砂の橋
腐敗の地に出る寸前。
僕たちは小さな岩場に腰掛け、四人で円になり、コハクが広げたカンナへの地図に視線を落としていた。
「何度か、行商人の砂進船に紛れて他の地まで行ったことがあるけど、今思うとあれは遠回りだった。一直線に歩けば、何日かで砂漠を抜けられる」
なんて事ない様子で話すコハクに、微妙な視線を向けてしまう。
「……何度か? 砂進船……?」
「砂の上を進む乗り物。それはどうでも良くて。この地図古いし、カンナからくる人も今はいないから、もしかしたら地形が変わってるかも知れないんだよね」
コハクが腐敗の地に顔を向ける。
砂の世界に細く固められた道が跡として残っている。
砂進船が通った跡なのかもしれない。
「地形が変わっててもかんけーねぇ。場所が分かったんだ。後はカンナに向かうだけだろーが」
腕を組んで地図を見ていたエルドが、片手で肩を解して僕たちを見回した。
「うんうん。私もそう思う! 地図なんて目安だよ。昔と今の地形を比べるのも面白そう!」
サラサが飛び跳ねるように立ち上がり、彼女を見上げるコハクに訴えた。
「とりあえず、地図に沿ってカンナに向かえば、間違いはないと思います。そろそろ行きますか……?」
カンナからくる人が居ないということに、引っ掛かりを覚えたけど、向かってみないことには、何が起こっているのかも分からない。
コハクが頷いて、地図を片付けるのを見ながら、僕は小さく眉を寄せて立ち上がった。
◆◆◆
見渡す限り一面が腐敗した砂の大地。
ツキカに着くまでと同じように、暑い時間を避けて移動した。
時おり砂の中から飛び出してくる小さな腐怪や、遠くを通り過ぎていく大きな腐怪。
食べることができる腐怪を見つけると、エルドが突っ込んでいき、襲ってこない腐怪を見つけると、サラサが突っ込んで行こうとした。
エルドの動きは止められないけど、サラサの場合は三人で協力して止めに入った。
コハクはコハクで、間近に腐怪を見るのは初めてだったのか、腐りながら動いている腐怪を見て「これを生き物だとは認めない!」と叫んでいたのが印象的だった。
砂の大地を数日旅して、砂が川みたいに流れている場所で、僕は少し遠い目になっていた。
流れる砂の上にできている、自然の砂の橋。
橋の傍を群れで飛んでいる小鳥の腐怪が、橋を渡る僕たちに向かって襲いかかってきていた。
「寄ってくんな!」
コハクが舞うように手を動かすと、彼の手から微かな光が広がり、小鳥に当たる。
すると、彼を突つこうとしていた小鳥の動きが途端に鈍った。
「ちょっとエルド! さん! 見てないで助けてくんない!?」
僕の傍で小鳥を炎で浄化していたエルドが「めんどくせぇ」と呟く。
「助けて欲しけりゃ、力を貸せ」
エルドがコハクに向けて、炎を出してない方の指で合図を送ると、コハクが待ってましたと言うように、懐から笛を取り出し、奏で始める。
ツキカの遺品とは別の笛だ。
ちなみに、なぜかサラサは小鳥と一緒に空を飛んでいる。多分、浮遊輪で。
ツキカで聴いた曲とは違う、戦意を鼓舞するような音色が響くと同時に、エルドの体が淡い光で覆われる。
すると、エルドが発している炎の勢いが強まった。
「はっ……上等じゃねーか!」
荒く笑ったエルドが、強まった炎を纏う手を振りかぶり、周囲を飛び回る小鳥に向かって一閃する。
横薙ぎに広がった炎が、次々と小鳥を呑み込み浄化していく。
──今日の夕飯は鶏鍋になりそうかも……。
襲ってきていた小鳥を浄化し終えて、満足げに肉を拾い集めているエルドを見て、場違いにもそんな感想が浮かんだ。
近くに腐怪がいなくなって安堵した様子のコハクと、肉の袋を担いでいるエルドと一緒に、砂の橋を渡り終える頃、サラサがフラフラと宙を漂い、やっと僕たちの元に降りてきた。
彼女が砂の川に落ちなくて本当に良かった。




