名も無き神木の地
透明な神木のそばまで歩くと、動物が水を飲んだりしている池から伸びた背の高い蓮の葉が、何枚も雨よけのように頭上へ広がる場所に着いた。
「わぁ! あのうさぎ、ちっちゃな羽生えてる! 可愛いー。ねえねえテールさん、あの子たちも神木守……神木から祝福を受けた子なの!?」
サラサが神木の根元に近寄りながら、芝生に体を横たえたテールに顔だけ向けた。
サラサの足元を様々な淡い色を持つうさぎたちが、ぱたぱたと小さな羽を動かして、滑空しては、地面に足をつけ、どこかへと移動していた。
『祝福されている子も、普通の子もいる。我のように話す子は、その樹から祝福された子だ』
普通の動物なんだ。羽が生えたうさぎは、腐怪以外で初めて見た。
目の前を横切る古蝶。
なんとなく目で追うと、蓮の下の花畑でコハクが古蝶たちと舞っていた。
……なんか、凄く馴染んでる。古蝶は動物の神木守なのか気になったけど、まあ、いいかな……。
「おい。あの神木には名がねーのか?」
エルドが僕の隣で神木を見上げながら、テールに問い掛けた。
『そうだな。名はない。我らはただ、この地を浄化してくれる樹と呼んでいる。あの樹は、我が生まれる前からこの地に根を張っていたからな』
神木名がない? それじゃ、あの神木が誰から芽吹いたのか、分からないってこと!? ……名前のない神木の地。そんな地があるなんて。想像したこともなかった。
「……そうか。人間がいねーから、そもそも、名前が残らなかったんだな、あの神木には。……だが、あんたらがいる……悪くねー」
エルドはテールと神木に視線を交互に向けたあと、切り株の近くにある倒木へと腰を下ろした。
『そろそろ腹を満たして休むと良い』
テールの言葉で、うさぎと戯れていたサラサと、舞うのをやめたコハクが、それぞれうさぎと古蝶を連れて、切り株のそばにやってきた。
切り株を囲んで、それぞれ倒木に腰を下ろして、話すうさぎや古蝶、他の小さな動物たちが持ってきてくれた木の実や、果物を食べて夜を過ごした。
そして、倒木に座ったまま神木を眺めるエルドや、うさぎに囲まれて幸せそうに寝ているサラサ、古蝶の舞いに合わせて笛を奏でるコハクの音色を聴きながら、僕は池のそばで眠りについた。




