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遺灰が芽吹く世界で──神木と腐敗の世界で、海を探して──  作者: ヒトミ


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日記

サラサが浮遊機に黙祷(もくとう)を捧げるのを見届けると、彼女はそわそわと建物内を見回し始めた。


「あ、階段発見! ねね、今日はこの建物で泊まらない? 濡れてない部屋あるかもしれないし!」


サラサが指差した建物の陰には、二階に続く階段があった。


エルドと顔を見合わせる。


「腐怪は居なそうだし、いーんじゃね?」


エルドがそう言うなら安全なんだろうと頷いて、彼の言葉を聞いて喜んでいるサラサに向き直る。


「二階に何があるのか楽しみです」

「ロランもそう思う? じゃあ行こー!」


手を掴まれそうになるのを、さり気なく避けて皆で階段まで向かう。


二階には、扉のない部屋が沢山あった。


腐敗の地になって、年月が経っているのか、床が抜けてる部屋や、物の残骸が広がっている部屋、逆に何もない部屋もあった。


サラサが興奮しながら物の残骸に駆け寄って行ったときは、エルドと一緒にはらはらしながら見守った。


窓が壊れていない一番安全そうな部屋で、今日は休むことになり、三人で夕飯の支度をした。


「この建物、情報堂みたいな場所だったのかな?」

「そんな感じじゃね」

「情報堂と文化堂を合わせた感じかもー。調度品鑑賞とか、勉強とかしてた場所なら面白そう!」


夕飯を食べながら他愛ない話をした。


満足そうにあと片付けをするサラサを見て、ふと手帳の事を思い出す。


「サラサ……今良いですか?」

「んー? どうしたの?」


立ち上がろうとしていたサラサが、横髪を耳に掛けてこちらを見た。


鞄から手帳を取り出す。


「この手帳なんですけど、中身の文字、読めたりしますか?」


一ページだけ開いて彼女に見せる。


「おっ、なになに、誰の手帳?」


サラサは興味深げに手帳へ顔を近付けた。


彼女が目を細めて、沈黙する。


「父の手帳なんですが……」

「そうなの!? これ、ディーン語だと思うんだけど! ロランのお父さん、ディーン地域出身ってこと?」


サラサが驚いたような表情で、こちらを見詰めてくる。


「いや、それが分からなくて……。ディーンっていう神木の地があるんですか?」


彼女が何度か目を瞬かせた。


「あ、そうか……えーと、帝国って分かる?」


サラサの言葉に目を見開く。


「父がたまに呟いていた言葉です! でも、意味は分からなくて」

「なるほどなるほど。私たちは、普段は帝国って呼んでるんだけど、長いから……聞きたい?」


サラサが眉間を()んだ後、こちらを見て首を傾げる。


「迷惑じゃなければ、教えてください!」


前のめりになって頷く。


「じゃー、正式名称、イスラ・ディーン、何だっけ……あ、セイエス! からの……ラダム・フィーメ神木帝国」


サラサが唸りながら言葉を紡ぐのを、眉を寄せて聞いた。


「イスラ・ディーン・セイエス・ラダム・フィーメ神木帝国ですか?」

「え、一回で言えるの凄い……。そうそう、とにかく名前が長くて。五つの神木が繋がった地があってね。その中の一つの神木名が、ディーンって言うんだ」


近くで聞いていたエルドが、小さく「(なげ)ぇ」と呟いた。


「だから、帝国って呼べばいいよ。みんなそう呼んでるし」

「みんなって、その、帝国の地を知ってる人たちがですか? サラサは、そこに行ったことがあるってこと?」


サラサが虚を突かれたような顔をして、自身を指差した。


「私が? 私はフィーメ地域出身だから! みんなって言うのは、帝国の人たちがそう呼んでるってことだよー」


彼女はあっけらかんと笑った。


「あ! だから、この手帳が読めるんですね。それなら、父さんの故郷は、帝国なのかな……」

「地域によって言葉とか、文字は少し違うけどねー。もう少し、この手帳読ませて貰える? 何か分かるかも」


考えに沈みながら、サラサに手帳を渡す。


──何で父さんは、自分の故郷について話さなかったんだろう。


サラサが手帳を数ページ(めく)って、手を止めた。


彼女の頬が薄らと染まって、口元がもごもごと動く。


「……この手帳、日記っぽい。途中から、ローリエって言う人の名前が沢山出てくる……というか、他人(ひと)の人生覗き見してるみたいで、私はこれ以上読めないッ」


その名前を聞いて、母の(おぼろ)げな姿が浮かぶ。


──母さんの名前だ……。


彼女が恥ずかしそうに片手で顔を覆い、丁寧に手帳を閉じて、返してきた。


戸惑いながら手帳を受け取り、じっと表紙を見詰めた。


「あの、僕読んでみたいんですけど、文字を教えて貰う事ってできますか?」


横を向いて欠伸をしていたサラサが、眠そうな目でこちらを見る。


「いいよー。だけど、手帳を読むのは、お父さんに許可貰ってからの方が良いんじゃないかなー。ローリエって人に対する愛情が──」


彼女は最後まで言う前に、目を閉じてこくりこくりと頭を揺らし始めてしまった。


「え、寝ちゃったんですか!? さ、サラサさーん……」

「こいつ、自由奔放すぎねーか?」


手帳を握り締めて困り顔になると、エルドが呆れたような声音でそう言った。


手帳に視線を落とす。


──父さんの日記か。読んでもいいのかな……。知りたいけど、どうしよう……。文字を覚えてから、考えようかなぁ。

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