表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺灰が芽吹く世界で──神木と腐敗の世界で、海を探して──  作者: ヒトミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/18

旅立ち

窓から射し込んでくる光に目を細めながら、借り小屋のベッドに腰掛ける。


道具屋の主人からぶっきらぼうに渡された真新しい鞄の中を漁り、麻の包帯を取り出して、膝の上に置いた。


左手の人差し指と中指に巻き付けている包帯。


結び目に指を掛けると、包帯が緩く解けて、布の隙間から肌色が覗いた。


「これは……しばらく残りそう」


包帯を外した指は、肌色と黒ずんだ痣の(まだら)模様になっていた。


初日の、皮膚の中が()けつくような痛みは無くなったけど。


右手で左手指の斑模様を撫でて、小さくため息を吐いた。


まあ、指を動かしても痛く無くなったし、良しとしよう。


膝上の新しい包帯の端を持ち上げ、左指に巻き付けた。


ベッドに背中から転がり、新しい包帯を巻いた左手を、窓からの光に(かざ)して目を細める。


ニライと道が繋がって五日(いつか)か。良い天気だなあ。父さん。旅立ち日和だよ。


◆◆◆


身支度を整え、借り小屋から村の中心地にある神木守堂に顔を出すと、深いクマをこさえた堂主に迎え入れられ、あれこれと世話を焼いて貰ってしまった。


「……ハクエンさんにも、随分助けられたけれど」


堂主が、僕の胸元で揺れている小瓶をじっと見て、祈りを捧げるように頭を下げた。


「ここで芽吹(めぶ)くのを待つのは、ロランさんとしては、違うんだろうね……」


しばらく静止していた堂主は、囁き声でそう言いながら頭を上げて、僕と視線を合わせてくる。


「そう……ですね」


堂主から視線を逸らし、胸元の小瓶を両手で包み、服の内側へと仕舞う。


「父は、海が見える場所で芽吹くと思うので」


僕は、父さんを海に連れて行く。


「……くれぐれも体には気をつけて」

「もちろんです」


堂主に握手を求められ、頷きながらその手を握り締めた。


「アレース様のご加護がありますように」

「ありがとうございます。……堂主様もお元気で」


肩から包み込むように、堂主の腕が背中に触れてきた。


それに身を任せて、僕はゆっくりと頭を下げた。


◆◆◆


背後に柵。目前にはキラキラした眼差しで僕を見上げてくる少年と、境界の方を見つめて目を潤ませている少年の母親が立っている。


「ロラン兄ちゃん。この間はありがとう! 指を治してくれて」

「こらエディ。兄ちゃんとはなんですか。神木守様と言いなさい」


少年は、一週間前に指を腐怪(ふかい)にやられて、神木守堂に母親と共に駆け込んで来た患者だった。


あと少しで少年の指が腐り落ちる寸前だったのを思い出す。


「エディ君。元気になって良かった。好奇心は程々にね」


屈み込んで右手で少年の頭を撫でながら、見られないように、包帯を巻いた指がある左手を服の内側に隠した。


「うん! アレースの木、ニライの木と繋がったんだよね? だったらもう、柵の外に出ても安全でしょ?」


少年の言葉を聞き、彼の母親と視線を交わす。


彼女は困ったように微笑んで、その後表情を引き締める。


あとで言い聞かせるのかもしれない。


僕は少年に曖昧な笑顔を向けた。


「ニライに向かわれるのですか?」


彼女のその言葉に、じゃれてくる少年の相手をしながら、姿勢を正して頷く。


「はい。まずはニライに。それから先は……追々考えます」


彼女の目に僕の姿が映り込む。


じっと見詰められた後、深々と頭を下げられた。


「息子を救って頂き、本当にありがとうございました。このご恩は決して忘れません」


予想もしていなかった大袈裟な扱いに、右手をあわあわと振る。


背中にむず(がゆ)さが走り、頬が暑くなった。


「も、もう行きますね! 僕もこの地の事は忘れません。お世話になりました」


軽く頭を下げて、ニライの方へと体を向けた。


「ロラン兄ちゃん、またね!」

「……エディ君……。そうだね……また」


会おう……とは、言えなかった。


それでも、いつか、風の噂でも伝えられたらいいな。


最後に一度、少年と彼の母親、アレースの地に向かって手を振り、僕はニライに向けて、開いた柵の間を通り抜けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ