表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺灰が芽吹く世界で──神木と腐敗の世界で、海を探して──  作者: ヒトミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/51

変質

ウキハについて考え込みながら、人気のない道を歩いていると、前方に目立つ赤髪を見つけて我に返った。


「エル……ド?」


彼の元に早足で近付くと、エルドの肩に薄青い髪が広がり、体にだらりと腕が垂れているのが分かって、理解し難い光景に固まる。


「えっと、な、治した方がいい!?」

「は……? 何言ってんだ?」


エルドがその人を重そうに片手で支えながら、視線を向けてきた。


「だ、だって、その人」

「あ? こいつ、サラサだぞ。道端で寝こけてやがったから持ってきただけだっつーの」


エルドの肩を指差したまま、脱力する。


よく見たら、薄青い髪の影から、サラサの帽子が覗いていた。


穏やかな寝息も微かに聞こえてくる。


その寝息で、幼女の寝姿を思い出す。


幼女の、ミコの口から漂っていた胞子や、ウキハの額の傷も。


「……エルド。人間が腐怪になると、考えたりすることってできるのかな……」


考えることができるなら、僕だってもしかしたら。


無意識に左目を隠すように、手が伸びた。


背筋が凍る。


エルドが鋭い視線でこちらを見詰めてくるのが、右目で見えた。


「……知らねー。左目が酷くなったりしてんのか?」


首を傾げて、左目を覆っていた手のひらを見る。


「大丈夫、酷くは、なってないです。僕は、人間ですよね? だって、境界内でも、浄化されたり、してない」


──浄化しきれない腐怪も、いるのに?


「やべーこと考えてねーなら、人間なんじゃね? つーか、こいつ下ろしてえから、行くぞ」


軽く言われて、瞬きしながらエルドを見ると、彼は一軒の酒場らしき店に向かって歩き始めた。


「あ、エルド。ありがとうございます。僕はもう少し街を歩いてきます」


エルドの後ろ姿に声をかけると、彼はちらりとこちらを見た後、分かったと言うような仕草をして、店の中に入って行った。


なんだか肩の力が抜けて、街の静けさに意識が向く。


夜の賑やかさが嘘のようだ。


遠目に見える神木の花は、陽の光に照らされているせいか、淡く光っているはずなのに、あまり目立っていない。


ゆっくりと道を歩いて、神木の近くまでくると、根元には立派な演舞台と、その横に神木守堂が建っていた。


引き寄せられるように、堂の出入り口に近付くと、中から言い争うような声が聞こえてきた。


内容はよく聞こえないけど、耳に残る中性的な声が意識に引っ掛かり、扉の近くで耳を澄ませてしまう。


「──親父のばかやろーッ! 引退しちまえ!!」

「お待ちください!」

「コハク様! 祭主様は──」

「煩い! 着いて来ないでくれるッ!?」


声と同時に扉が開き、目前に白銀の髪が迫ってきて、その人物とぶつかりかける。


「あっぶな。邪魔なんだけど!」

「……え、あ、すみません」


反射的に謝って、相手の顔を見る。


こちらを睨み付けてくる琥珀色の目。


首を傾げて、目を見開く。


「夜の! 海の歌──」

「ちょっと! ここでその話、止めてくれる!?」


コハクと呼ばれていた青年が、出てきた扉を気にしたように、僕の腕を引っ張り街の陰まで走り出す。


走る姿が舞っているように優雅だった。


コハクは夜に見かけた、街外れの酒場の陰まで、僕を連れて駆け抜けた。


彼は息を乱さず華麗に立ち止まったのに、僕は肩で息をしながら、膝に手をついていた。


「あの、どうして、こんな場所に……」

「親父に聞かれたくないから」


彼はツンとした表情で、街の方を見ていた。


「えっと、お父さんと喧嘩でもしてるんですか……? 言っていいか分からないですけど、早く仲直りしたほうがいいと──」

「喧嘩……? そんな軽いもんじゃないし! 余計なお世話! あーうざッ」


こちらを見た彼が、険しい表情を向けてきた後、僕に興味を無くしたかのように、引き止める間もなく走り去ってしまった。


「……えぇ? 怒らせてしまった……。あ、海の歌……!」


呆然として、しばらく頭を抱えた。


──海を知ってるかもしれない人だったのに。夜にまた街で探せば見つけられるかな……。


エルドとサラサがいる店に、とぼとぼと向かいながら、怒らせてしまったコハクの姿を思い浮かべ続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ