限界
治癒が必要な人たちを治したあと、囲んでくる人たちをレイアが制止した。
その後、彼女は彼らをその場に残して、僕とケラスを促して、仕切りの外側に出た。
仕切りの側では、エルドが腕を組んで壁に寄り掛かって待っていた。
エルドに声を掛けようとしたとき、彼の眉間に皺が寄り、その口が開く。
「顔色が悪りぃ。あんたら、こいつが無茶するのを黙って見てたのか」
「ちょ……僕は……だいじょ……っ」
ケラスに治癒して貰っても治りきらなかった喉で、言葉が詰まる。
「すまない。私の責任だ。身内の身を優先してしまった」
「堂主のせいではっ! 俺の力が足りなかったばかりに。責めるなら俺を……」
ケラスがレイアを庇うように、エルドの前に立った。
「庇い合いを見てるつもりはねーんだよ。つーか、こいつの声、なんで枯れてんだ。ほとんど出てねーし」
「それは……僕の治癒が……とりあえず……お茶、作らせて……」
肩の痛みに苦戦しながら、鞄から祭祀長に貰った巾着袋を取り出した。
──角砂糖がまだ残ってて良かった。
「あー! 俺が作るから、そっちに行って座れ!」
エルドが僕の手から巾着袋を取り、奥まった部屋を指差した。
「堂主。部屋くらい貸せ!」
「あ、ああ。そのつもりだったんだが。……お茶?」
エルドが荷物から水を取り出し器に入れて、手に灯した炎で温め始めた。
◆◆◆
レイアとケラスに案内されて、僕とエルドは奥の部屋にきた。
「で、なんでこいつはこんなに消耗してるんだ? つーか、こいつの治癒、どんな力なんだよ。声が枯れてんのも、力のせいか?」
「堂主、彼は?」
「ああ、彼は……すまない、名はなんて言うんだ?」
ケラスがレイアに視線を向けると、彼女は首を傾げてエルドを見た。
「……カイだ」
エルドは顔を顰めたあと、ぼそりと名乗った。
なんだか、露骨に嫌そうだった。
その様子を見て、レイアとケラスが顔を見合せた。
その後、ケラスがエルドに顔を向けて、口を開く。
「君は、彼の力について知らないのか?」
エルドの目が鋭くケラスを射抜いた。
彼がその視線に、肩を竦める。
「いやまあ、俺も見るのは初めてだったな……」
僕はエルドに作って貰ったお茶を飲みながら、体の痛みが引いていく安堵感に、息をついた。
「彼の力は、治癒系でも珍しい型で、他人の腐敗を自身の体に溜めて、浄化するものだと、昔書物で読んだ記憶がある」
僕はケラスを見て、首を傾げた。
──僕の治癒って珍しかったんだ……。誰にも言われなかったし、知らなかったな。父さんと旅してて、大きな地には、寄ったことなかったし。
横からエルドの視線が突き刺さってきて、彼に顔を向ける。
「どうしたん……ですか?」
──あれ? 喉の痛みは消えたのに、まだはっきり話せないな……。あ、そう言えば、ゲンヤさんが祭祀長の薬も万能じゃないって言ってたような。
「それって、下手したらこいつ死ぬんじゃね?」
エルドが険しい表情で呟いたあと、頭を乱暴に掻いた。
「あーロラン! しばらく治癒禁止だ、禁止! 休め! 寝てろ! 治るまで起きてくんじゃねー!」
「えっ!? そんな……僕は大丈夫……」
「ふざけんな! 自分の状態を自覚しやがれ! 子どもかッ」
むっとして言い返そうとして、エルドに無理やり寝台に寝かされる。
「堂主。こいつの体調が治ったら、俺らはここを発つ」
「……あ、それは少し難しいだろう──」
エルドとレイアの会話が遠ざかって行く。
旅の疲れが溜まっていたのか、睡魔が襲ってきて、そのまま視界が暗くなっていった。
──僕は子どもじゃない……。限界だって……分かってる……って。




