決意
重苦しい空気が辺りを満たし、誰もが俯いて言葉を無くしていた。
そんな時、先ほどレイアに詰め寄っていた女性が、顔を上げてレイアの側に歩き寄った。
「堂主様。さっきは責めるようなことを言ってすみませんでした……。堂主様は悪くないのに。泣かないでください……」
そういう彼女こそ、今にも崩れ落ちそうなほど、憔悴しきった表情をしていた。
「私、もう少し、考えてみようと思います。やっぱり、イオール様を見捨てるなんて、悔しいですから……」
彼女はレイアに向かって、ぎこちない笑顔を浮かべた。それでも、後ろ手に回された手は、ここからでも見えるくらいに震えていた。
「……本当か……?」
レイアがはっとしたように顔を上げて、彼女へと視線を向けると、女性はレイアへ向かってゆっくりと頷いた。
「はい。ただ、数日、時間をください。考えを纏める時間を」
彼女の行動を黙って見ていた他の神木守たちが、一人、また一人と、声を上げ始める。
「堂主様。俺も、鍛錬してきます。力を取り戻すために」
「……私も」
広間に集まってた神木守たちが、レイアに頭を下げて広間から出て行ったり、自身の武器をじっと眺めて、拭き始めたりと、次々と動き出す。
「……お前、それ遺書か?」
「もう一度書き直す。後悔しないように」
近くを横切っていく神木守の会話が聞こえてきた。
──強いな……。でも、彼らが死なないように、僕も頑張ろう。そのためにも、早く全快しないと……。
レイアが彼らの行動をぼんやりと見送っていたと思うと、広間にケラスの姿だけになった時、彼女はぐいっと涙を振り払い、強い眼差しで窓の外を見詰めた。
ケラスはそんなレイアをほっとしたような表情で見た後、僕の方に歩いてきた。
「ロラン君。君には、とても感謝している。俺はあの時、本当はもう諦めかけていたんだと思う。……治しても、彼らはもっと重症になって戻ってくる。俺の治癒が、彼らを死地に追いやってるんじゃないかと、考えたりしていたら、段々と力が弱まってしまったんだ」
ケラスが外に出て行く神木守たちへと顔を向け、遠い目をした。
その後、自身の手のひらを見詰めて、目を閉じる。
しばらく沈黙して、彼が目を開けてこちらを見た。
「だけど君が躊躇なく彼らを治していく姿を見て、次々と皆が治っていく光景を目にして、俺は救われた。あの時、俺の力は戻ってきたんだ。だから、ありがとう」
ケラスに穏やかな眼差しを向けられて、一気に頬が熱くなった。
父さんと同じ力を持つ人に、面と向かってこんなに褒められると、どうしたらいいか分からない……!
俯いて顔を覆う。
「……ケラスさんのお力になれて、良かったです……」
ケラスに軽く肩に手を置かれて、顔を仰ぎながら彼と目を合わせる。
彼とぎこちなく笑い合ったあと、彼にまだ本調子じゃないんだろうと指摘され、僕は部屋に戻された。
◆◆◆
寝台に座って、エルドに作って貰ったお茶を飲む。
ほっと息をつきながら顔を上げると、エルドが壁に寄りかかって、窓の外を眺めていた。
「エルドは凄いな。あそこで皆を立ち直らせる言葉を言えて」
「……はっ?」
彼が腕を組んだまま、こちらに顔を向けて、眉を寄せた。
「どこがだよ。すげーのは、あいつらの方だろーが」
「え……?」
瞬きをして、首を傾げる。
「神木があんな状態なのに、あいつらは今まで耐えてたんだぞ。俺は、好き勝手言っただけだ。……逃げ道がなかっただけかもしんねーがな。逃げ道があったとしても、ぎりぎりまで戦ったんじゃね?」
エルドはそう言って、また窓の外へと目を向けてしまった。
「でも僕は、あんな説得の仕方できないから、やっぱりエルドは凄いと思うよ」
彼は横目で僕を見て、何も言わずにまた遠くに視線を向けてしまう。
──エルドは何を見てるのかな。イオール様? それとも、外で鍛錬してる神木守たちだろうか。




