廃墟の街
胞子が混ざった砂の上を歩く。
砂から突き出した枯れ枝や、岩石、黒い沼を避けながら、ツキカの方に向かって歩き続けた。
時おり吹き付けてくる生温い風。
胞子と共に、砂埃が舞い上がる。
フードを押さえながら、目を細めた。
周囲の暗さが増して、空気が冷たくなってきた頃、砂で埋もれかけた建物の残骸が、視界の端に飛び込んできた。
顔を上げると、そこかしこに崩れた建物があった。
「廃墟の街だ……」
こんなに沢山の建物がある廃墟は、見たことがない。
エルドは無言で廃墟の道を進んで行く。
置いていかれないように歩きながら、周囲を見渡す。
「え……」
横を向いた時、遠目に見えた木に、薄青い何かが引っ掛かっているのが分かった。
風に煽られて大きく広がったり、地面に向かって垂れたりしている。
「エルドッ、な、何あれ! 何あれっ?!」
エルドの腕を力一杯引くと、彼が小言を言いながら横に来た。
沈黙が落ちる。
そうしている間も、薄青い物は揺れ続けていた。
「髪の毛……ぽくね?」
「……か、髪の毛ぇ!? 人ってこと? 助けないと!」
駆け出そうとして、エルドに肩を掴まれる。
「──つーか、あれ……」
彼の手が緩んだ。
その隙に手を振り解いて木に駆け寄った。
目前で髪の毛が広がる。
枝に逆さまで引っ掛かっている人と目が合い、ひゅっと息が止まった。
「あれ!? ロランとエルドだよね! 久しぶりー。こんな場所で何してるの?」
若葉色の目が、生き生きと輝いている。
「サラサ……さん?」
「やっぱあんたか……。何してんだよ」
──本当に何で木に引っ掛かってるんだろう。それも逆さまで。頭に血が昇らないのかな……。
「えっと、大丈夫ですか?」
サラサは頬を掻いて、苦笑いを浮かべる。
「いや、ちょっと死ぬかと思ったよね! 胞子乱雲恐るべし。浮遊輪があったから良かったものの、浮遊機は天に召されたかも……」
聞いた事のない単語に、顎に指を添えて口を開く。
「浮遊輪……、浮遊機?」
「あ、浮遊輪はねー、これ」
サラサが逆さ吊りのまま腕を捲り、手首に巻かれてる木製の腕輪をこちらに見せてきた。
「我が家の家宝なんだけど、これのお陰で今、この状態なんだよねー。ちょっと見せてあげる」
サラサが腕輪の装飾を押し込むと、彼女の体がふわりと浮き、あっちへよろよろ、こっちへぶわりという、よく分からない動きをして、最後は地面にたたらを踏んで降りてきた。
「ね? 緊急用でしかないんだけど、凄くない? 一般人の私でも空、飛べるんだから!」
腕輪を指差して、彼女は胸を張った。
「神木守じゃないんですか!?」
「……それ、欠陥品だろ……」
サラサの肩ががくりと下がる。
「驚くとこそこ……? もうちょっと、こっちで驚いて欲しかった! この家宝はね、凄いんだよ? 光を貯めることで、何回でも使うことができるんだから!」
彼女が勢い良く近付いてきて、無意識に後退る。
「それは、凄い……ですね?」
「でしょ!」
サラサは満足げな表情で頷く。
「でも、神木守じゃないんですよね……危険過ぎませんか? ルミアの地でも一人でしたけど、一人で大丈夫なんですか……?」
彼女は襟元に引っ掛かってた帽子を被り、先程まで逆さ吊りになっていた木の奥へと顔を向けた。
「それがねー。浮遊機が建物に突き刺さっちゃったから、二人に会えて本当に私って運が良いというか……。浮遊機の状態確認したいから、あそこまで一緒に来てくれると嬉しいなー、なんて」
サラサが指差した方を見ると、そこまで遠くない場所に白い壁の建物が、形を保ったまま建っていた。
周囲の崩れて黒くなっている家とは、明らかに違う。
雨風や胞子に晒されてきたからなのか、所々朽ちてはいるけど、砂に埋もれてはいない。
ただ、建物の上部に木製でできた何かの端っこのような物が突き出ているのが見えた。
「なんか、煙出てるように見えるんですけど、本当にあの建物に行くんですか……?」
「……燃えてるだろ、あれ」
「えっ、本当に!? や、やばい、私の浮遊機が!!」
見る間に煙は広がり、木製の物を炎が包み込んだかと思うと、シューッという音と共に水が吹き出し、炎が消えた。
白い建物に空から水が降り注ぐ。
辺りを静寂が支配した。
煙が晴れると、建物の上部に見えていた、木製の物は崩れ落ちたのか、見えなくなっていた。
「あ、これ、私終わった……? ちょっと待ってよー! ツキカを見る前に人生終えたくないー!」
真横でサラサが崩れ落ちた。
「ツキカって、サラサさんはツキカの場所、知ってるんですか? というか……何が何だか分からなかったんですけど。大丈夫ですか……?」
手を差し出すと、彼女が顔を上げてやつれた表情をした。
「その優しさが染みるよ……。私、ツキカを見に行こうとしてたんだよねー。だけど、水が出たってことは、浮遊機が壊れたかもってことで……。移動手段なくなっちゃった!」
僕の手を取って立ち上がったサラサが、空を向いて顔を覆う。
僕はエルドに向かって小さく口を開く。
「ねえエルド、彼女も一緒に」
「あー、いーんじゃね? 場所知ってんなら、聞けるしな」
小声で話し合った後、頷いてサラサに顔を向ける。
「サラサさん……僕たちはツキカを探して旅してるんですけど、良かったら一緒に行きませんか?」
彼女が顔から手を退けて、勢い良くこちらを見た。
「え!? 二人もツキカに向かってたの? なんて偶然! じゃなくて、ありがとう!! 助かるー」
サラサは顔を輝かせた後、少し崩れた先程の建物を見る。
「助かるついでに、無事な荷物がないか確認したいから、あそこまで、付き合ってくれないかな……?」
彼女が申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせてきた。
エルドと顔を見合せて、彼が面倒そうに頷くのを確認して、サラサに了承の返事をした。




