祝宴
即席の焚き火の周りで踊る子どもたちや大人。
テーブルを囲んで祝い酒を飲む人たち。
エルドもその中に混ざるのかと考えてたのに、予想に反して僕の隣で神木を見上げながら、ぼんやりとしていた。
彼は皿にある料理にも手を出していなかった。
「どうしたんですか?」
声をかけると、テーブルに肘を突いて頬を支えているエルドが、視線だけこちらに向けて、気怠げに口を開く。
「あー、何でもねー」
手に持っていた肉が滑り落ちそうになる。
「なんでそんな意味ありげに……? 気になって仕方ないんですけど」
エルドの眉が歪んだ。
「めんどくせーな! ……そろそろ俺はここを発つ」
「えっ!? 今から?」
エルドが肉を手に取って立ち上がるのを見て、目を見開く。
「ちげーよ。明日だ」
「僕も行きます!」
ルミアの地は広がったけど、人は少ないままだし、ここに置いてかれたら、ツキカに向かうどころか、どこにも行けなくなる!
「……なあ、あんたは何でそんな必死なんだ? 一人で移動できねーのに、なんで旅なんてしてるんだよ」
彼は腐敗の地に顔を向けて、肉を口に運んだ。
言葉に詰まり俯く。
胸元の小瓶を握り締めて、唇を噛む。
「海を探してるから。……海じゃないと駄目なんだ! だって、父さんが海を見てみたいって言ってたんだよ!」
父さんの寿命が縮んだのは僕のせいじゃないの? 僕の目がすぐに治ってたら、父さんは旅を続けてたはずなのに。
……きっと海でなら、芽吹いてくれるはずだよね。
視界が滲み、胸元の手にぽたりと雫が落ちる。
「……って、何だよ、泣くなよ! 俺が泣かせたみたいじゃねーか!」
はっとして、目を拭いながら顔を上げる。
「ごめん」
「いや、別に謝らせてー訳でもねーから……」
エルドは髪を乱暴に掻いて、ため息をつく。
「つーか何? お前自身が見たい訳じゃねーの? その海ってやつをよ」
訝しげな表情で見下ろされ、びくりと肩が震える。
「僕が……海を?」
そりゃ、僕だって見てみたいから旅してるに決まってる。そうじゃなかったら、もっと安全に旅してたよ!
「ねえねえ、何の話してるの? 子どもたちが、一緒に踊ろーって言ってるよー!」
サラサの声が遠くから聞こえて、目を見開く。
目元をさっと擦って、ぎこちなく微笑を浮かべて立ち上がる。
焚き火の方を見ると、子どもたちと一緒になって踊ってるサラサの姿があった。
彼女に手招きされて、軽く頷きを返す。
「今行きます」
少し掠れた声が出た。
神木の花を見上げて、深呼吸してから、焚き火の方に向かった。
◆◆◆
子どもたちと踊った後、祝宴の片付けを手伝う中、焚き火の始末をしているエルドが目につき、近付いた。
「明日なんですけど、僕も連れてってくれますよね……?」
エルドが作業の手を止めて、物凄く渋い表情をした。
「しつけーな。そんなに来たいなら勝手にしろよ、ったく」
顔の強ばりが解け、口元が緩む。
「はい! 勝手にします!」
勢い良く返すと、エルドの表情が益々険しくなったけど、あまり気にならなかった。
彼が無言でため息をついて、作業に戻るのを眺めて、空を見上げる。
神木の枝先が空を覆い、隙間から月の光が柔らかく射し込んでいた。
──ツキカの地を探そう。
小瓶を握り締めて、神木から背を向け、腐敗の地を見て、唇を噛み締めた。




