出して、両手で丁寧にこちらに差し出してくる。


なんだかほっとして、その小瓶に手を伸ばして、はたと動きをとめる。


──もし、僕の左目が腐怪になってたとして、これからどんどん腐敗が進んで、何も考えられない物になったとしたら、僕が父さんを持ってたら腐敗が父さんにまで移るんじゃ。それこそ腐怪みたいに、神木や生き物を攻撃したりするようになったら、どうする? こんな僕が、父さんを持っててもいいんだろうか……。


「どうしたの? 具合でも悪い?」


はっとして顔を上げると、心配そうな表情をしたサラサがこちらを覗き込んでいた。


「……大丈夫です。ありがとうございます」


とまったままの手の中に、サラサが小瓶を握らせてくる。


このまま、サラサに持っていて貰った方がいい気がするのに、手元に戻ってきた小瓶を見ると、手放すことができなかった。


じっと小瓶の中身を眺めたあと、恐る恐る組紐を首に掛け、小瓶を胸元に仕舞い込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。