開花
腰掛けている神木の根が動いて、目を見開きながら立ち上がる。
慌てて子どもたちを見ると、みんな一様に神木を見上げて口を開けていた。
神木の枝が広がっていく。
強い風に煽られ、子どもたちを守りながら、片腕を顔の前にかざして風を防ぐ。
目を細めて神木を見上げる。
蕾がゆっくりと開花していく。
「キラキラしてる」
「わーぁ、星みたい」
空気中に白と桃色の星花が輝いて、風に乗って腐敗の地の方に、一瞬で流れて行くのが見えた気がした。
細かった神木の幹が大きくなっている。
「成長……した」
風がやみ、緑の葉だけだった神木に白と桃色の小さな花が、所々に塊となって一つの花みたいに咲いていた。
「こんな場面に立ち会えるなんて、夢みたい……」
聞き覚えのない声が近くから聞こえてきて、目を瞬く。
視線を巡らせると、子どもたちの横に、見覚えのない女性が立っていた。
独特な帽子を被っていて、その陰から若葉色の目が溌剌と覗いていた。
「えっと、村の人、ですか……?」
聞きながら、眉を寄せる。
彼女の格好は、村人のものとも、旅装束とも言い難いけど、動きやすそうな服装だった。
彼女は帽子を脱いで、首を横に振る。
帽子に隠れていたらしい薄青の髪が、豊かに広がった。
「いいえ。私は今、この村に来た旅人なの。ねえねえ! それより私、今とても感動してるの! さっきの、あの神秘的な光景! これぞ、旅の醍醐味だと思わない!?」
勢いよく近づいてきた彼女に驚いたのか、子どもたちが僕の背後に隠れてくる。
彼女はそのままの勢いで、僕の手を取ろうと迫ってきて、反射的に仰け反って、その手を避ける。
「そ、そうですね。でも、今この地に? 一人で? 夜なのに?」
「そうそう。一人でこの地に、夜だけど!」
じりじりと後退りながら、首を傾げる。
僕が思ってるより、一人で旅できる人多いのかな……。エルドも一人だし。僕が弱いだけ……?
「……今ので、村の人たちも驚いてると思うので、よかったら一緒に村人たちのとこに行きますか?」
「ロラン兄ちゃん! だめだよ、まずは名前聞かなきゃ! 怖い人かもしれないんだよ!?」
男の子の言葉に同調するように、子どもたちが囁いてくる。
「あ、私、驚かせちゃったかな? ごめんね」
彼女は目を丸くした後、頬を掻いて、眉を垂れさせた。
「私はサラサ。通りすがりの旅人です。よろしくね」
彼女は帽子を胸元に当てて一礼した後、顔を上げて柔らかく微笑んだ。
その表情を見て少し肩の力が抜けた。
「僕はロランといいます。よろしくお願いします」
お辞儀をして顔を上げると、彼女はにこりと笑って頷いた。
◆◆◆
祈堂の傍までくると、大慌てで戻ってきたらしいエルドたちと、興奮気味の村人たちの姿があった。
エルドに話を聞くと、ルミア様の成長を祝って、急遽、祝宴を開くことになったらしい。
「で、この女は誰だ?」
エルドが鋭い視線でサラサを見て、手に小さな炎を纏わせて揺らした。
「待って待ってエルド! サラサさんは旅人です」
エルドの視線から彼女を隠して、炎を消すように促す。
「……そうかよ」
彼は祝宴場にちらりと視線を向け、手を振って炎を消した。
その後エルドは、僕の後ろに目を向けた。
「村に危害を加えんじゃねーぞ」
彼は低く鋭い声でそう言って、祝宴場に歩き出した。
「怖ー! ものすっごい威嚇されたんだけど! いやまぁ、でも、胞子乱雲に突っ込むよりはまだ……」
──胞子乱雲? って何だろ。
眉を寄せて首を傾げる。
「あぁ! 忘れよ忘れよ! 私も宴に混ぜてくださーい!」
サラサに腕を引っ張られて目を丸くする。
彼女の長い髪が、頬に触れた。
「ちょっ、何で僕を引っ張るんですか! サラサさんの髪で前が見えません!」
「んー? ごめんごめん! だけどさ。私たちの祈りが神木に届いた記念すべき日なんだよ!? 細かいことは忘れて祝わなきゃ!」
僕たちというか、村人たちの願いが届いたんじゃないかな……。ルミア様に。そうだったらいいと僕は思う。
近付いてくる宴会場に目を向けて、笑い合っている村人たちの姿に、自然と口角が上がった。




