石塩と浮遊機
サラサが浮遊輪を使って、悲鳴を上げながら、砂から飛び出してきた腐怪を避ける。
エルドがその腐怪を浄化した。
空高く飛んで、よろよろと降りてきた彼女を見て、妙に感心してしまった。
「そうやって使う物なんですね。腐怪を避けることができるなんて凄いです」
「あのね、ロラン。さっきも見せたけど、これは緊急用で、本来は多分こうやって使う物じゃないんだよー……。本当はちゃんとした使い方があると思うんだけど、私にはこれが精一杯というか。もっとかっこよく飛びたいのに!」
彼女は悔しそうに腕輪を見詰めた。
「でも、僕は走って逃げるしかないから、飛んで逃げれるのは、羨ましいです」
「そう? そうかなー!」
サラサはぱっと顔を上げて、嬉しそうな表情をした。
「あ! そろそろ着くよ」
前方を指し示して、そのまま彼女は走り出す。
「えっ、サラサさんッ。待ってください!」
「……めんどくせぇ」
驚いて、エルドと一緒にサラサの後を追うと、彼女は白い建物の前で立ち止まった。
「おー! いつ造られた建物なんだろう。近くで見ると益々、白さが際立って──」
サラサの横に辿り着き横を見ると、彼女が壁に指を擦り付けた。
壁から白い粒子がパラリと胞子の中に流れて、輝きながら空気に紛れて行く。
サラサが白銀に染まった指先を、じっと眺めてペロリと舐める。
「な、何やってるんですか!? 今すぐ吐き出してください!」
飛び上がって、サラサの背中を叩こうとしたとき、彼女の口が開いた。
「やっぱり、これ、石塩だー! 別名は確か、砂中宝石! こんな贅沢な使い方するなんて、この建物、どんな宝物が眠ってるの!?」
彼女は一人で捲し立てた後、扉があったんだろう崩れた入口から、中に入ろうとしてエルドに掴まれていた。
──エルドも、サラサさんも、どうしていきなりお腹壊しそうな物、食べようとするのかな! せめて安全確認してから、口に入れて欲しい。
「あの、サラサさん。いきなり走り出したら危ないので、せめて声を掛けてくれると嬉しいんですけど……」
「あ、ごめんね? 興奮してつい。それから、呼び捨てでいいよ? さん付けで呼ばれるとむず痒いから!」
サラサが頬を掻きながら、苦笑いを浮かべた。
「あ、はい。分かりました。それで、石塩って何ですか……?」
エルドが建物の中を確認しながら、先に入って行く。
サラサがその後を追いながら、こちらを振り返る。
「あー、塩の宝石だよ。砂の中から見つかる白い宝石って本で読んだんだー。こっちだと装飾品とかに使われてたり、しないんだね?」
彼女の言葉に昔の記憶が蘇る。
風邪を引いて寝込んだとき、父さんが白い石を砕いて、与えてくれた記憶が。
その時、父さんはそれを、塩の宝石だと言っていたような気がする。
二人の後を追って、口を開く。
「塩の宝石なら知ってます。昔、父に薬として与えて貰いました。石塩って言うんですね」
建物の床は、水浸しになっていた。
透明な水だから、さっきの水が流れてきたのかもしれない。
「え!? 宝石を? こっちでは珍しくない物とか……? いや、待って? そのまま食べたの? しょっぱくなかった?」
サラサがこちらを見て、目を輝かせた。
「丸ごと食べた訳じゃないです! お湯に溶かして、お粥と一緒に食べました!」
手を振って否定すると、彼女はがくりと肩を落とした。
「なんだー。そのまま食べたらどんな味するのか気になったんだけどなー。そっか」
元気の無くなった声音に、なぜか罪悪感が刺激される。
──というか、塩の宝石使ってたら、建物ってこんなに綺麗に残るものなんだなぁ。
横を見ると、壁際に白い本棚があった。棚には胞子を被って風化している書物が数冊あり、ほとんどの書物は紙切れ同然となっていて、床で水浸しになっていた。
「おい、浮遊機って、これか……?」
エルドの声で前を見ると、半壊した木製の鳥みたいな物が、建物の床から天井近くまで占拠していた。
「あーー! 私の浮遊機が……。やっぱり壊れてるーー! もう、この建物を墓標にするしか……。あ、荷物は!?」
サラサが、その浮遊機に駆け寄り、はみ出してる椅子のような場所を探り始める。
──なんか、あの形、どこかで見た事あるような……。どこだっけ。
建物を貫くように広がっている壊れかけの木製の羽。
その部分を見上げながら近寄る。
「良かった、無事だー! お父さん、お母さん、ごめーん!」
サラサの喜びの声が聞こえ、目を瞬く。
「思い出した……、父さんの手帳だ」
手帳に描かれていた、よく分からない絵の一つが、この浮遊機という物だったんだ……。
荷物を大切そうに抱えて、こちらに出てきたサラサを見詰める。
──彼女は賢そうな人だし、ゲンヤさんに言われたように、手帳をチラ見せしても良いかも知れない。もしかしたら、父さんの手帳を読める人かも……。




